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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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17.国王陛下と王妃殿下からのお詫びとお礼

 レーニちゃんのお誕生日の翌日、王都に帰ろうとすると、両親とふーちゃんとまーちゃんも大急ぎで支度をしてきて馬車に乗った。


「国王陛下から別荘に呼び出されている」

「レーニ嬢のお誕生日会のことです」


 両親の言葉にわたくしは心当たりがあった。ユリアーナ殿下のことに違いない。

 わたくしとクリスタちゃんも馬車に乗って国王陛下の別荘まで向かった。国王陛下の別荘は王都の端にあって、ディッペル公爵領からは馬車で行ける距離にある。

 別荘では国王陛下と王妃殿下とユリアーナ殿下がわたくしたちディッペル家の一家を待っていた。


「ユストゥス、よく来てくれた。先日のリリエンタール家のお茶会でユリアーナがエリザベートに熱い紅茶をかけてしまって、火傷を負わせたとのことではないか」

「そのことですが、国王陛下、その場にいたエクムント殿が迅速に処置をしてくださったので、痕も残らずに治っております。軽い火傷は素早く流水で冷やせば、痕も残らずに治るのです」

「そうだったのか。帰ってきたユリアーナが私と王妃に泣きながら話をしたのだ。外だから我慢していたのだが、ユリアーナはまだ四歳、してしまったことの重大さに、泣いて話がうまく聞けなかった」

「その中でも、聞き取れたのがユリアーナが意地を張って立って食事をしようとしてカップを落としてしまって、エリザベート嬢に火傷を負わせたということでした」


 会場では気丈に振舞っていたユリアーナ殿下だったが、やはりまだ四歳、やってしまったことに対して罪悪感もあっただろうし、両親を前にして安心もしたのだろう。泣いてしまったということにわたくしは納得していた。


「恐れながら、わたくしから説明をさせていただいてよろしいですか、国王陛下?」


 わたくしが前に出ると国王陛下が頷く。


「お願いしよう、エリザベート」


 国王陛下の許可を得てわたくしは話し出した。


「ユリアーナ殿下は最初、マリアを誘ったのですが、マリアが座ってお茶をすることに賛成できずに、わたくしとエクムント様を誘いました。軽食は乳母に取り分けてもらっていたようでしたが、紅茶は自分で給仕に頼まれました。わたくしとエクムント様がすればよかったのですが、口を挟む隙もありませんでした」


 わたくしとエクムント様が紅茶を頼んでいれば、渡すときにミルクポッドも一緒に渡して紅茶の温度を下げることができた。それができなかったのはわたくしとエクムント様の失態ともいえる。


「ユリアーナ殿下は紅茶を一口飲んで、その熱さに驚いて、カップを落としてしまったのです。入れたての熱い紅茶が体にかかると危ないと思ったので、わたくしはユリアーナ殿下を引き寄せて守りました。そのときにわたくしの手首に紅茶がかかってしまったのです」

「そうだったのか。順序だてて教えてくれてありがとう」

「ユリアーナはできないこともできると意地を張ってしまう年齢なのです。ハインリヒとノルベルトに気を付けるように言っておいたのですが、あの二人は甘い兄なので強く言えなかったのですね」

「火傷に関しては、エクムント様がすぐに洗面所に連れて行ってくださって、クリスタが付き添って流水で冷やしたので痕も残らずに治りました。御心配には及びません」

「それならばよかった」

「ユリアーナは心から反省しております。ユリアーナが申し訳ありませんでした。そして、ユリアーナを守って下さってありがとうございました」

「ユリアーナがすまなかった。ユリアーナはまだ小さい。熱い紅茶を浴びていたら大変な火傷を負っていただろう。助けてくれてありがとう」


 王妃殿下と国王陛下からお詫びとお礼をいただいて、わたくしは深く頭を垂れる。


「ユリアーナ殿下が無事でよろしかったです。ユリアーナ殿下はその後は反省してできないことはできないと素直に仰っていました」

「四歳でお茶会にどうしても出たいと言ったのも、ディッペル家のマリアが四歳でお茶会に参加したと聞いたからなのだ」

「ディッペル家のマリア嬢は礼儀作法もテレーゼ夫人から教え込まれていますが、ユリアーナはまだお茶会には早かったかもしれません」

「おとうさま、おかあさま、エリザベートじょう、ほんとうにごめんなさい。わたくし、おとうさまとおかあさまがいうとおり、ごさいのおたんじょうびまで、おちゃかいにはでません」

