7.ふーちゃんとレーニちゃんの婚約式
ノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日には学園は休みになる。
わたくしもクリスタちゃんも王都にいたので、そこから王宮に行って両親とふーちゃんとまーちゃんと合流した。両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋は広くて、食事もできるソファセットが置いてある。わたくしとクリスタちゃんの部屋は寝室と簡単な机と椅子のセットだけが置いてある。
わたくしとクリスタちゃんの客間に荷物を置いて、両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋に行くと、ふーちゃんは凛々しい表情で佇んでいた。
ノルベルト殿下のお誕生日の前日に晩餐会を開いて、ふーちゃんとレーニちゃんは婚約するのだ。ガブリエラちゃんのお誕生日のお茶会で騒ぎになって、ラルフ殿は学園を退学することになったし、今後お茶会にも出ない、社交界デビューもしないとなったので、レーニちゃんは安心して婚約に臨めるようになった。
婚約式のためにふーちゃんは辺境伯領の紫色の布の一番色の淡いものでタキシードを誂えていた。六歳だが手足がすらりと伸びて来たふーちゃんはタキシードがよく似合って可愛い。まーちゃんも一緒に出席するので、辺境伯領の紫色の布の普通の濃さのものでワンピースを誂えていた。
わたくしとクリスタちゃんも辺境伯領の紫色の布でドレスを誂えて着ているし、両親も同じく辺境伯領の紫色の布でスーツとドレスを誂えていた。
「お父様、私、レーニ嬢をお迎えに行きたいです」
「それならば、私が付いて行こう」
「ありがとうございます、お父様」
ふーちゃんは父に連れられてリリエンタール公爵家の部屋に行って、レーニちゃんをエスコートしている。
わたくしにはエクムント様が迎えに来て、クリスタちゃんにはハインリヒ殿下が迎えに来た。
クリスタちゃんはそのまま王家のテーブルに連れて行かれて、わたくしはディッペル家と辺境伯家の間に座ることになる。
「わたくし、ねむくならないかしら」
「しっかりとフランツを見ていてあげてくださいね、マリア」
「おにいさまのはれのぶたいですね!」
晩餐会は早い時間から始まるのだが、夜遅くまで続くので、眠くならないか心配しているまーちゃんに、わたくしは声をかける。まーちゃんは晩餐会に出るのは初めてなのだ。
「今日は特別な知らせがあってノルベルトの誕生日の前日に晩餐会を開いた。ディッペル家のフランツ、リリエンタール家のレーニ、前に出よ」
国王陛下に促されて、白を基調としたドレスを着たレーニちゃんと辺境伯領の布で誂えたタキシードを着たふーちゃんが前に出る。
両親とリリエンタール公爵夫妻も一緒に前に出ている。
「フランツ・ディッペル、そなたはレーニ・リリエンタールと婚約し、成人の暁には結婚することを誓うか」
「はい、誓います」
「レーニ・リリエンタール、そなたはフランツ・ディッペルと婚約し、フランツの成人の暁には結婚することを誓うか?」
「はい、誓います」
広い食堂に響く声で答えたふーちゃんとレーニちゃんに、国王陛下が頷いている。
「国王、ベルノルト・レデラーの名において、ここに両家の婚約を認めよう」
正式な婚約が結ばれると、食堂内から拍手が沸き起こる。ふーちゃんはレーニちゃんの手を引いて席までエスコートしてからディッペル家の席に戻ってきた。
「おにいさま、おめでとうございます」
「フランツ、おめでとうございます」
「マリア、エリザベートお姉様、ありがとうございます。私、とても幸せです」
微笑んでいるふーちゃんを見るとわたくしも胸がいっぱいになってくる。
エクムント様と婚約をした八歳のときに、急な婚約式だったのに両親はわたくしのために白を基調としたドレスを誂えてくれた。薔薇の花冠も作って下さった。
わたくしは幸福に包まれて婚約したが、エクムント様はあのとき何を考えていたのだろう。六年の年月を経て、わたくしは疑問に思っていた。
「わたくしとエクムント様が婚約した日のことを思い出していました」
