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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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31.エクムント様のポーカーフェイス

 裏面に薔薇の絵が描いてある白黒印刷された美しいカードをわたくしは買うことにした。この世界の印刷物のほとんどは白黒で、色が付けられているものは少ない。

 わたくしやクリスタちゃんやふーちゃんやまーちゃんの絵本や図鑑には色が付けてあるのでそれだけ高価なものだと今更に思い知る。

 艶々とコーティングされた紙のカードを箱に入れて受け取ると、エクムント様がカードゲームの本も一緒に買ってくれた。そこにはポーカーやブラックジャックやジン・ラミーというゲームや現代で言う大富豪に近いものまで書かれていた。


 本をぱらぱらと捲りながらみんなの買い物が終わるのを待っていると、ふーちゃんとまーちゃんがクリスタちゃんと一緒に紙を大量に買っていた。

 ふーちゃんもまーちゃんもクリスタちゃんも売ってもらった紙を大事そうに抱えている。


「クリスタおねえさま、このかみはとてもきれいです」

「わたくし、これで、おはなをおりたい」

「フランツもマリアも、大事に使いましょうね」

「はい、クリスタおねえさま!」

「はーい!」


 優しく語り掛けるお姉さんなクリスタちゃんと元気にお手手を上げて返事をしているふーちゃんとまーちゃんが可愛らしい。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は色違いのペンケースを買ったようだ。大事そうに持っている。


「これなら万年筆が傷付かずに入ります」

「ハインリヒは去年のお誕生日に父上から万年筆をもらっていたよね」

「ノルベルト兄上も、一昨年は万年筆だったでしょう? 父上は学園の入学に合わせて万年筆をくださったのだと思います」

「僕もあの万年筆は大事に使っているよ」


 仲睦まじい兄弟の会話を聞いていると和んでくる。


 ノエル殿下は摘まみ細工の箱を四つ持っていた。


「これがわたくし、これがエリザベート嬢、これがクリスタ嬢、これがマリア嬢のですわ」

「わたくしにもあるのですか、ノエルでんか!?」

「マリア嬢は来年からお茶会に参加するのでしょう? 髪飾りを持ってもいい年齢です」

「わたくしうれしい! ノエルでんか、だいすきです」

「わたくしもマリア嬢のことをとても可愛く思っていますよ」


 蝶と花の摘まみ細工の髪飾りが入っていて、わたくしは薄紫、クリスタちゃんがピンク、ノエル殿下が青、まーちゃんが水色でノエル殿下が選んでくれていた。

 ばさばさと持っていた紙を落としてしまって、箱を大事に抱えたまーちゃんに、両親が紙を拾って持ってあげる。

 水色の目を潤ませてまーちゃんは感激していた。


「ノエル殿下、マリアにまで本当にありがとうございます」

「わたくしたちにも、ありがとうございます」

「マリア嬢とは接していて、妹のように可愛くなってきていたのです。わたくしがマリア嬢と親しくなりたくて選んだのです。気にしないでください」


 ノエル殿下がまーちゃんを可愛く思ってくれて、髪飾りを選ぶまでしてくれたことが、わたくしにはとても嬉しかった。


 買い物が終わると商人たちにエクムント様が支払いをして、お茶の時間になる。

 お茶の時間にはお待ちかねのポテトチップスが出て来た。

 薄切りのジャガイモをパリパリに揚げるのは、流石は辺境伯家の厨房、聞いただけなのに間違いなくできている。軽く振られた塩がポテトチップスにいい味を付けている。


 トングでお皿の上にとって、そこからは手で持って食べる。

 ぱりぱりと無言で食べ続けるクリスタちゃんとノエル殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下に、やはりポテトチップスは魅力的なのだと感じる。


「ジャガイモがこんなお菓子になるだなんて思わなかった」

「ジャガイモと言えば食事のイメージですからね」

「これはパリパリして本当に美味しい」

「カサンドラ様も気に入りましたか。エリザベート嬢の発想は驚かされますね」


 カサンドラ様とエクムント様も話しながらポテトチップスを食べていた。

 わたくしも手を伸ばすと止められなくなってしまう。

 前世の色んな味のあったポテトチップスよりも素朴ではあるが、今世で食べるポテトチップスもとても美味しい。


 ポテトチップスを食べ終わって、お茶の時間が終わると、手を洗って来て、カードゲームをすることになった。

 わたくし、クリスタちゃん、ハインリヒ殿下と、ノルベルト殿下と、ノエル殿下でカードゲームをして、エクムント様が親になって配ってくれる方式になった。


 ポーカーのルールをエクムント様が簡単に説明してくれた。


「五枚の中で役を作ります。同じ数字が二枚あったらワンペア、それが二組あったらツーペア、三枚同じ数字があったらスリーカード、四枚同じ数字があったらフォーカード、記号は違っても数字が並んでいたらストレート、記号が同じで数字が並んでいたらストレートフラッシュ、ワンペアとスリーカードの組み合わせだったらフルハウスなどです。最初はこれだけの役を覚えておけばいいでしょう数字は二が一番弱くて、ジャック、クィーン、キング、エースと強くなります」


