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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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14.オリヴァー・シュタール侯爵令息

 学園でわたくしは最大の危機に陥っていた。

 先生に指名されたミリヤムちゃんが教科書を開いて指定されたページを読む。


「わたくしの胸の小鳥は、あなたの名前を呼んで鳴くのです。この美しい春の夕べ、あなたはどこで誰のことを考えているのでしょう。わたくしの胸の小鳥があなたの名前を呼ぶたびに、わたくしはあなたに会いたくてたまりません。小鳥のように自由の翼であなたのもとへ飛んでいけたらいいのに」

「ミリヤム・アレンス子爵令嬢、よく読めました。この詩の解説をどなたにしていただきましょうか? 自信のある方は挙手を」


 授業なのにわたくしは挙手できずにいる。

 学年で首席を取りたい気持ちはあるのだが、詩だけはどうしてもわたくしが理解できるところではなかった。

 ハインリヒ殿下を見れば、ハインリヒ殿下も硬直したかのように手を上げずにいる。


 一人の男子生徒が手を上げて指名された。


「オリヴァー・シュタール侯爵令息、解説をどうぞ」

「この詩は胸に宿る恋心を小鳥に例えたものと思われます。春の夕べに会えない好きなひとの元へ、小鳥が解き放たれて自由に飛んでいくように、飛んでいけたらという思いを込めた詩です」

「素晴らしい解釈ですね。詩にはそれぞれ自由な解釈があります。詩の内容をよく読んで自分の心に問いかけて、皆さんも解釈してみてください」


 次の授業までに次のページの詩を解釈してくるのが宿題となった。

 わたくしもハインリヒ殿下もげっそりとしている。

 他の授業は問題なくわたくしもハインリヒ殿下も答えられないことがないくらいなのに、詩の授業だけはどうしても苦手だった。


「ミリヤム嬢、詩の授業はどうですか?」

「わたくしには難しいようです。詩の意味をあんな風に読み取ることができません」

「読み取ろうと思えば読み取れるのでしょうが、何か、抵抗感があって……」


 わたくしは詩の意味を理解したくない自分に気付いていた。なんでこんなに詩がこの国で流行ってしまったのか全く分からない。

 原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では詩の描写はなかった気がする。

 わたくしがクリスタちゃんの運命を変えて、そのせいでノルベルト殿下の運命も変わって、ノエル殿下が隣国からオルヒデー帝国に留学して来られたのがいけなかったのかもしれない。


 まさか授業にまでなるとは思わなくて、わたくしは詩の難解さに苦しんでいた。


 授業が終わってお茶会が開かれると、ノエル殿下は嬉しそうにわたくしとハインリヒ殿下とミリヤムちゃんに聞いてきた。


「今日は三年生は詩の授業があったのですよね? わたくしの詩を読みましたか? それとも、わたくしが書き留めておいた、クリスタ嬢の詩でしたか? エリザベート嬢のハイクもあるはずですが」

「今日はノエル殿下の詩でした」

「ミリヤム嬢が朗読をして、オリヴァー・シュタール殿が解説をしました」

「素晴らしい詩だとは分かるのですが、わたくしにはまだ解説をするだけの技量がなくて」


 わたくしとハインリヒ殿下とミリヤムちゃんの言葉に、ノエル殿下が微笑んで告げる。


「わたくしが解説してしまったら、答えを教えるようなものですからね。クリスタ嬢は詩の才能がありますから、ハインリヒ殿下とエリザベート嬢とミリヤム嬢はクリスタ嬢に聞けばいいのではないですか?」

「そうさせていただきます」

「よろしくお願いします、クリスタ」

「クリスタ様、お願いします」


 最終的にはハインリヒ殿下もわたくしもミリヤムちゃんも、クリスタちゃんに聞くしかないようだった。

 そういえば今日発表したオリヴァー・シュタール殿についてわたくしは少し気になっていた。

 オリヴァー殿はシュタール侯爵家の後継者で、シュタール侯爵家は辺境伯領にあったのではないだろうか。辺境伯領から学園に来ているもの自体が少ないので、褐色の肌に癖のある黒髪のオリヴァー殿はよく目立つ。

