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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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25.アイスクリームの謎

 ノエル殿下はノースリーブのワンピースを着ていた。

 サマードレスと言えばノースリーブのワンピースなのだが、それはオルヒデー帝国の中でも北部に当たる王都とその周辺が日照時間が少ないので短い夏の間にしっかりとお日様を浴びておかないと、成長に影響するというのがあった。

 辺境伯領では日照時間が長いし、日光も激しく照っている。

 わたくしもクリスタちゃんも夏用のワンピースはノースリーブだったが、日除けのカーディガンを持って来ていた。

 ノエル殿下もノースリーブのワンピースに日除けのカーディガンを羽織るのだろう。


 それにしてもノエル殿下は肌が白い。

 プラチナブロンドの髪に青い目で、色素が薄いのだろう。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は半袖の開襟シャツにスラックス姿だった。


 室内では日除けのカーディガンは着ていないので、ハインリヒ殿下の視線がクリスタちゃんに釘付けになっているのも分かるし、ノルベルト殿下もノエル殿下をちらちらと気にしているのが分かる。

 男性にとっては女性が薄着になるのは気になることなのだろう。


「エリザベート嬢、私の隣りに座っていただけませんか?」

「え、エクムント様がよろしいのでしたら」

「クリスタ嬢はハインリヒ殿下のお隣りで、ノエル殿下はノルベルト殿下のお隣りに席を用意しています」

「ありがとうございます、エクムント殿」

「ノエル殿下の隣りとは嬉しいです」


 席の並びもエクムント様は細かく考えてくださったようだ。

 カサンドラ様と両親が近くの席に座って、わたくしとエクムント様が隣り同士、クリスタちゃんとハインリヒ殿下が隣り同士、ノエル殿下とノルベルト殿下が隣り同士に座っている。


 ふーちゃんとまーちゃんは両親の近くに椅子を用意されていた。


「婚約者とリラックスした場で食事をすることはあまりありません。せっかくですから楽しみましょう」


 フルーツティーの入ったグラスを持ち上げるエクムント様に、わたくしは胸をときめかせていた。


「国王陛下も気に入って下さって、辺境伯領の葡萄酒は中央から注文が入って品切れになりそうです」

「辺境伯領のいい品が有名になるのは素晴らしいことですわ」

「中央の貴婦人たちはこぞって辺境伯領の紫の布でドレスを作っています」

「あの布は本当に美しいですからね。何より、初代国王陛下も好んだ高貴な色です」


 辺境伯領の話をしているエクムント様は誇らし気に見える。胸を張って話している様子はますます格好よくて見惚れてしまう。


「退屈ではありませんか? 私は面白い話の一つもできません」

「全然退屈ではありませんわ」

「よろしければ、エリザベート嬢の学園での暮らしを教えていただけますか?」


 エクムント様はわたくしに興味を持ってくださっている。

 少し考えてから、わたくしも遠慮なく自慢をさせていただくことにした。


「学園では夏休み前の試験の成績が、満点でした。ハインリヒ殿下と同点で首席になりました」

「それは素晴らしいですね」

「授業では乗馬が一番好きです。エクムント様にポニーに乗せてもらっていた頃を思い出します。わたくしは今年も乗馬で夏休み明けの運動会に出ようと思っています」

「去年も乗馬で出られたのですか?」

「はい。一位にはなれなかったけれど、ミスなしで馬を走らせることができました」


 話しながら食事をしていると、料理を食べるスピードは落ちてしまうがとても楽しい。エクムント様がわたくしの話を聞いてくださっているという事実がとても嬉しかった。


「昨日の昼はデザートを残されていたようでしたが、多すぎましたか?」

「昨日はお腹がいっぱいになってしまって」


 胸がいっぱいになってしまって食べられなかったなどと言うことはできない。


「今日のデザートは食べやすいものを用意させました」

「とても楽しみです」

「私はコーヒーを飲みますが、エリザベート嬢はフルーツティーのままでいいですか?」

「はい。わたくし、辺境伯領のフルーツティーがお気に入りなのです」


 料理を食べ終わるとデザートが運ばれて来る。デザートは果物が添えられたアイスクリームだった。

 辺境伯領は暑いし、この時代はまだ冷凍技術が確立していない。アイスクリームを作るとなると、遠くの山から切り出して来た氷を辺境伯領にまで運んで、それを使って作らなくてはいけない。

