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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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35.エクムント様、二十五歳

 エクムント様のお誕生日の朝には、ふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんと庭にお散歩に出た。

 お散歩をしていると庭の向こうからハインリヒ殿下とノルベルト殿下が歩いてくる。


「おはようございます、ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下」

「ノエル殿下からクリスタ嬢とエリザベート嬢とフランツ殿とマリア殿が早朝に散歩をしていると聞いていたのです」

「朝の散歩も気持ちいいですね」


 ハインリヒ殿下がクリスタちゃんに会いたくて早起きしてお散歩に出たのだろう。

 夏休みにディッペル家に泊まったときには、ハインリヒ殿下は朝に弱くて、寝惚けてふーちゃんが千切ったパンを渡されて食べていたのを覚えている。あれだけ朝に弱かったのに、早朝に起きて来られたということは、かなり努力したのだろう。


「ハインリヒ殿下、よく起きられましたね」

「クリスタ嬢、ハインリヒはクリスタ嬢と散歩をしたくて、昨日は夕食後すぐに眠っていたのですよ」

「ノルベルト兄上、格好がつかないから、言わないでください!」

「いいではないか。恋のために頑張る姿もクリスタ嬢は素敵だと思ってくれるよ」

「ハインリヒ殿下が朝に弱いのに頑張って下さって、わたくし嬉しいです」


 頬を薔薇色に染めているクリスタちゃんに、ハインリヒ殿下も赤くなって照れていた。

 早朝の庭を歩いてわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下と別れた。


 朝食はエクムント様とカサンドラ様は忙しいので、わたくしとクリスタちゃんは両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋に行って、部屋で食事を摂った。朝食をしっかり食べておかないと、昼食も晩餐も食べられないのは分かっている。


 新しく誂えた少し濃い目の紫色のドレスを着て、クリスタちゃんは一番薄いものから二番目に薄いものに変えて、エクムント様のお誕生日の昼食会に出る。

 広い食堂でわたくしは辺境伯家のテーブルに着いて、クリスタちゃんや両親、ハインリヒ殿下やノルベルト殿下、他の貴族たちは辺境伯家のテーブルと直角に置いてあるテーブルに着いている。


 カサンドラ様の顔を見て、エクムント様が頷いて立ち上がる。


「本日は私の誕生日にお越しくださってありがとうございます。最高級の葡萄酒と料理を用意しました。存分に楽しんでください」


 エクムント様が葡萄酒のグラスを持ち上げると、わたくしも葡萄ジュースの入ったグラスを持ち上げた。

 乾杯の声が響き渡り、エクムント様のお誕生日会が始まる。


「エリザベート嬢とエクムント殿は本当にお似合いですね」

「二人で立っていると絵画のようです」

「ありがとうございます、ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下。エリザベート嬢は可憐なので、私の隣りにいてくださると、場が華やぎます」

「エクムント様ったら、可憐だなんて……」


 さらりと甘い言葉を囁くエクムント様にわたくしは耳まで熱くなっていた。顔が真っ赤になっていないか心配だ。


「エクムント殿、辺境伯になって三年目の誕生日ですか」

「立派に領地を治められているようで安心します」

「ありがとうございます、ディッペル公爵夫妻。ディッペル家で勉強をさせてもらったおかげです」

「エクムント様とお姉様は本当にお似合いですわ」

「クリスタ嬢もハインリヒ殿下とお似合いですよ」


 両親とクリスタちゃんからの挨拶もエクムント様は余裕の顔で受け取る。


「エリザベート様、そのドレスは前のドレスと違うものではないですか? とてもよくお似合いです」

「ラウラ嬢、ありがとうございます。カサンドラ様から濃さの違う布をいただきました」

「やはり色の濃さで全然違う雰囲気になりますね。わたくしももう一着その布のドレスを誂えたくなります」


 独立派を一掃するのに手を貸してくれたラウラ嬢は、エクムント様よりもわたくしのドレスに釘付けである。わたくしが苦笑して咳払いすると、エクムント様に挨拶をしていないのに気付いたようだ。


「辺境伯、エクムント・ヒンケル様、この度はお誕生日誠におめでとうございます。エクムント様がずっと健康で辺境伯領を治めてくださることをお祈りしております」

「今年も一年健康でいたいものです。ありがとうございます」


 初めにわたくしのドレスに夢中になってしまったことに言及せずに、エクムント様は大人の対応をされていた。


 その後も貴族たちがひっきりなしにやって来て、食事をするどころではない。何とか葡萄ジュースは数口飲めたが、それだけで、何も食べられないまま料理のお皿は下げられていく。

