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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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44.詩の広まり

 突然のふーちゃんの詩作に両親は戸惑っているし、わたくしもエクムント様もよく意味が分からなくて困っている。

 そこに声をかけたのは国王陛下と王妃殿下だった。


「その詩は即興でフランツが作ったのか?」

「はい、わたし、レーニじょうがだいすきです。レーニじょうにささげるためにつくりました」

「レーニ嬢は幸せなことですね。こんなに素晴らしい詩をいただいて」


 国王陛下と王妃殿下の言葉に驚いたのは両親である。


「国王陛下と王妃殿下は詩の意味が分かるのですか?」

「素晴らしい詩だと思われましたか?」

「あぁ、素晴らしい詩だ。即興でこれだけの詩を作れるなんて、フランツは本当に才能がある」

「フランツ殿の心が伝わってくるいい詩でしたわ」

「この詩は、素晴らしい……?」

「意味が、分かるのですね……?」


 戸惑っている両親を他所に、褒められたふーちゃんは胸を張ってレーニちゃんの手を取っている。


「わたし、ダンスのれんしゅうをしました。いっしょにおどってくれますか?」

「フランツ様、お誘いありがとうございます。喜んで踊らせていただきます」


 ふーちゃんの方が背がかなり低いのだが、手を取って踊り出す二人はとても眩しい。素敵な光景なのだけれど、わたくしの心には困惑の嵐が吹き荒れていた。

 国王陛下と王妃殿下にはあの詩の意味が分かったのだ。

 わたくしやエクムント様があの詩の意味が全く分からないとは言い出しにくくなってしまっている。


「父上、母上、フランツ殿の詩のよさが分かるのですか?」

「ハインリヒ、お前は分からなかったのか?」

「ハインリヒの胸には響きませんでしたか?」

「私は詩を解するような情緒的な男ではないようです。クリスタ嬢の詩もよく分からなくて」

「クリスタ嬢も詩を読むのですね」

「ノエル殿下も詩を読んでいたな。クリスタとノエル殿下の詩を聞いてみたいものだ」


 大変だ。

 両親のお誕生日会のはずが、詩の発表会になってしまった。


「わたくしは、即興では浮かびませんので、過去の作品から読ませていただきます。辺境伯領に布の製作を見学に行ったときに作った詩です」

「わたくしもそのときの詩を披露いたしますわ」


 ノエル殿下とクリスタちゃんが咳払いをして準備を整える。


「夢の紫を作り出す妖精さんは、どこから来たのでしょう。この国の貴婦人はみんなその紫に夢中。辺境伯領の紫の布は女性を虜にさせる魔法のかかった布。その布を纏うとき、わたくしも魔法にかかったような気分になるのです。鏡に映るわたくしは美しいでしょうか。鏡に問いかけても答えてはくれません」


 ノエル殿下がすらすらと読んだ詩に国王陛下と王妃殿下が拍手をしている。


「隣国の王女ともなるとさすがの教養だな」

「辺境伯領の布の素晴らしさがよく伝わってきます」


 続いてクリスタちゃんが詩を読む。


「濃淡でひとを魅了する魔法の布よ。あなたはどうしてそんなに美しいのでしょう。その布を纏うとき、わたくしは自分が美しくなったかのように錯覚してしまいます。罪な布よ、魔法の布よ。どうかわたくしに夢を見させたままでいてください」