「エリザベート嬢は八歳だったのに、立派に受け答えをしていましたね」
「あのとき、エクムント様は何を考えていましたか?」
わたくしの問いかけに、エクムント様は少し答えに躊躇っているようだった。
よく言葉を選んでから、エクムント様が答える。
「エリザベート嬢はまだ八歳だったので、なんて小さいのだろうと思っていました。将来エリザベート嬢がこの婚約を後悔する日が来ても、辺境伯家と公爵家の婚約は破棄できない。それでいいのかと悩んでいました」
「わたくしは婚約の意味を分かって婚約しました」
「聡明なエリザベート嬢はそうだろうとは思っていましたが、まだ年齢が年齢なので、結婚まで十年も時間があるし、いつか後悔することがあるかもしれないと……」
「ありません。エクムント様は優しく、辺境伯領は素晴らしい土地です。わたくしは辺境伯領を愛しています」
「エリザベート嬢は潔い。エリザベート嬢を後悔させないように私が努力しなければいけないと思っていました。後悔していないのならば、嬉しいです」
あの日のことをエクムント様と初めて話したかもしれない。
わたくしはエクムント様に素直な気持ちを伝えられたし、エクムント様もわたくしに不安を吐露してくださった。
六年前だったらあり得なかったであろう光景がここにある。
晩餐会は続いていたが、わたくしとふーちゃんとまーちゃんは早めに部屋に戻らせてもらうことになった。ふーちゃんもまーちゃんも夜更かしになれていないので眠たくなっているし、わたくしはふーちゃんとまーちゃんの姉としてふーちゃんとまーちゃんを部屋に送り届ける義務があった。
王家のテーブルに着いているクリスタちゃんは何も食べられていないだろうし、まだまだ続く晩餐会に最後まで参加しないといけないだろうが、それはクリスタちゃんがハインリヒ殿下の婚約者なので仕方がない。
わたくしの力ではどうすることもできないので、わたくしはふーちゃんとまーちゃんの眠りを守ることを一番に考えた。
両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋に戻ると、ヘルマンさんとレギーナが待っていてくれた。ヘルマンさんもレギーナも心得たもので、ふーちゃんとまーちゃんをお風呂に入れて、ベッドに寝かせてくれた。
「お休みなさい、ふーちゃん、まーちゃん」
「エリザベートお姉様、私、本当に幸せ。レーニ嬢の夢を見るよ」
「いい夢を、ふーちゃん」
「エリザベートおねえさま、わたくし、ねむくてねむくて……」
「眠るまではそばにいますから、眠っていいのですよ」
ふーちゃんとまーちゃんに声をかけてベッド脇に椅子を持って来て座っていると、すぐに寝息が聞こえて来た。ふーちゃんとまーちゃんが眠ったことを確認して、わたくしは自分の部屋に戻った。
部屋に戻ってドレスを脱いで、シャワーを浴びて、着替えて歯磨きをして、布団に入ると眠気が襲ってくる。
クリスタちゃんには申し訳ないが、わたくしは先に休ませてもらうことにした。
明日はノルベルト殿下のお誕生日で、次の日はまーちゃんのお誕生日で国王陛下一家とお茶会をして、その次の日がハインリヒ殿下のお誕生日と日程が詰まっている。
ハードなスケジュールをこなすには体力も必要だった。
眠っている間にクリスタちゃんも戻って来てシャワーを浴びてベッドに入ったようだが、わたくしは眠くて起きることができなかった。
翌日の早朝にはふーちゃんとまーちゃんが起こしに来た。
「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、お散歩をしましょう。リリエンタール家の皆様もお散歩をしているかもしれません」
「わたくし、デニスどのとゲオルグどのにもおあいしたいわ」
「おはようございます、ふーちゃん、まーちゃん」
「少し待ってくださいね。準備をします」
起きたばかりのわたくしとクリスタちゃんは洗面を終えて、着替えて髪を整えて、ふーちゃんとまーちゃんと王宮の庭にお散歩に出た。
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