 辺境伯領の出身の者は肌の色が違うだけでなく、背も高いので特に目を引くのだ。


「オリヴァー殿は詩の意味を理解できていたようでしたね」

「オリヴァー殿は二年生のときも、成績は常に学年の上位五位以内に入っていました」


 学園に入学してもノエル殿下が主催するノルベルト殿下とハインリヒ殿下とご一緒するお茶会に参加して、交友関係が広いとはいえないわたくしは、オリヴァー殿のことをほとんど知らなかった。

 今日発表したのでオリヴァー殿をやっと認識したようなものだ。

 他の授業ではわたくしかハインリヒ殿下が指名されるか当てられるので、オリヴァー殿が前に出て来たのは今回が初めてかもしれなかった。


「オリヴァー殿もペオーニエ寮ですか?」

「いえ、オリヴァー殿はリーリエ寮ですね」


 ハインリヒ殿下に確認してみると、オリヴァー殿がリーリエ寮だということが分かる。

 男性に声をかけるのは婚約者がいる身として誤解を生みかねないし、遠慮はしたいのだが、詩の授業のことを考えると、わたくしはオリヴァー殿に力を借りたい気持ちが出て来ていた。


「ハインリヒ殿下、ミリヤム嬢、オリヴァー殿は詩を理解していたように思います。クリスタに聞くのは悪くはないのですが、クリスタは学年が違うので授業の進み具合が違うでしょう。オリヴァー殿に声をかけてみるというのはどうですか?」

「エリザベート嬢から声をかけるのはあまりよくないですね。私から声をかけて見ましょう」

「お願いします、ハインリヒ殿下」


 詩の宿題を終わらせるためにも、わたくしはオリヴァー殿の力が必要だった。

 それと共に、わたくしの頭を過っていたのは中央と辺境伯領の貴族の交流がもっと盛んになることだった。ハインリヒ殿下がシュタール侯爵家のオリヴァー殿と親しくなれれば、オリヴァー殿も中央のお茶会に招かれるようになるのではないだろうか。


 ハインリヒ殿下の行動力はすごかった。

 翌日の授業が終わってから、オリヴァー殿に声をかけたのだ。


「オリヴァー殿、この後時間がありますか?」

「ハインリヒ殿下のためならば、どれだけでも時間は作ります」

「昨日の詩の授業について、オリヴァー殿が見事な解釈をしていたので、宿題を一緒にしたいと思ってお声掛けしました。実は、私は芸術を解する心がないので、詩の意味がよく分からないのです」

「詩の意味ですか? 書かれている通りだと思いますよ」

「胸の小鳥とか言われても、よく分からなくて」


 正直に話すハインリヒ殿下に、オリヴァー殿が教えてくれる。


「胸の小鳥と思うから分からなくなるのです。胸の恋心と置き換えてしまえば、意味は通じませんか?」

「そうなると、最後の小鳥のように自由にというのは?」

「そこには『胸の』が付いていないから、普通の小鳥だと思えばいいのです」

「なるほど! オリヴァー殿はよく理解していらっしゃる」

「ハインリヒ殿下にお褒めに預かり、光栄です」


 ハインリヒ殿下とオリヴァー殿で話が進んでいるが、わたくしもミリヤムちゃんもしっかりとその解説方法をノートに書き留めておいた。


「わたくしは辺境伯家のエクムント・ヒンケル様の婚約者、エリザベート・ディッペルです」

「お名前はよく聞いております。辺境伯家のお茶会ではお姿も拝見しておりました」

「これから、詩の授業のたびに、オリヴァー殿とハインリヒ殿下とわたくしとミリヤム嬢で勉強会を致しませんか?」

「ハインリヒ殿下とエリザベート様とミリヤム嬢とご一緒できて嬉しいです」


 まずは一緒に勉強をすること。

 ここから始めればいいのかもしれない。

 オリヴァー殿がハインリヒ殿下の学友と認められれば、交流もしやすくなるはずだ。

 結果として、オリヴァー殿をきっかけに辺境伯領の貴族たちが中央の貴族たちと交流が盛んになれば、それ以上のことはない。


 わたくしは第一歩としてオリヴァー殿との詩の勉強会を考えていた。


読んでいただきありがとうございました。

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