 大きな手でカードを混ぜてエクムント様がそれぞれに五枚ずつカードを配る。

 どのカードを交換するかはよく考えないといけない。


 わたくしはスペードの七とハートの九とダイヤの二とクラブのエースとクィーンだった。

 何を残して交換するか迷ったが、クラブのエースとクィーンを残して交換することにした。クリスタちゃんも三枚、ノエル殿下は二枚、ハインリヒ殿下は三枚、ノルベルト殿下は二枚交換している。


 交換して来た札は、ダイヤの二とハートの四とスペードのクィーンだった。

 わたくしはクィーンのワンペアができたことになる。


 ドキドキしながら全員の交換が終わるまで待っていると、親のエクムント様が聞く。


「勝負なさいますか?」

「降ります」

「わたくしも勝てませんわ」

「無理ですね」


 勝負をしないことに決めたハインリヒ殿下とクリスタちゃんとノルベルト殿下は手札が嚙み合わなかったのだろう。

 残されたのはわたくしとノエル殿下だった。


「勝負しますわ」

「わたくしも、一応」


 ノエル殿下とわたくしでカードを見せ合う。

 わたくしはクィーンのワンペアだったが、ノエル殿下は六とジャックのツーペアだった。


「ツーペアなんてすごい! 負けました」

「最初から六のワンペアができていたのです。それで絵札のジャックを残して交換したら、偶然ツーペアができました」

「ノエル殿下は強運ですわ」

「わたくしは何も役がありませんでした」

「私もです」

「僕はワンペアだったのですが、三だったので、ノエル殿下がものすごくいい顔をされていたので負けたと思って勝負しませんでした」

「え!? わたくし顔に出ていましたか!?」


 ポーカーはポーカーフェイスという言葉ができるくらいに表情を動かさずに冷静にゲームを進めていくのが大事になる。ノエル殿下にそれができていたかとなると、疑問が残る。

 勝負すると言ったときもノエル殿下は自信満々だった。

 その後も何回かポーカーをしたが、ノエル殿下は分かりやすく、役ができていないときにはすぐに顔に出てしまっていた。

 わたくしは顔に出さないように必死に頑張っているのだが、カードを持つ手が汗ばんでしまうのはどうしようもない。

 ポーカーを五回やった結果、ノエル殿下が一回勝って、クリスタちゃんも一回勝って、ハインリヒ殿下が二回勝って、一回は誰も勝負をせずに流れてしまって、わたくしとノルベルト殿下は勝てず仕舞いだった。


「カードゲームをすると性格が出ますね。ポーカーはほとんどが運ですが、勝負するかしないかなどに関しては、駆け引きがありますからね」

「エクムント殿はしないのですか?」

「僕はエクムント殿としてみたいです」

「それでは、一回だけお付き合いしましょうか」


 エクムント様が参加される。

 わたくしは胸がドキドキしてきた。


 カードが配られて交換もして、エクムント様がカードを伏せてテーブルに置く。


「勝負なさいますか? 私は勝負します」

「え!? エクムント殿が勝負するんですか……勝てるかな」

「わたくし、勝てそうにありませんわ」

「わたくしも……」

「僕は勝負しますよ!」

「わたくしは……勝負を見守ります」


 ワンペアはできていたが、最低の二のワンペアだったので勝てる気がしなくて、わたくしが勝負を降りると、クリスタちゃんもノエル殿下も勝負を降りていた。


「わたくし、悪い札ではなかったのですが、男同士の決着を見たかったのです」

「分かりますわ。エクムント様とハインリヒ殿下とノルベルト殿下、誰が勝つか楽しみですものね」


 ノエル殿下はそっと札を見せてくれた。ノエル殿下の手札には五のスリーカードができている。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とエクムント様がカードを見せる。


 ハインリヒ殿下はツーペアで、ノルベルト殿下はスリーカードだった。


 静かにカードを表に返したエクムント様にわたくしもクリスタちゃんもノエル殿下も息を飲む。

 エクムント様は役ができていなかったのだ。


「親が降りるのは面白くないですからね。ノルベルト殿下の勝ちですよ」

「役ができていないのにあれだけ落ち着いて勝負を挑んだのですか!?」

「エクムント様は肝が据わっておられる」


 苦笑しているエクムント様に、ポーカーフェイスとはどのようなものか見せつけられた勝負だった。

読んでいただきありがとうございました。

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