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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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23.レーニちゃんとふーちゃんとまーちゃんの初めての写真

 レーニちゃんの滞在は翌日までだった。

 翌日にはわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんとエクムント様とレーニちゃんで湖にピクニックに行った。

 ピクニックに行く前にカサンドラ様からわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんにプレゼントがあった。


「辺境伯領の強い日差しは白い肌には堪えるだろうから、これを使うといいよ」


 渡されたのは裾が美しいレース模様になっている日傘だった。

 この国に日傘を使う風習があったなんてわたくしは知らなかったので、驚いてしまった。

 この国では小雨程度では傘を使うことがない。雨が酷く降ってくると傘を使うこともあるのだが、レインコートやコートで済ませることが多い。日傘は中央で使っているひとは全く見かけなかった。


「傘を差すのですか?」

「強い日差しを避けるために、辺境伯領の貴族のレディは日傘を差すんだよ。好きな色を選ぶといい」


 カサンドラ様の用意してくださった日傘に目を丸くしているクリスタちゃんだが、説明されて傘を選ぶ。

 日傘の色は淡い空色と、淡いピンクと、淡い黄色があった。


「わたくし、ピンクがいいです」

「わたくしは黄色がいいです」


 クリスタちゃんはピンクを、レーニちゃんは黄色を選んでいる。カサンドラ様は前もってわたくしたちの好きな色をリサーチしていたのだろう。

 残った空色はわたくしの大好きな色だった。


「カサンドラ様、ありがとうございます」

「大事に使わせていただきます」

「綺麗な傘。素敵です」


 それぞれにお礼を言って、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは日傘を持って馬車に乗り込んだ。

 馬車の中ではふーちゃんとまーちゃんが姿勢よく座っている。ふーちゃんもまーちゃんも体が大きくなって、抱っこして乗らなくていい年齢になっていた。


 湖に着くと、馬車の後ろに控えていたもう一台の馬車から器具を持ったひとたちが降りて来る。

 去年のことがあったので、わたくしもクリスタちゃんもすぐにエクムント様の考えに気付いた。


「写真を撮るのですね!」

「わたくし、二回目ですわ」


 写真という言葉にレーニちゃんが首を傾げる。


「写真とは、精巧な絵のように物が写せるという、あれですか?」

「レーニ嬢は写真を撮ったことがありますか?」

「いいえ。わたくし、初めてです」

「エクムント様、写真とはなんですか?」

「しゃしんは、えなのですか?」


 レーニちゃんは写真が初めてだし、ふーちゃんもまーちゃんも写真のことをよく知らない。エクムント様はふーちゃんとまーちゃんにも写真について説明していた。


「写真とは、実物そっくりに、絵よりも短時間でひとや物を写す技術です。少し時間はかかりますが、人数分撮ってもらいませんか?」

「私の分もあるのですか?」

「わたくしもとってもらえるのですか?」

「フランツ殿とマリア嬢の分もありますよ」


 写真の説明を聞いて、自分たちの分もあると知って、ふーちゃんとまーちゃんは目を輝かせていた。

 銅板に写し取る写真は撮影に一、二分かかる。じっとしているのが何回続いただろう。

 写し終わると撮影班は馬車に戻って現像して写真を額装してくれているようだった。


「写真はガラスで守らないと表面が傷付いて剥がれてしまいます。額装させていますから、その間、湖を歩きましょう」


 エクムント様に促されてわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんとエクムント様は湖の周囲を歩き始めた。林の方に入っていくと、木の上をリスが走り回っているのが見える。


