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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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8.ノルベルト殿下のお誕生日の詩

 王宮の庭をお散歩していると、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんに会った。レーニちゃんも弟たちにお願いされてお散歩に出て来たようなのだ。


「エリザベートお姉様、クリスタちゃん、ふーちゃん、まーちゃん、おはようございます」

「レーニちゃん、デニスくん、ゲオルグくん、おはようございます」


 わたくしとレーニちゃんが挨拶し合っていると、ふーちゃんがもじもじとレーニちゃんに話しかける。


「私、レーニ嬢を『レーニちゃん』と呼べるエリザベートお姉様が羨ましいです。私も呼んでいいですか?」

「わたくしはふーちゃんと呼ばせていただいていますもの、公の場でなければ、わたくしのことはレーニちゃんとお呼びください」

「やったー! エリザベートお姉様とクリスタお姉様と同じ呼び方だ! レーニちゃん、とっても可愛い呼び方!」


 飛び跳ねて喜んでいるふーちゃんに、まーちゃんが便乗して問いかける。


「わたくしも、レーニじょうや、デニスどのや、ゲオルグどのを、『レーニちゃん』、『デニスくん』、『ゲオルグくん』とよんでいいですか?」

「わたくしは構いませんわ。デニスはどうですか?」

「わたしもかまいません」

「ゲオルグは?」

「わたち、いーよ」


 ちゃっかりとデニスくんとゲオルグくんにまで了承を取っているあたり、流石はまーちゃんだ。

 わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんでお散歩をした。


「ふーちゃんとよびますね。ふーちゃん、おねえさまとこんやくしてくださって、ありがとうございます」

「デニスくん、お礼を言うのは私の方です」

「おねえさまは、ずっとうれしそうなのです。ホルツマンけのラルフどのにつきまとわれて、てがみもかかれて、ずっといやだったといっていました」

「おねえたま、にこにこ。わたち、うれちい」


 ホルツマン家のラルフ殿に付きまとわれて、付きまとわないように言えば手紙を送られて、レーニちゃんは相当嫌な思いをしたようだ。ラルフ殿の方が年上だし、体も大きい。乱暴なことをされたら怖いので、身分の違いがあると言ってもレーニちゃんは強く出られなかったのだろう。

 それがガブリエラちゃんのお誕生日のお茶会のときに、ラルフ殿は学園を退学して社交界にもデビューせず、家で再教育を受けると決まって、一安心したのだ。

 それだけでなく、レーニちゃんは国王陛下の名のもとにふーちゃんと婚約をしたので、この婚約を壊せるものは誰もいない。


「レーニちゃんが安心してくださってよかったです」

「ふーちゃんはつよくて、かっこうよくて、かわいいのだとおねえさまはいっていました」

「デニス、恥ずかしいです」

「いってはいけないことでしたか!?」


 お目目を丸くして驚いているデニスくんに、レーニちゃんは恥じらっていた。婚約したとはいえ、レーニちゃんは十三歳、ふーちゃんは六歳で、七歳の年の差がある。レーニちゃんもすぐには恋心にはならないだろうし、ふーちゃんがどれだけ思っていても十二年後にしか結婚はできない。


「レーニちゃんが頼ってくれる大人になります」

「ふーちゃんは既に十分頼もしいです。いつもありがとうございます」


 お礼を言うレーニちゃんの頬が赤い気がするのは、気のせいではないだろう。


 お散歩を終えて、朝食を食べると、昼食会までの間ゆっくりと時間を過ごした。

 昼食会に出席するのは両親とわたくしとクリスタちゃんで、わたくしとクリスタちゃんは部屋でドレスに着替えて準備を進めていた。お留守番のふーちゃんとまーちゃんはお茶会に出るスーツとドレスを選んでいたようだ。

 まーちゃんはわたくしとクリスタちゃんのお譲りのドレスがお気に入りで、今回も持って来ているようだった。

 ドレスはそんなに頻繁に着ないし、両親がわたくしたちの思い出として大事に保管してくれていたのでとても綺麗なまま残っている。そのドレスを着たいというまーちゃんは、わたくしとクリスタちゃんに憧れているのかもしれない。


 昼食会の準備が整ったところで、わたくしにはエクムント様が、クリスタちゃんにはハインリヒ殿下が迎えに来てくださった。二人とも紳士なので、ドアをノックしてドアが開くまで待っているし、部屋には一切入ろうとはしない。

