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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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2.クリスタちゃんのお誕生日のお茶会の終わり

 クリスタちゃんのお誕生日のお茶会は寛いだ雰囲気で行われていた。

 ふーちゃんとまーちゃんはレーニちゃんを挟んで座って、お喋りをしている。


「おにいさまが、ごめいわくをおかけしています」

「わたしはめいわくなんてかけていないよ、マリア」

「おにいさま、レーニじょうにしをたくさんおくっているでしょう」

「しはめいわくなのですか!?」


 謝るまーちゃんにふーちゃんがショックを受けている。


「迷惑ではありませんよ。ただ、フランツ殿の詩は高度なので、わたくしにはよく意味が分からないところもあるだけです」

「おにいさまのしは、むずかしいのです。もっと、わかりやすくかくといいのです」

「わたしは、レーニじょうへのきもちをすなおにかいているだけなんだけど」

「おにいさま、あまりしつこいと、レーニじょうにきらわれますよ?」

「わたくしはフランツ殿を嫌ったりしませんわ。頻繁に下さるお手紙も、少しずつ字が上手になって、成長を感じられてとても嬉しいのですよ」

「レーニじょうはこうおっしゃってくれているよ?」


 ふーちゃんとまーちゃんで詩に関する見解が違うようだ。

 国王陛下と王妃殿下がふーちゃんの詩を認めて、ノエル殿下の詩が教科書に載るような事態になっているのだ。

 やはり、この国ではノエル殿下やクリスタちゃんやふーちゃんの詩が認められる時代になっているのだ。


 時代といえば、前世のことで思い出したことがある。

 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は前世で母が読んでいたものをもらったのだが、前世の世界では昔にノエル殿下やクリスタちゃんやふーちゃんのような詩が流行ったのではなかっただろうか。

 前世の母の持っていた雑誌にそういう詩が載っていた記憶が朧気にある。


 鮮明には思い出せないのだが、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』が書かれた時期が、その雑誌の刊行時期と同じだったならば、この世界でノエル殿下やクリスタちゃんやふーちゃんの詩が認められていてもおかしくはない。

 作者の描いた世界観として、そこが強く根付いているのかもしれない。


 わたくしにはよく意味が分からないし、そんな詩を書くことはできないのだが、ノエル殿下の詩が認められて教科書として授業に使われるようになると、貴族の嗜みとして詩を読み書きできる世の中になってしまうのかもしれない。

 意味のよく分からない詩が横行する世界になることに、わたくしは多少の恐怖を覚えていた。


「エクムント様は、ノエル殿下やクリスタやフランツの詩をどう思いますか?」

「私は何度も言っていますが、芸術を解さない不器用な軍人なので、詩はよく理解できません」

「わたくしも詩はよく分からないのです。ノエル殿下やクリスタやフランツの詩は、高度過ぎると思うのです」

「エリザベート嬢と同感です」

「エクムント様、わたくしが詩の授業を受けても、エクムント様に詩を捧げられなくてもお許しください」

「私の方こそ、エリザベート嬢に詩を捧げるようなことはできません。分かってください」


 どうやらこの世界の全員が同じ感覚ではなくて、エクムント様はわたくしと同じ感覚で詩を見ているようだ。レーニちゃんも分からないと言っているし、まーちゃんは兄であるふーちゃんを嗜めるようなことを言っている。


「エリザベート嬢とエクムント殿も詩の意味が分からないのですか……。実は私もです。素晴らしいのでしょうが、私には芸術を解する心がないようです」

「それでは、ハインリヒ殿下に詩を贈るのはご迷惑でしょうか?」

「い、いえ、クリスタ嬢。詩をいただくのは嬉しいです。私が芸術を解する心がなくて、詩を書けずに、お返しができないのが心苦しいのですが」

「それは気にしないでください。ハインリヒ殿下を想うとわたくしの胸から詩が溢れて来るのです」

「は、はぁ」


 ハインリヒ殿下もクリスタちゃんの詩がよく分からないようだった。それに対してクリスタちゃんは自分の詩を贈らない方がいいのかと言っているが、ハインリヒ殿下は一応、クリスタちゃんを立てている。

