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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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46.式典の前日

 国王陛下の生誕の式典には、わたくしとクリスタちゃんは今年から初めて出席することとなる。それまでは社交界にデビューしていなかったので、参加することができなかったのだ。

 国王陛下の生誕の式典は、国中から貴族たちが集まってくる。ものすごい規模の式典だと聞いている。

 王宮のバルコニーから国王陛下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下と王妃殿下が手を振るのは知っているし、民衆もお祭り騒ぎになるのだというのも知っている。

 わたくしとクリスタちゃんと両親は前日から王宮に入っていた。わたくしとクリスタちゃんが一部屋、両親が一部屋、客間を借りる。わたくしとクリスタちゃんの部屋はいわゆる普通の客間で、両親の客間がソファセットのあるいわゆるスイートルームというものなので、食事は両親の部屋で一緒に取ることになる。

 部屋に荷物を置いて着替えると、わたくしとクリスタちゃんは両親の部屋に顔を出した。


「フランツとマリアも連れてくればよかっただろうか」

「わたくしたちもいなくて、エリザベートとクリスタもいないとなると、フランツもマリアも寂しがっているでしょうね」


 両親はふーちゃんとまーちゃんのことを心配していた。わたくしとクリスタちゃんもふーちゃんやまーちゃんの年齢からお留守番をしているが、それはエクムント様がいたから耐えられた気がする。ふーちゃんとまーちゃんにはヘルマンさんとレギーナ、それにマルレーンもデボラもいるのだが、心配であることには変わりない。


「フランツとマリアならば大丈夫かな。来年に向けて随分としっかりしてきた」

「そうですわね。フランツとマリアを信じましょう」


 ふーちゃんとまーちゃんの成長が著しいのはわたくしの目から見ても確かだった。二人ともわたくしやクリスタちゃんがいなくなっても、駄々を捏ねたり、泣いたりしなくなっていて、いい子で待っていられるようになった。

 両親はふーちゃんとまーちゃんを心配しつつも、大丈夫だと感じているようだ。


 初めての式典なので勝手が分からないことが多い。わたくしは辺境伯の婚約者として振舞わなければいけないし、クリスタちゃんは皇太子殿下の婚約者として振舞わなければいけない。

 特にクリスタちゃんは主催側になるので、打ち合わせが必要だった。


 部屋にハインリヒ殿下が来て、ドアをノックしてお伺いを立てる。


「ハインリヒ・レデラーです。お邪魔してもよろしいですか?」

「どうぞ、お入りになってください、ハインリヒ殿下」


 父がハインリヒ殿下を部屋に招いた。ハインリヒ殿下は護衛を廊下に待たせて、部屋に入ってきた。


「クリスタ嬢は明日の式典では基本的に私の隣りにいてもらうことになります」

「はい、ハインリヒ殿下。わたくしは何をすればいいですか?」

「父上に挨拶に来たものが、私にも挨拶して来ることがあるので、そのときには一緒に対応してください。それ以外のときには私がエスコートしますから、私のそばを離れないでください」