 下げられた料理は使用人に下げ渡されるのだと分かっているが、食べられなかった悲しみでわたくしは未練がましく料理のお皿を視線で追ってしまった。


 昼食会が終わるとお茶会になる。

 お茶会では少し自由になる時間もできるので、ここで軽食とケーキを食べておかなければ後がきついとこれまでの経験で分かっていた。

 サンドイッチにキッシュにケーキを取り分けてエクムント様と一緒にお茶をする。

 当然、クリスタちゃんもハインリヒ殿下もノルベルト殿下もガブリエラちゃんも一緒だった。レーニちゃんも来ているので合流する。


「ケヴィンもお茶会に参加するようになったのですが、辺境伯領までは来ることができませんでした」


 ガブリエラちゃんと弟のケヴィンくんとは姉弟なのだが、ガブリエラちゃんは今はキルヒマン侯爵になっているクレーメンス殿とドロテーア夫人の養子になっている。キルヒマン侯爵家で補佐を務めるイェルク殿とゲルダ夫人の息子であるケヴィンくんとは少し身分が違うのだ。

 ガブリエラちゃんは、この国は長子相続なので、次期キルヒマン侯爵になっているのだ。


「エクムント叔父様、わたくしもいただいた紫の布でドレスを仕立てましたの。でも、エリザベート様を見てしまうと、わたくしはまだまだ子どもですわね」


 わたくしもまだ十三歳でエクムント様と比べると子どもすぎて劣等感を抱いているのだが、ガブリエラちゃんからしてみると十分に大人に感じられるようだ。


「エリザベート様はお美しいです。わたくしの憧れです」


 ガブリエラちゃんが言っているのを聞いて、ラウラ嬢までやって来てわたくしを褒める。ラウラ嬢の方がずっと年上なのに憧れと言われてしまってわたくしは嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気分だった。


 お茶会が終わると晩餐会まで少し時間がある。

 部屋に戻ると髪とドレスを整えて、両親とふーちゃんとまーちゃんのいる部屋に行く。

 ふーちゃんとまーちゃんはわたくしとクリスタちゃんを待っていた。


「おちゃかいには、レーニじょうはいましたか?」

「いましたよ。あまりお話はできませんでしたが」

「わたし、レーニじょうにおあいしたかったなぁ」


 レーニちゃんのことを気にしているふーちゃんに、まーちゃんが言う。


「おにいさま、レーニじょうにわたすしをかんがえていたのですよ」

「しは、はずかしいのでおねえさまたちのまえではよめません。レーニじょうにどうにかしてわたしたいのですが」


 お茶会にだけ参加するレーニちゃんは、リリエンタール侯爵が晩餐会に参加するので、もう部屋に戻って寛いでいる頃だろうか。

 時間的に余裕があったので、わたくしとクリスタちゃんはふーちゃんの手を引いて、リリエンタール侯爵の一家が泊っている部屋に向かう。

 ドアをノックすると、デニスくんとゲオルグくんが顔を出した。


「おねえたま、おきゃくたまー!」

「ねぇね! ねぇね!」


 レーニちゃんを呼んでくれるデニスくんとゲオルグくんに「ありがとうございます」とお礼を言って、出て来たレーニちゃんにふーちゃんが封筒に入れた便箋を渡す。


「これ、わたしがかきました。レーニじょうにあてた、しです」

「ありがとうございます。わたくし、詩はよく分からないのですが、フランツ様がわたくしを思って書いてくださったということは嬉しいですわ」


 封筒を受け取ってレーニちゃんは優雅にお辞儀をして部屋に戻って行った。

 レーニちゃんに封筒を渡せてふーちゃんも満足そうだった。


 晩餐会でも食事は全然食べられず、わたくしはお腹を空かせて部屋に戻ることになった。

 部屋に戻ったら、サンドイッチとキッシュの軽食が紅茶と共に用意されていた。


「エクムント殿からだよ」

「エリザベートがお腹を空かせていないか心配だったのでしょうね」


 エクムント様は今年もわたくしのために軽食を部屋に用意してくださっていた。

 感謝をしつつ食べた軽食はぺこぺこだったお腹に染みわたるように美味しかった。

読んでいただきありがとうございました。

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