「レーニ嬢、リスですよ!」

「可愛いですね」

「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、リスがいます」

「ひとを怖がっていませんね」

「この湖ではリスは狩られることがないのでしょうね」


 話していると、急にリスが木の幹を伝って、巣穴に逃げ込んだ。頭上を眺めていると、音もなくフクロウが飛んでいく。

 フクロウはリスに逃げられたようだ。


「フクロウがいました!」

「大きなフクロウでしたね」

「すーっとなんのおともしなかったわ」

「フクロウにリスは気付いていたようですが、わたくしは気付かなかったですわ」

「わたくしも」


 はしゃぐふーちゃんとまーちゃんに、わたくしもクリスタちゃんもリスがどれだけフクロウを警戒しているのかと感心してしまった。

 林をしばらく歩いて戻ってくると、写真の額装が終わっていた。

 両手の上に乗るくらいの小さな額を手渡されて、わたくしはそれを見詰める。

 鏡写しになっているが、白黒でわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんとレーニちゃんとエクムント様が写っていた。


「写真なんて貴重なもの、ありがとうございます」

「小さな絵みたいですね。私たちが写っています」

「おねえさまたちと、おにいさまと、わたくしと、レーニじょうと、エクムントさまがうつっています。わたくし、いっしょうだいじにします」


 この写真はふーちゃんにとってもまーちゃんにとっても大事な成長の記録となるだろうし、いい思い出になっただろう。


 湖のほとりに敷物を敷いてバスケットを開けるとサンドイッチがぎっしりと詰まっていて、水筒にはフルーツティーが入っていた。敷物の上に座ってわたくしたちは昼食を食べた。


 湖から帰ると、ふーちゃんとまーちゃんは胸に抱いていた写真を一番に両親に見せに行っていた。


「お父様、お母様、見てください。エクムント様が写真を撮ってくださいました」

「わたくしとおねえさまたちとおにいさまとレーニじょうとエクムントさま、ぜんいんぶん、とってくださったのです」

「フランツにも、マリアにも一枚ずつあるのだね」

「よかったですね、フランツ、マリア」

「はい、とてもうれしいです」

「レーニ嬢との思い出になります」


 ふーちゃんもまーちゃんも両親に報告してとても嬉しそうだった。


 わたくしとクリスタちゃんも両親に報告することがあった。


「お父様、お母様、カサンドラ様に日傘をいただきました」

「辺境伯領では日差しを避けるために傘を差すようなのです」

「とても綺麗なレース柄の傘です」


 両親に傘を見せると、両親も日傘については知らなかったようだ。


「晴れの日に差す傘があるのですね」

「エリザベートは空色、クリスタはピンクで色が違うのだね」

「空色とピンクと黄色を用意してくださっていたのです。わたくしが空色が好きで、クリスタがピンクが好きで、レーニ嬢が黄色が好きと知っていらっしゃったようです」

「さすがカサンドラ様だ」

「後でお礼を言っておかなければいけませんね」


 両親は日傘についてカサンドラ様にお礼を言ってくれると言っている。わたくしも好きな色を揃えてくださっていたことについて、もう一度お礼を申し上げたい気分だった。


 お茶の時間にはカサンドラ様もエクムント様と一緒にわたくしたちとお茶をした。ケーキや軽食を取り分けて、フルーツティーやミントティーを飲んでいると、両親がカサンドラ様とエクムント様のお礼を言う。


「カサンドラ様、娘たちに日傘をありがとうございました」

「好きな色も考えてくださっていたようで、ありがたいことです」

「エクムント様には写真を撮っていただいたようで、フランツとマリアも自分の分があると喜んで見せてくれました」

「フランツとマリアにまでありがとうございました」


 頭を下げる両親に、カサンドラ様もエクムント様も微笑んでいる。


「日傘は辺境伯領ではお洒落でもあるから、プレゼントしたかったのですよ。年頃の貴族の淑女はよく差しています」

「写真は新しい技術ですが、最近は数分で撮れるようになっているので、人数分撮るのもそれほど時間はかかりませんでした」


 和やかなお茶の時間に、出されたポテトチップスをたくさん取り分けて、ふーちゃんとまーちゃんがもりもりと食べていた。

読んでいただきありがとうございました。

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