「ユリアーナ、分かってくれたのだな」

「その間に礼儀作法のお勉強を致しましょうね。何でもできるのが偉いのではありませんよ。できないことはできないと認めて、その場に合った振る舞いをすることが正しいのです」

「はい、おとうさま、おかあさま」


 ユリアーナ殿下は末っ子なので可愛さの余り強請られたらお茶会に参加させてしまっていたが、本来ならば貴族のお茶会への参加は六歳になるくらいが初めてになるのだ。ユリアーナ殿下は王族なので五歳で参加してもおかしくはなかったが、まーちゃんのように四歳から参加するのは少々無理があったのかもしれない。

 ユリアーナ殿下本人がそのことを認めていて、五歳のお誕生日まではお茶会に出ないと宣言したので、わたくしも胸を撫で下ろしていた。


「これで話は終わりだが、せっかく来たのだからお茶をしていかないか、ユストゥス、テレーゼ夫人」

「エリザベート嬢とクリスタ嬢は学園がありますから、そちらに行ってもらって、わたくしと国王陛下とディッペル公爵夫妻とフランツ殿とマリア嬢とユリアーナでお茶をしましょう」

「喜んでご一緒させていただきます」

「フランツもマリアも、年の近いユリアーナ殿下とお茶ができて嬉しいと思います」

「ディッペルこうしゃくふさい、フランツどの、マリアじょう、ごいっしょしましょう」

「私でよろしければ」

「ユリアーナでんか、ミルクポッドはたのめばだれでもとってくださいますよ」

「そうですね、マリアじょう。わたくしもマリアじょうをみならって、しゅういのかたをたよります」


 話は纏まったようで国王陛下の別荘で両親とふーちゃんとまーちゃんは、国王陛下と王妃殿下とユリアーナ殿下とお茶をすることになったようだ。

 わたくしとクリスタちゃんは馬車に乗って列車に乗り継いで、学園の寮まで帰った。


 学園では授業が始まっていた。

 寮で制服に着替えて、急いで授業に入ると、後ろの方の席に座る。普段は前の方の席に座っているので、落ち着かない気分になるが、勉強に集中する。


 ちょうど詩の授業で詩の解釈をオリヴァー殿が述べているところだった。


「枯れない花というのは、消えない真心のことだと思います。愛情を注がれていれば自分の真心は消えない、そう詠っているのだと思います」

「素晴らしい解釈ですね。それでは、次の授業までに、次のページの詩の解釈を考えて来てください」


 授業が終わると、ハインリヒ殿下がオリヴァー殿に声をかけている。


「オリヴァー殿は今日の詩に関してどう思いましたか?」

「愛情を注がれている限り自分は枯れない花になるのだという一行から、相手の愛情を求め、それがある限りは美しくあろうとしている姿が感じられました」

「美しくあろうとしている姿ですか?」

「はい。自分を花に例えて、咲き誇るという単語を使っているくらいですから、自分の美しさに自信があるのだと思います」


 オリヴァー殿が深くまで詩を読み説いているのにわたくしは驚いてしまう。


「オリヴァー殿は詩がお好きなのですか?」

「はい。ノエル殿下の書かれる詩は、人生を謳歌して、心に明るさをもたらしてくださるような気がします。詩の解釈も深刻に考えずに、明るく考えればいいと思うと、気が楽です」

「深刻に考えずに明るく……」

「そうです。深く考えずに、ほとんどのことを恋心や真心といった『心』に関連することに変えていけば読み取れます」


 オリヴァー殿に問いかけたミリヤムちゃんが感心している。


「そういう考え方もあるのですね」

「わたくしもむやみやたらに真面目に考えようとしていました」

「もっと軽く明るく考えればよかったのですね」


 ミリヤムちゃんもわたくしもハインリヒ殿下も目の前が開けたような気がしていた。


 オリヴァー殿ともっと交流を持ちたい。

 オリヴァー殿は中央の詩を理解する逸材で、中央と辺境伯領を繋ぐ存在になれるのではないだろうか。


「オリヴァー殿、わたくしは夏休みに辺境伯家に招かれています。そのときに、オリヴァー殿も辺境伯家に招待していただくようにお願いしてもいいですか?」

「光栄です。とても嬉しいです」


 まずその一歩としてわたくしは夏休みに辺境伯家にオリヴァー殿を招く算段をしていた。


読んでいただきありがとうございました。

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