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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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33.ふーちゃんとまーちゃんの成長

 辺境伯領からディッペル家に戻ってから、わたくしはふーちゃんとまーちゃんとの時間を大切にしつつ、エクムント様へのお誕生日プレゼントの四枚のハンカチの刺繍も頑張っていた。

 ハンカチは裏側からも見られるので両面美しく見えるように刺繍しなければいけない。

 難しかったが、丁寧に一針一針刺しているとエクムント様を想ってわたくしの胸がいっぱいになる。

 辺境伯領で一緒に過ごした時間はとても楽しかった。顔が赤くなってしまって恥ずかしかったが、それでもエクムント様と過ごせるということが嬉しかった。


「エリザベートおねえさま、きれいなおはな」

「よつばのクローバーもあるわ」

「これはブルーサルビア、こっちがダリア、こっちがアラマンダで、こっちは四葉のクローバーです」

「よつばのクローバー……わたしがちいさいころにくつしたについてなかった?」

「ふーちゃん、覚えているのですか!?」


 ふーちゃんがまだ一歳にもなっていない頃に、わたくしとクリスタちゃんはふーちゃんのために靴下を編んだ。わたくしが四葉のクローバーの刺繍を入れて、クリスタちゃんがタンポポの刺繍を入れた。

 覚えている月齢のはずがないのに、ふーちゃんの口から靴下の話題が出て驚いてしまう。

 ふーちゃんとまーちゃんはテラスの前に作られたお砂場で遊びながら泥だらけの格好でわたくしとクリスタちゃんを覗き込んでいた。


「ヘルマンさんがいっていたんだ。このくつしたは、エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまがつくってくださっただいじなものだから、いっしょうとっておきましょうね、って。えぇっと、よつばのクローバーとタンポポじゃなかったかな」


 ヘルマンさんがわたくしとクリスタちゃんの編んだ靴下を取っておいてくれたのだ。それならばどうしてふーちゃんが靴下のことを覚えていたのか分かる。ヘルマンさんは何度もふーちゃんに靴下を見せてくれたのだろう。


「エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまから、おにいさまはくつしたをプレゼントされていたの? わたくしは?」

「まーちゃんには作っていませんでしたね」

「まーちゃんも何か欲しいですか?」

「ほしいです」


 まーちゃんにおねだりされてわたくしとクリスタちゃんは顔を見合わせる。まーちゃんはもう手作りの靴下を身に付けるような年ではなくなっているし、何をプレゼントすればいいのか分からない。


「まーちゃん、何が欲しいですか?」


 問いかけるとまーちゃんは少し考えて答えた。


「ハンカチがいいわ!」


 こうして、わたくしとクリスタちゃんはまーちゃんの分もハンカチの刺繍をすることになった。まーちゃんにハンカチを上げるのならばふーちゃんにあげないわけにはいかない。ふーちゃんの分も当然、刺繡を施す。


 まーちゃんにはわたくしが向日葵とクリスタちゃんがアサガオ、ふーちゃんにはわたくしが四葉のクローバーとクリスタちゃんがタンポポの刺繍をした。

 出来上がったハンカチを綺麗にアイロンをかけて畳んで渡すと、ふーちゃんもまーちゃんも大事にそれをクローゼットに仕舞っていた。


 ふーちゃんはもう五歳。

 子ども部屋を卒業する時期になっていた。

 ふーちゃんだけが子ども部屋を卒業するのでは寂しいので、両親はお茶会にふーちゃんとまーちゃんを一緒に参加させることを決めたように、一人部屋もふーちゃんとまーちゃんの二人分用意していた。

 隣り同士の部屋で、ふーちゃんの部屋には水色の青空のベッドカバーとカーテンがかけられて、まーちゃんの部屋にはミッドナイトブルーの星の散りばめられた夜空のベッドカバーとカーテンがかけられていた。


