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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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5.リリエンタール家での話し合い

 翌日は朝食を食べると準備をしてリリエンタール公爵家に向かった。わたくしとクリスタちゃんはそのまま王都の学園の寮に帰れる荷物を準備していた。リリエンタール家での話し合いが長引けば、ディッペル家に帰る時間がなくなるかもしれないと思ったのだ。

 馬車と列車でリリエンタール公爵家に行けば、リリエンタール公爵とレーニちゃんのお父様、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんが迎えてくれる。


「ようこそいらっしゃいました、ディッペル家の皆様」

「お待ちしておりました」


 リリエンタール公爵とレーニちゃんのお父様にご挨拶をされて、父と母がお辞儀をしている。


「急にお訪ねしてすみません」

「どうしてもリリエンタール侯爵夫妻のお顔を見てお話ししたかったので」

「レーニから話は聞いています」

「昼食の用意をさせていますので、食べながら話しましょう」


 移動に時間がかかったので、時刻は昼食時になっていた。

 昼食という単語を聞いて、ふーちゃんとまーちゃんがお腹を押さえている。ふーちゃんとまーちゃんのお腹は小さくきゅるきゅると鳴いていた。


 食堂で席に座ると料理が出て来る。

 魚のソテーにジャガイモを揚げたものを添えて、パンとスープと一緒に食べるだけの昼食だったが、魚は臭みもなくソースが美味しくてわたくしはパンにソースを付けて食べてしまった。

 ふーちゃんもまーちゃんもお腹いっぱい食べている。


 食べ終わるとお茶を飲みながら話が始まる。


「実はリリエンタール家のレーニ嬢に私の息子、フランツと婚約していただきたいと思って、話をしに来ました」

「レーニから話は聞きました。フランツ殿はディッペル家の後継者で、レーニにとってこれ以上にないいいお話だと思っております」

「賛成してくださいますか?」

「レーニは前の夫のせいで男性を信じることが難しくなっています。けれど、フランツ殿との間では手紙のやり取りが続いていて、いい関係が築かれていると聞いています」

「レーニは今、ホルツマン家のラルフ殿に言い寄られていると聞きました。とても迷惑をしていると。学園では身分の差があっても、一応建前上学生は皆平等となっている。それを盾に取るようなラルフ殿のやり方は許せません」

「将来ディッペル家に嫁ぐために後継者を退くと決意したときも、フランツ殿は三歳でまだ将来のことはわからないのだからと思っておりましたが、フランツ殿の気持ちは変わっていないようなので、婚約をさせたいと思います。レーニに婚約者がいれば、ラルフ殿を諦めさせることができるだろうとは思っておりました」


 リリエンタール侯爵夫妻はレーニちゃんとふーちゃんの婚約に乗り気なようだ。

 それもそのはず、公爵家同士で縁が持てるのだし、ふーちゃんはディッペル家の後継者なのでふーちゃんと結婚すればレーニちゃんは公爵夫人として将来の地位が確立する。


「レーニがリリエンタール家の後継者になりたくないと言ったときに、わたくしは、レーニの気持ちがよく分かりました。わたくしもリリエンタール家の長子として生まれましたが、女の身でリリエンタール家の当主となるのはたやすいことではありませんでした」

「その上、お母様は遠縁のホルツマン伯爵家から婿をもらわねばならないと決められていたのでしょう。わたくしが後継者のままでいたら、望まない結婚をさせられていたかと思うとぞっとします」

「レーニ、あの男のことは本当にあなたを傷付けて悲しませました。あの男からあなたを守り切れなかった母を許してください」

「お母様はわたくしを愛してくれました。新しいお父様も本当のお父様のようにわたくしを愛してくれます。わたくしは今は幸せです」


 新しいお父様が来てからは、レーニちゃんの気持ちにも変化があったようだ。

 それでもレーニちゃんはリリエンタール家の後継者になりたくないと、デニスくんに後継者を譲っていた。


「わたくしを望んでくださる方のところにお嫁に行きたい。それがわたくしの夢でした。ディッペル家はわたくしが幼い頃から親しくさせていただいているお家。ディッペル家の一員になりたいとわたくしはずっと思っていたのです」

「それでは、レーニ、後悔しませんね? 公爵家同士の婚約となると、破棄は絶対にできませんよ」

「わたくし、大きくなったフランツ殿なら愛せるような気がするのです。今のフランツ殿が可愛くて大好きな気持ちが、フランツ殿が大きくなったら恋愛感情に変わるかもしれません」