 その詩にも拍手が上がった。

 もうこの場でふーちゃんの詩も、ノエル殿下の詩も、クリスタちゃんの詩も意味が分からないと言えるひとはハインリヒ殿下くらいしかいなくなってしまった。

 国王陛下と王妃殿下がその価値を認めてしまったのだ。

 愕然としている両親はクリスタちゃんとふーちゃんを何度も見ているし、わたくしも口は閉じているが心の中は荒れている。

 エクムント様も顔を見れば難しい表情になっていた。


「上流階級の嗜みとして詩を読むことを入れよう」

「誰もがノエル殿下やクリスタ嬢やフランツ殿のように読めませんから、ノエル殿下の作った詩を印刷して学園で配るのはどうでしょう?」

「それはいい考えだ」


 ノエル殿下の詩は印刷されて学園で配られるようにまでなると決まってしまいそうだ。

 この場を離れたいわたくしがエクムント様を見れば、エクムント様はわたくしの手を取って下さる。


「お、踊りましょうか、エリザベート嬢」

「はい、エクムント様」


 詩の話から逃れるには、賑やかな踊りの輪に入るしかない。それがエクムント様の出した結論だった。

 わたくしもそれに合わせてエクムント様の手を取って踊りの輪に入っていく。

 ピアノの音が聞こえてエクムント様と踊っていると、二人きりになったような気がしてしまう。


「エリザベート嬢はピアノが得意でしたね」

「はい、わたくしはピアノ、クリスタは歌が得意ですわ」

「エリザベート嬢のピアノ演奏でクリスタ嬢の歌を聞きたいものです。キルヒマン家で姉妹でピアノ演奏と歌を披露してくれたときのことを思い出します」

「あの頃は小さかったから、恥ずかしいですわ」

「素晴らしかったですよ。私の両親も絶賛していました」


 前キルヒマン侯爵夫妻はもう侯爵位を退いていたが、ずっとわたくしとクリスタちゃんを可愛がってくれていた。

 もしもクリスタちゃんと一緒に歌とピアノを披露するのならば、前キルヒマン侯爵夫妻が見ている場にしたかった。


「前キルヒマン侯爵夫妻にも聞いて欲しいですわ」

「招待状を送れば、喜んでくると思います」

「わたくしは祖父母を知りません。わたくしの祖父母はわたくしが生まれたときには、公爵位を退いて別々に自由に暮らしていたと聞いています。前キルヒマン侯爵がわたくしの祖父母のようなものでした」

「分かります。ディッペル公爵夫人はキルヒマン家に一度養子に入ってディッペル家に嫁ぎましたからね」


 わたくしの言葉にエクムント様は深い理解を示してくれる。わたくしにとっては前キルヒマン侯爵夫妻は特別にわたくしたちを可愛がってくれた大事な方たちだった。


 踊り終わって戻ってくるともう詩の話題は終わっていてわたくしはほっと胸を撫で下ろす。

 わたくしが安心していると、クリスタちゃんがわたくしに声をかけて来た。


「エクムント様とどんな話をしていたのですか?」

「エクムント様がわたくしのピアノとクリスタの歌を聞きたいと言ってくださっているのです」

「それは嬉しいですわ」


 クリスタちゃんが喜んでいると、それをノエル殿下とハインリヒ殿下が聞き付けて話しが大きくなる。


「それならば、国王陛下の生誕の式典でクリスタ嬢の歌をエリザベート嬢の伴奏で披露するのはどうでしょう?」

「それはいいかもしれませんね。お茶会の席ならば、砕けたイメージがありますしクリスタ嬢の歌をエリザベート嬢のピアノ伴奏で披露するのもいいでしょう」


 乗り気のノエル殿下とハインリヒ殿下に、わたくしはできれば前キルヒマン侯爵夫妻に聞いて欲しいということを言えなくなってしまった。


「父上、どうでしょう?」

「クリスタは将来王家に迎えられるハインリヒの婚約者だ。エリザベートは辺境伯家に嫁ぐことが決まっている。いいのではないかな」


 鶴の一声とでもいうのだろうか。

 それでわたくしとクリスタちゃんのお茶会での歌とピアノの披露は決まってしまった。


「とても楽しみですね、国王陛下」

「そうだな、王妃よ」

「私たちの娘が光栄なことです」

「ありがたいことですわ」


 両親もわたくしとクリスタちゃんの歌とピアノの演奏の披露には賛成してくれているようだ。

 問題は、詩のことだった。


「ノエル殿下とクリスタ嬢には国王陛下を讃える詩を読んでもらいましょうか?」


 王妃殿下が青い目を煌めかせている。

 そんなことになるような気がしていたのだ。

 わたくしは頭痛を覚えながらその話を聞いている。ノエル殿下とクリスタちゃんのよく意味の分からない詩を、国王陛下の生誕の式典という大きな場で披露されるとは、あの不可思議な詩がそれだけ広まってしまうことを示していた。

 それでもわたくしにそれを止めることはできない。


 わたくしはそっと目を伏せた。


読んでいただきありがとうございました。

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