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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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26.写真撮影

 昼食後の一休みする時間を終えると、わたくしとクリスタちゃんとハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下とエクムント様は馬車に乗って湖へと出かけた。

 ふーちゃんとまーちゃんも行きたそうにしていたのだが、今回はお留守番をしてもらった。両親と一緒に過ごしているだろう。

 護衛をしっかりと付けて湖まで馬車で向かって、湖に着くと馬車から降りて護衛に守られながら湖畔を歩く。

 エメラルドグリーンの水は透明度が高く、水底まで見えそうだった。


 美しい湖を見ながらわたくしたちは散策することにした。


 辺境伯領は日差しが強いので、わたくしたちは日除けの上着を着ているし、帽子も被っている。

 湖を渡る風で帽子が飛ばされないように、押さえていなければいけなかった。


「実は、今日は特別な用意をしてきたのですよ」


 エクムント様が言うのにわたくしは馬車が一台多かったということに気付いていた。護衛たちは馬で並走していたので、護衛の馬車ではないと思っていたのだが、何だったのだろう。


「写真を、ご存じですか?」

「写真! 最先端の技術ですね」


 写真という言葉に一番に反応したのはノエル殿下だった。


「わたくし、お父様が亡くなる前に家族全員で撮ったことがあります」

「ノエル殿下は写真を撮ったことがあるのですね」

「定着するまで少し待っていなければいけなかったのが大変でしたが、出来上がった写真は絵よりも鮮明で、大事に取ってありますわ」


 ノエル殿下は写真についてご存じのようだが、わたくしは写真と言われて浮かぶのが紙の写真なので、下手に口に出すとノエル殿下やエクムント様の認識と外れてしまうかもしれない。


「わたくしは写真を撮ったことがありません。写真とはどのようなものか、エクムント様、教えていただけませんか?」

「わたくしも写真は撮ったことがありません」


 わたくしが言えば、クリスタちゃんも一緒に言ってくる。


「写真とは、絵よりも短時間でひとや物を本物そっくりに写すものです。今日の記念に一枚撮ってみませんか? 全員分になるので、何回か撮らなければいけないのですが」


 ネガがあって増やしたりできるような写真ではないようだ。

 わたくしとエクムント様が並んで、その横にハインリヒ殿下とクリスタちゃんが並んで、その横にノエル殿下とノルベルト殿下が並ぶ。

 馬車から準備をして降りて来た撮影班は、箱のようなものを持っていた。

 その箱で写真を撮るようだ。


 じっとしていると、写真班から声がかけられる。


「そのままでお願いします。写真は何枚撮るんでしたか?」

「六枚頼む」

「分かりました。少しの間じっとしておいてください」


 一枚に一、二分程度だろうか。

 写真班が箱の中の板のようなものを取り換えているのが分かった。

 写し終わると馬車に戻って現像作業をして、写真班が戻ってくる。

 出来上がった写真を見せてもらうと、白黒だがかなり鮮明に撮影されているのが分かる。


「銀板写真といって、銀メッキをした銅板に写真を写す方法です。最先端の技術ですよ」

「これは鏡のようになっていますが?」

「そうなのです。左右が逆に写るのだけはどうしようもないんです」


 原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は十九世紀のヨーロッパをモデルにしているのだが、写真もその頃のもののようだ。

 どのような原理か分からないが、写真は左右対称で鏡に映したように写っている。


「写したものが剥がれやすいのでガラスの額に入れておきますね」

「頼むよ」


 写真の確認をすると、わたくしたちは写真を一度写真班に返して、また湖畔を散策することにした。

 まさかエクムント様が写真班を用意していただなんて思わなかったので、わたくしもクリスタちゃんもノエル殿下もハインリヒ殿下もノルベルト殿下も興奮していた。


「写真を始めて撮りましたが、あんなに鮮明に写るものなのですね」

「色が付いていないのが残念ですが、わたくしたちだとはっきり分かりました」

「写真を撮ったのは二度目ですが、このメンバーで撮れてよかったと思いますわ」

「一生の思い出になりますね」

「エクムント殿ありがとうございます」


 写真の出来栄えに驚くわたくしとクリスタちゃんに、ノエル殿下はわたくしたちで写真を撮れたことに喜んでいて、ハインリヒ殿下もノルベルト殿下もとても喜んでいる様子だった。