 リリエンタール公爵もレーニちゃんもこの婚約に賛成している。

 話は纏まりそうだった。


「ディッペル家とリリエンタール家から国王陛下に手紙を届けましょう。公爵家同士の婚約には国王陛下の許可がいります」

「許可が下りれば、初夏のノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の際に、レーニとフランツ殿の婚約式を執り行いましょう」


 許可が下りると父もリリエンタール公爵も確信している口ぶりだった。


 公爵家の力が強くなるのを望まない王家ならば公爵家同士の婚約に関して口出しして来るかもしれないが、ディッペル公爵家と王家の仲は非常に良好であるし、リリエンタール家も王家との仲が良好である。

 ディッペル公爵家とリリエンタール家が結ばれて強い絆を持つことに、国王陛下は喜びこそすれ、嫌な顔はしないだろう。


「レーニじょう……いいえ、私はもっと大人のような話し方をがんばります。レーニ嬢、私と婚約してください」

「フランツ殿、急いで大人にならなくていいのですよ。わたくしは、わたくしのことを思ってくださるそのままのフランツ殿が大好きです」

「レーニ嬢、私も大好きです」


 ふーちゃんの言葉遣いが変わった日だった。

 稚い子どもの発音は消えて、はっきりと発音するようになっている。婚約という事項がこんなにもふーちゃんを成長させるとはわたくしも思っていなかった。


「レーニ嬢にお手紙を書いて来ました」

「ありがとうございます。後でゆっくり読ませていただきます」

「これからもレーニ嬢にお手紙を何度でも書きます。私の気持ちを伝えるために」

「お返事を書きますわ。フランツ殿のお手紙を楽しみにしています」


 ふーちゃんとレーニちゃんは手を取り合って見つめ合っていた。ふーちゃんの方が小さいのでレーニちゃんは屈んでいるのだが、ふーちゃんは男の子なのでそのうち大きくなるだろう。

 いつかこの二人が結ばれる日をわたくしは楽しみにしていた。


 リリエンタール家からわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんの三人で一緒に馬車と列車を乗り継いで、学園の寮に帰った。

 レーニちゃんは心底安心した顔をしていた。


「ラルフ殿のことがなくても、わたくしはふーちゃんと婚約していたと思います」

「ふーちゃんが好きなのですか?」

「まだ恋愛感情はありませんが、家族になるなら、可愛くてわたくしのことを愛してくださるふーちゃんは理想だったと思っています」


 愛されて望まれて嫁いでいきたい。

 それがレーニちゃんの夢だった。

 その夢を叶えるのはふーちゃんしかいない。ふーちゃんがどれだけレーニちゃんのことを大好きか、レーニちゃんにも伝わっているのだ。


「ふーちゃんの喋り方から幼さが抜けましたね」

「お姉様も気付いていましたか? ふーちゃんがあんなにはきはきと喋れるなんて思いもしなかったです」


 甘く稚い喋り方も愛おしかったが、ふーちゃんがレーニちゃんのために成長したいという気持ちは尊重したいと思っていた。


 翌日の学園のお茶会で、わたくしはノエル殿下にもう一度時間をもらって、ことの報告をする。


「レーニちゃんは無事にふーちゃんと婚約することになりそうです。今、国王陛下に許可をもらうお手紙を父とリリエンタール公爵が送っています」

「その話は国王陛下から聞きました。国王陛下はすぐにでも許可をするという返事を書くと仰っていました」

「それでは、わたくしはふーちゃんと婚約できるのですね」

「わたくしもノルベルト殿下よりも年上ですが、ノルベルト殿下のことを尊敬し、想っております。レーニちゃんとふーちゃんもそんな仲になれるように祈っています」

「ありがとうございます、ノエル殿下」


 ノエル殿下に応援されてレーニちゃんは本当に嬉しそうにしていた。


 その二日後にはわたくしとクリスタちゃんのところに両親から、レーニちゃんのところにはリリエンタール公爵夫妻から手紙が届いた。

 その手紙を持ってわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはノエル殿下に報告に行った。


「初夏のノルベルト殿下のお誕生日のときに、ふーちゃんとレーニちゃんの婚約式が開かれます」

「わたくし、ふーちゃんと婚約することになりました」


 六歳という年齢で婚約するふーちゃんは、八歳で婚約したわたくしよりも幼いけれど、レーニちゃんを好きな気持ちはずっと変わらないだろうとわたくしは確信していた。

 わたくしが物心ついたころからエクムント様が大好きで、その気持ちが変わらなかったのと同じように。

読んでいただきありがとうございました。

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