 辺境伯家であろうとも気軽に食べられるデザートではなかった。


「アイスクリームです。溶けないうちに召し上がれ」

「辺境伯領で食べられるとは思いませんでした」

「特別に氷を運ばせました」


 冷たいアイスクリームは口の中で溶けてするすると食べられてしまう。添えられた果物もジューシーで美味しかった。


 クリスタちゃんとハインリヒ殿下、ノエル殿下とノルベルト殿下も食事を楽しんだようだった。


 食後は全員で大広間のソファに座って話をする。

 わたくしはノエル殿下とノルベルト殿下、クリスタちゃんとハインリヒ殿下がどんなお話をしたのか気になっていた。

 エクムント様と二人で話せるなんてなかなかないので、わたくしはそれに夢中で他の会話を聞いていなかったのだ。


「アイスクリームは王宮では時々出てきますが、夏場はやはり少ないですね」

「わたくしも久しぶりに食べました」

「列車で氷を持ってきたのでしょうか?」


 ハインリヒ殿下とノエル殿下とノルベルト殿下がエクムント様と話している。


「列車と馬車で持って来させました。そのままだとすぐに溶けてしまうので、藁に包んで持って来てもらったのですが、それでもかなり溶けて小さくなっていましたね」

「氷に塩をかければ、温度が更に下がるのでしょう? そうやって、アイスクリームを作られたのですか?」

「エリザベート嬢、よくご存じですね。厨房ではそのようにしたと思います。厨房にまで確認はしていませんが」


 氷に塩をかけると温度が下がるのはこの国では一般常識ではなかったようだ。

 厨房のことまで知っていると驚かれるエクムント様に、わたくしは前世の記憶があるから言えるのだとか口に出せるはずもなく、誤魔化す。


「ディッペル家の厨房でもアイスクリームを作ることがありますからね」

「お姉様はいつの間に厨房にいらっしゃったの?」

「厨房を覗くこともありますよ」

「わたくしも一緒に行きたかったです」


 クリスタちゃんが拗ねているが、わたくしは厨房に顔を出していないなんていうことを口に出せるはずがなかった。


「エリザベート嬢は博識ですね」

「氷に塩をかけるだなんて、初めて知りました」

「厨房のことも気にかけないといけませんね」


 ハインリヒ殿下もノエル殿下もノルベルト殿下もご存じなかったようだ。氷を使って調理をすること自体がほとんどないのだから、知らなくても仕方がないだろう。


「氷に塩をかけるとどうして温度が下がるか、まだよく分かっていないのですよね」


 エクムント様の言葉に、わたくしの頭の中を過ったのは、凝固点降下という単語だった。

 確か前世で習ったことがある。

 前世でわたくしは雪の降る地域に住んでいたので、そのときに雪を解かすために食塩を撒いていたのを覚えている。あれは凝固点を降下させて、雪を零度以下でも溶かせるようにしていたのだったと思う。

 氷に塩を混ぜると、氷が溶ける融解熱に塩が溶ける溶解熱が加わって、凝固点が下がるのだったと思う。


 融解熱とは物質が固体から液体に変わるときに必要な熱で、溶解熱とは固体が液体の中に溶けるのに必要な熱だったはずだ。


 氷が溶けるだけでなく、氷が溶けた水の中に塩が溶けていく熱で、凝固点が氷の零度以下に下がってしまうのだ。


 このようなことを説明しても理解されないだろうし、わたくしがどうしてこの知識を持っているか疑われてしまうかもしれない。

 わたくしは貝になることを決めた。


「壊血病のときも思いましたが、エリザベート嬢は観察力が優れているのですね。壊血病のときも、漁師の言葉から壊血病の予防策を導き出してしまった」

「そうですか? あのときは漁師の言葉を偶然思い出しただけなのです」

「それで辺境伯領は助かっています。ありがたいことです」


 エクムント様に褒められて、わたくしは別の意味でドキドキしていた。これ以上は前世の記憶に頼りたくはない。前世の記憶をわたくしは、壊血病のときと、ポテトチップスのときと、俳句のときに既に使っている。

 前世の記憶があるなんて気付かれてしまったら、大変なことになりそうな気がする。


「エリザベートおねえさま、ちゅうぼうにおさんぽにいったのですか?」

「以前のことです」

「わたくしもいきたかったです」

「フランツとマリアとも一緒に行きましょうね。厨房の仕事を見ることも勉強になります」


 わたくしはふーちゃんとまーちゃんに微笑みかけて誤魔化していた。

読んでいただきありがとうございました。

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