 子ども部屋を卒業するのは複雑な気持ちもあったようだが、ふーちゃんもまーちゃんも自分の部屋をすぐに気に入った。


「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、まーちゃん、おへやにあそびにきて!」

「おにいさまのおへやにあそびにいったあとは、わたくしのおへやにあそびにきて」


 順番にふーちゃんとまーちゃんの部屋に遊びに行って、わたくしとクリスタちゃんはおもちゃや本棚や机を見せてもらった。

 ふーちゃんの部屋には列車のおもちゃが並んでいて、テーブルの上には列車の描かれたペンケースやノートが用意されていて、ふーちゃんはそれがお気に入りのようだった。

 まーちゃんの部屋はお星さまの描かれたペンケースやノートが用意されていて、クレヨンや色鉛筆が大量に揃っていて、折り紙のための綺麗な色や柄のある紙も取り揃えてあった。


「ふーちゃんのお部屋もまーちゃんのお部屋も素敵ですね」

「おとうさまと、おかあさまが、わたしのすきなものをいっぱいよういしてくれたんだよ」

「わたくし、じぶんのへやがだいすきよ!」


 一人部屋になるのは嫌だと言って泣いたクリスタちゃんとはふーちゃんとまーちゃんは違うようだ。クリスタちゃんはあの頃我が家に来たばかりで、虐待も受けていて、わたくしだけが頼りのような状況だった。それを思えば一人部屋を怖がるのも仕方がない。


「わたくしとお姉様の部屋の間には窓があるのですよ」

「ほんとうですか?」

「わたくし、まどをみたいわ」

「見に来ますか?」


 そういえばわたくしもクリスタちゃんも子ども部屋に行くことはあってもふーちゃんとまーちゃんを自分の部屋に招いたことはなかった。ふーちゃんとまーちゃんを部屋に招くと、靴を脱いでベッドの上によじ登って窓を覗いている。


「クリスタおねえさまのおへやがみえる!」

「エリザベートおねえさまのおへやと、おにいさまのおかおがみえるわ」

「まーちゃんのおかおもみえる」

「まどでおはなしができるのね! すてき」


 窓のある部屋はふーちゃんとまーちゃんも楽しそうにしていたが、自分たちの部屋に窓を付けて欲しいとは言わなかった。

 ふーちゃんとまーちゃんは本当に自分の部屋を気に入っているようだ。


「子ども部屋に暮らす子どもがいなくなってしまって、寂しいですね」

「寂しいけれど、フランツとマリアの成長は嬉しいね」

「そうですね。フランツもマリアも大きくなりました」


 両親がしみじみと子ども部屋で話しているのを聞いて、わたくしは前世の言葉を思い出していた。

 「七歳までは神の子」という言葉だが、乳幼児死亡率が高かった頃に、七歳までは死んでも神の子としてお返ししただけだと諦めるためのものなのだが、ふーちゃんは五歳、まーちゃんは四歳で、まだまだ安心できる年齢ではない。

 それでも、来年にはふーちゃんは六歳、まーちゃんは五歳で、前世で言えばふーちゃんは小学校に入学する年齢、まーちゃんは幼稚園の年長さんにあたるのだ。

 子どもが小学校に入学すると安心すると言っていたのは誰だっただろう。前世の記憶は朧気で思い出せないが、誰かが言っていた気がする。


「フランツとマリアが一人部屋で暮らすほど大きくなったというのは信じられませんね」

「生まれたときは本当に小さかったからね」

「元気で大きく育ってくれて、わたくしは本当に嬉しいのです」


 ふーちゃんもまーちゃんも大病をしたわけではないし、特別に小さく生まれてきたわけでもない。それでも、生まれたときには首も据わっていなくて小さくて、わたくしもクリスタちゃんも、ふーちゃんとまーちゃんがちゃんと育つのか心配だったときもあった。

 その心配を跳ね除けるようにふーちゃんもまーちゃんもミルクをたくさん飲み、離乳食をたくさん食べ、むちむちになって立派に育って行った。


 ふーちゃんとまーちゃんの成長を思うとわたくしも感慨深くなってしまう。


 これからもふーちゃんとまーちゃんが健やかであることがわたくしの願いだった。

読んでいただきありがとうございました。

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