「分かりました、ハインリヒ殿下」


 クリスタちゃんのことはハインリヒ殿下がしっかりと支えてくれそうでわたくしは安心していた。


「エクムント・ヒンケルです。お邪魔してもよろしいですか?」


 ハインリヒ殿下が部屋にいらっしゃっているときに、エクムント様もいらっしゃった。父が許可をして、エクムント様も部屋に入ってくる。


「ハインリヒ殿下も来られていたのですね」

「クリスタ嬢と明日の打ち合わせをするつもりでした」

「私もエリザベート嬢に話があって来ました」


 エクムント様の言葉にわたくしはエクムント様のそばに歩み寄る。


「エリザベート嬢、私は国王陛下の生誕の式典で乾杯の音頭を仰せつかりました。そのときに一緒に立ち上がって、私の挨拶に合わせてグラスを持ち上げてくれますか?」

「そのくらいのことでしたら致しますわ。乾杯の音頭を仰せつかるなんて、名誉ですね」

「国王陛下は辺境伯領との関係の良好さを見せつけるつもりのようです。乾杯で使われる葡萄酒も辺境伯領のものを使ってくださると言っていました」

「それはとても光栄なことです」

「王妃殿下は辺境伯領で誂えたコスチュームジュエリーを着けているし、辺境伯領の存在感を中央に示すよい機会になると思います」


 乾杯の音頭をエクムント様が任されたというだけで辺境伯領に国王陛下がどれだけ心を砕いているかが分かる気がする。辺境伯領は広く、大事なこの国の南の領地なのだ。

 辺境伯領の紫色の布も、葡萄酒も、コスチュームジュエリーも中央でこれだけ流行っている。これから辺境伯領がなければ中央は成り立たないところまで辺境伯領の存在感を示さねばならない。


 独立派を一掃してオルヒデー帝国との融和を示している辺境伯領が、中央と強く結び付いていくのはいいことだと思う。


 わたくしがエクムント様と話していると、ハインリヒ殿下もクリスタちゃんとお話が終わったようだ。

 ハインリヒ殿下がクリスタちゃんに手を振って、両親に頭を下げて部屋を出て行く。


「お邪魔しました」

「私もそろそろ失礼します。明日はよろしくお願いします、エリザベート嬢」


 ハインリヒ殿下と一緒に退室しようとするエクムント様にわたくしは頭を下げた。


「打ち合わせに来てくださってありがとうございました」


 簡単なことだったが、気付かずにその場でエクムント様に立つように言わせてしまったり、乾杯のときにエクムント様とタイミングが合わなかったりしたら、エクムント様に恥をかかせてしまう。何よりわたくしが恥ずかしい。

 細かなことでも先に教えておいてくださるエクムント様がいるおかげでわたくしは安心して式典に臨むことができた。


 エクムント様とハインリヒ殿下が部屋を出て行ってから、わたくしとクリスタちゃんはソファに座って息を吐く。


「ハインリヒ殿下にエスコートしてもらえるなら、明日は安心ですわ」

「わたくしもエクムント様が教えてくださったので、少し落ち着きました」


 わたくしとクリスタちゃんは緊張していたのだと改めて思い知る。

 ソファに座って寛いでいると、夕食の時間になった。


 今日は式典の前日で何もないので、夕食は部屋で食べる。

 両親とクリスタちゃんとソファに座って、夕食を一緒に食べた。


 夕食を食べ終わるとわたくしとクリスタちゃんは自分たちの部屋に戻って行った。

 順番にお風呂に入って、髪を乾かして、歯を磨いて、パジャマでベッドに入る。


「お姉様、ふーちゃんとまーちゃんがいないので、朝、起こしに来てくれるひとはいませんわ」

「朝のお散歩も必要ありませんね」


 王宮の庭には雪が降り積もっているが、ふーちゃんとまーちゃんがいたら、早朝にわたくしとクリスタちゃんを起こしに来て、朝のお散歩に誘ったはずだ。

 ふーちゃんとまーちゃんがいないとわたくしとクリスタちゃんも寂しいのだと実感する。


「レーニちゃんもいませんね」

「レーニちゃんはまだ社交界デビューしていませんからね」


 本来貴族は十五歳くらいで社交界デビューするのを、クリスタちゃんが皇太子であるハインリヒ殿下と婚約したので、わたくしとクリスタちゃんは十三歳と十二歳で社交界デビューした。

 異例の若さではあるが、ハインリヒ殿下と一緒にクリスタちゃんは王家の席でお誕生会や式典に参加しなければいけなかったし、妹のクリスタちゃんが社交界デビューしたのに姉のわたくしが社交界デビューしていないというのはおかしいということで、わたくしも繰り上がって社交界デビューを果たしたのだ。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日にも昼食会からお茶会、晩餐会と出席したが、国王陛下の式典はこれが初めてになる。

 どういう結果になるのか、どきどきしながらもわたくしとクリスタちゃんは眠りについた。

読んでいただきありがとうございました。

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