 クリスタちゃんの詩も国王陛下と王妃殿下に認められたものだし、何よりもクリスタちゃんが楽しんで書いているのでハインリヒ殿下も止めることはできないのだろう。


 心から溢れて来るとまで言われたらハインリヒ殿下も断りづらいに違いない。


 エクムント様がわたくしと同じ感覚の持ち主でよかったとわたくしは心から思っていた。


 お茶会が終わるとお見送りに出る。

 ハインリヒ殿下はクリスタちゃんの手を握って別れを惜しんでいた。


「クリスタ嬢、また学園でお会いしましょう」

「はい。そのときにはハインリヒ殿下は三年生、わたくしは二年生ですね」


 前世の記憶では欧米では秋に進級するのだが、この世界では春に進級するという日本の進級制度が使われている。これは作者が日本人だからだろう。

 これに関してはわたくしも分かりやすいので助かっているが、前世の十九世紀ヨーロッパをモデルにした小説としては違和感があったかもしれない。

 わたくしが前世で読んでいたときには、若かったせいもあってあまり気にしていなかった。


「エリザベート嬢、学園で学んで来てくださいね」

「エクムント様を支えられる立派な淑女になれるように頑張ります」

「エリザベート嬢は既に私を助けてくれているのですが、今まで以上に支えてくださるのですね。ありがたいです」


 辺境伯領の葡萄酒が王都でよく飲まれるようになったのもエクムント様の努力あってのことだし、辺境伯領の紫色の布が中央で大流行したのもエクムント様がわたくしたち一家に布をくださって、それが王妃殿下の目にまで留まったからに違いない。コスチュームジュエリーもエクムント様がわたくしにくださらなければ、わたくしは名称を思い出すこともなかった。


 全ての始まりはエクムント様なのにエクムント様はわたくしの功績のように言ってくださっている。

 わたくしは嬉しいような申し訳ないような気分になる。


「エリザベート嬢、今年の夏休みも辺境伯領に来て下さったら嬉しいです」

「去年、辺境伯領でとても楽しく過ごせました。今年も行けたらと思います。両親と相談してみますね」

「いいお返事をお待ちしています」


 微笑んで馬車に乗り込むエクムント様に、わたくしは手を振る。エクムント様も馬車の窓を開けてわたくしに手を振り返してくれた。


 レーニちゃんが馬車に乗るときには、ふーちゃんが手を引いて、まーちゃんが横に並んで歩いていた。


「レーニじょうとたくさんおはなしができてたのしかったです」

「わたくしもフランツ殿とマリア嬢とお話ができて楽しかったです」

「わたくしのおたんじょうびも、レーニじょうにおいわいしてほしいです」

「マリア嬢のお誕生日はノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の間なので、王都で国王陛下主催の個人的なお茶会で祝われるのではないですか?」

「そのおちゃかいに、レーニじょうもさんかしてくださるように、おねがいしてみます」

「わたくしも参加してもいいか、国王陛下に聞いてくださるのですね」


 まーちゃんは言い回しが変になっているが、それを否定せずにレーニちゃんは優しく言い直してあげていた。

 賢く見えてもまーちゃんはまだ四歳なのだ。敬語が上手く使えなかったり、言い回しがおかしくなることもある。


「レーニじょう、おてがみをかきます」

「わたくしもお返事を書きますわ」

「レーニじょう、おきをつけて」


 今回のお茶会ではふーちゃんとまーちゃんに挟まれて、わたくしたちとはあまり話ができなかったレーニちゃんだが、弟が二人いるせいか、ふーちゃんとまーちゃんと話すのも嫌ではなさそうだった。

 大きく手を振って送り出すふーちゃんとまーちゃんに、レーニちゃんも手を振り返していた。

読んでいただきありがとうございました。

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