 わたくしはエクムント様に手を引かれて、クリスタちゃんはハインリヒ殿下に手を引かれて食堂に行く。食堂ではクリスタちゃんとハインリヒ殿下は王家のテーブルに着いて、わたくしとエクムント様は王家のテーブルと直角に並べられている貴族たちのテーブルに着いていた。


「ノルベルト殿下のお誕生日のお茶会では、ノエル殿下が詩を披露なさるそうです」

「そうなのですね。わたくし、詩の意味がよく分からないのです」

「以前もそう言われていましたよね。私もですから、勉強せねばいけないのかもしれませんね」


 ノエル殿下の詩はこの国の貴族の嗜みになってしまっている。学園では教科書が印刷されて、そこにノエル殿下の詩が載っているのだ。

 教科書に載っている詩は、ノエル殿下が毎日ひと作品読んでいるという詩から厳選されたものだった。

 全然意味が分からないまま授業を受けているわたくしは、困ったときにはクリスタちゃんに助けを求めていた。寮の部屋に戻ってからクリスタちゃんに聞けば、「お姉様はどうして分からないのかしら」と不思議そうにしながらもクリスタちゃんは解説をしてくれた。


「クリスタは意味が分かるようです。フランツも。困ったときにはわたくしはクリスタに聞いています」

「クリスタ嬢とフランツ殿は詩を解する芸術の心がおありでしたね。クリスタ嬢もフランツ殿も詩作をされますからね」

「そうなのです。わたくしは詩作もできないし、意味も分からなくて……」

「エリザベート嬢は詩作をされるのではないですか?」

「え!? わたくし、詩は読んだことがありませんわ」


 エクムント様の言葉にわたくしは驚いてしまう。どうしてエクムント様はわたくしが詩作をするなどと思ったのだろう。


「学園の教科書に載っている詩と同じものが詩集として、発売されました。そこにエリザベート嬢の変わった詩が載っていたのです」

「わたくしの詩が!?」

「ハイクというのですか? 十七文字で季節の言葉を入れて読む詩です」

「嘘……わたくしの俳句が詩集や教科書に載っているだなんて」


 この時代、この世界では著作権などと言うものは存在しないのかもしれない。ノエル殿下がわたくしの俳句を気に入っていたが、そのついでに載せたのかもしれないと思うと赤くなればいいのか、青くなればいいのか分からなくなってしまう。


「確か『春雨に、濡れるテラスに、物思い』というハイクだったと思います」

「間違いありません……わたくしが作りました」


 わたくしはテーブルの上に突っ伏したい気分だった。

 俳句は短いのでエクムント様はしっかりと暗唱していらっしゃる。苦し紛れに作った俳句が教科書や詩集に載っているというのは恥ずかしすぎる。


「エクムント様、その俳句はお忘れください」

「他の詩とは違って、意味が分かりましたし、余韻のあるよいハイクだと思います」

「褒めていただいて嬉しいのですが……」


 どうしても心から喜べない自分がいた。


 昼食会が終わってお茶会ではノエル殿下が詩を披露した。


「ノルベルト殿下のために作った詩です。どうかお誕生日のプレゼントとして受け取ってください」

「ありがとうございます、ノエル殿下」

「それでは、失礼して」


 詩の書かれた紙をパーティーバッグから出してノエル殿下が読み始める。


「この国に来て、わたくしは恋を知りました。花の蕾が膨らむように、恋心は毎日膨らんで、大輪のチューリップになるのです。チューリップは冬の雪の下で眠って、春に目覚めます。あなたがわたくしに愛を込めて『おはよう』と言ってくれたら、わたくしは永遠に枯れないチューリップになれるのです」


 ノエル殿下の詩に貴族たちが拍手をしている。


「さすがはノエル殿下」

「素晴らしい詩ですわ」

「ノルベルト殿下への気持ちがよく伝わってきます」


 聞いていたクリスタちゃんが、ハインリヒ殿下の手を握り締めている。


「ハインリヒ殿下、わたくしもハインリヒ殿下のお誕生日に詩を捧げます!」

「そ、それは、嬉しいです。ありがとうございます」


 ハインリヒ殿下もそう言わなければいけない場面だった。

 詩の意味が分からないなどと無粋なことは言っていられない。ノエル殿下の詩は国王陛下も王妃殿下も認めているのだ。


「エクムント様……」

「芸術とは難しいですね」


 エクムント様とわたくしは頷き合うのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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