 湖の周囲を歩いていると林に入る。

 林に入ると日陰もできて少しは涼しくなってきていた。

 わたくしの手をエクムント様が自然に握って下さっているのだが、わたくしは手汗をかいていないか心配だった。

 レーニちゃんのお誕生日ではエクムント様はわたくしの手が震えていたことに気付いていた。手汗をかいていたらそれにも気付かれてしまうのではないだろうか。


 焦るが手を離して、手を拭くことはできずにそのまま手を繋いで歩いていく。

 クリスタちゃんとハインリヒ殿下も手を繋いでいて、ノエル殿下とノルベルト殿下も手を繋いでいて、和やかな雰囲気なのだが、わたくしの胸中は落ち着いてはいなかった。


「お姉様、リスさんがいましたわ」

「え? どこですか?」

「あの木です」


 クリスタちゃんが指さす方向を見ると、リスが木の上を走っているのが分かる。リスを見ていると、頭上を大きな影が通り過ぎた。

 影はリスを狙っていたようだ。

 大急ぎでリスが木のうろに隠れると、影は通り過ぎていく。


「鷹ですね」

「鷹もいるのですか?」

「リスや小動物を狙っていますよ」


 エクムント様の言葉に空を見上げると、小さく遠くの空に鷹が飛んでいくのが見えた。

 これだけ自然に溢れた場所なのだと改めて実感する。


 湖の周りを半周して戻ってくると、写真班は出来上がった写真をガラスの額に入れてくれていた。

 片手で持てるサイズなのだが、銅板というだけあってずっしりと重い。

 エクムント様の隣りで微笑んでいるわたくしの顔を見れば、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の挿絵を彷彿とさせる。

 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の挿絵ではわたくしはもっと目が吊り上がっていて、意地悪そうに描かれていたが、吊り目気味ではあるもののそれほど意地悪そうにも見えなくて、そこは安心した。

 クリスタちゃんは破天荒な令嬢として凛々しく描かれていた挿絵よりも垂れ目な優しい顔立ちで、ハインリヒ殿下は美形すぎる挿絵ほどではないが格好いい雰囲気で、ノルベルト殿下は挿絵の冷徹な感じは全くない優し気な顔立ちだ。

 エクムント様とノエル殿下は『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』に出てこなかったのでよく分からない。


 こうして客観的に見ることができるのも写真のよさなのかもしれない。


 帰りの馬車に乗り込んで、わたくしはガラスの額に入った写真を大事に膝の上に抱いていた。


 辺境伯家に戻ると、ふーちゃんとまーちゃんが出迎えてくれた。

 ふーちゃんとまーちゃんは汗びっしょりになって外で遊んでいたのだ。


「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、おかえりなさい!」

「ノエルでんか、ハインリヒでんか、ノルベルトでんかも、おかえりなさい」

「エクムントさまも!」


 元気に声をかけてくれるふーちゃんとまーちゃんに湖でのことを話す。


「エクムント様が写真を撮って下さったのです」

「しゃしん?」

「しゃしんって、なぁに?」

「本物そっくりに写し出す技術ですよ。これを見てください」

「わぁ! えみたい!」

「エクムントさまと、エリザベートおねえさまと、クリスタおねえさまと、ハインリヒでんかと、ノルベルトでんかと、ノエルでんかがいる!」

「全員で写ったのです」


 写真は物珍しかったようで、ふーちゃんもまーちゃんも夢中になって見ていた。


 この日の写真をわたくしは一生大事にしようと思っていた。

読んでいただきありがとうございました。

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