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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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20.レーニちゃんへのお礼状

 ダンスが終わって、お茶会はお開きになった。

 身分の高いものから馬車が用意されるので、わたくしとクリスタちゃんは一番最初にリリエンタール家の玄関に出て来なければいけなかった。

 リリエンタール家の庭で遊んでいたデニスくんとゲオルグくんがレーニちゃんに駆け寄ってきている。


「おねえたま、おたんどーび、たのちかった?」

「楽しかったですよ。デニス、エリザベート様とクリスタ様にご挨拶をして」

「おねえたまのおたんどーびにくてくれて、あいがちょ」

「ゲオルグ、バイバイができますか?」

「うー!」


 駆け寄って来た汗びっしょりのデニスくんとゲオルグくんを嫌がることなく受け入れて、レーニちゃんは一緒にお見送りをしてくれた。

 わたくしとクリスタちゃんの馬車の後には、エクムント様のヒンケル家の馬車が待っている。

 エクムント様とも言葉を交わしたかったが、わたくしは我慢して馬車に乗った。


 ディッペル家に帰ると、ふーちゃんがわたくしとクリスタちゃんのところに駆け寄って来た。もっと小さい頃はよく食べてころころむちむちとしていたふーちゃんだが、五歳になって足もすらりと伸びて、運動量が多くなったのですらっとしている。

 可愛いふーちゃんのふわふわの金髪を撫でると目を細めてわたくしとクリスタちゃんを見上げて来る。


「レーニじょうにおあいしたのでしょう? どうでしたか? レーニじょうはどんなドレスをきていましたか?」

「レーニちゃんはわたくしたちと同じ辺境伯領の紫色の布のドレスを着ていました」

「こうきないろですね」

「よく知っていますね」

「リップマンせんせいがおしえてくれました。むらさきはしょだいこくおうへいかのかみのこうたくのいろだから、とてもこうきないろなのだと。エリザベートおねえさまのかみのいろとおなじですね」


 知っていることを話すときにはふーちゃんは興奮して頬を赤くして早口になっている。レーニちゃんのお誕生日にも行きたかったのを我慢していたのだ、わたくしたちから聞きたいこともいっぱいあるだろう。


「これからレーニちゃんにお礼状を書きます。それにふーちゃんからのお手紙も入れましょうか?」

「いいんですか、エリザベートおねえさま?」

「レーニちゃんも喜ぶと思いますわ」

「ありがとうございます、クリスタおねえさま」


 お礼状の話をすれば、ふーちゃんは喜び勇んで部屋に戻って行った。

 わたくしも自分の部屋に戻ってレーニちゃんにお礼状を書く。


 パーティーに招かれたときには必ずお礼状を書くのが礼儀とされている。それができなければ社交界で何を言われても仕方がない。

 今回は特にわたくしは失礼を幾つもしてしまったし、レーニちゃんのドレスも借りた。念入りにお礼を言わなければいけない。


「エリザベート、クリスタ、帰っていたのですね」

「お帰り、エリザベート、クリスタ」


 お礼状を書き終わってふーちゃんのいる子ども部屋に行くと両親が揃っていた。今回のお茶会は両親は招かれていないので参加していない。わたくしとクリスタちゃんが社交界デビューしたので、保護者を必要とせずにお茶会に参加できるようになったのだ。


「わたくし、リリエンタール侯爵の前でミルクポットを落としてしまいました。ドレスに大量のミルクがかかって、レーニ嬢にドレスをお借りしました」

「エリザベートがそんな失敗をするなんて珍しいですね」

「リリエンタール侯爵に私からも手紙を書いておこう」

「わたくしも書きますわ」

「よろしくお願いします、お父様、お母様」


 両親がリリエンタール侯爵に今日の失礼のお詫びとお礼を手紙にしたためてくれるということでわたくしは安心していた。


 ディッペル家でその日は過ごして、翌日の朝に学園に戻った。

 学園の授業には午後から参加できた。


 学園は夏休み前の試験があるので、勉強に力を入れなくてはいけなくなっている。わたくしは自分は勉強で詰まったことはないが、ミリヤムちゃんに勉強を教えるのに困ってしまうことがあった。

 勉強ができないということがなかったので、わたくしは分からないという感覚がないのだ。ミリヤムちゃんが詰まって悩んでいても、どうして分からないのかが理解できない。

 そういう意味ではわたくしはいい教師役ではなかったけれど、ミリヤムちゃんはそれでも一生懸命勉強についてこようと頑張っていた。


 ミリヤムちゃんに勉強を教えていると、わたくしも復習になるという側面もあった。

 歴史学や政治学は覚えること中心なのでミリヤムちゃんの努力次第だが、数学がミリヤムちゃんは特に苦手なようだった。


「どうすれば解けるのか分かりません」

「この公式を使ってみてください」

「この公式は教科書のどこに載っていますか?」

「このページですよ」


 教科書を捲ってミリヤムちゃんは必死に数式を解いていた。


 お茶の時間に少し遅れてしまったが、ノエル殿下もわたくしとミリヤムちゃんが授業後に分からないところを勉強していると知っているので、何も言われなかった。


「レーニ嬢のお誕生日はどうでしたか?」

「とても楽しかったです。エリザベート様もクリスタ様もミリヤム嬢も来てくださいました。エリザベート様の婚約者のエクムント様も来てくださったんですよ。ミリヤム嬢はエクムント様とは初めて言葉を交わしたのですよね?」

「他のお茶会で遠くから見たことはありますが、言葉を交わしたのは初めてでした。わたくしが寄木細工の箱と柘植の櫛と椿油をプレゼントしますと言ったら、エリザベート様以外の異性からは贈り物は受け取らないと仰ったんですよ」

「エクムント様ったら、情熱的!」


 この話題になるだろうなと思っていたけれど、案の定そうなってわたくしは顔を赤くする。


「エクムント様はわたくしが婚約者だから大事にしてくださるのですわ」


 この国唯一の公爵家であるディッペル家の娘で、初代国王陛下と同じ紫色の光沢をもつ黒髪に銀色の光沢をもつ黒い目のわたくし。どこからどう見ても王家の血を引いていると分かる容貌だ。

 この容貌とディッペル家の娘だということがカサンドラ様の中でわたくしをエクムント様の婚約者にしようとしたことに大きな影響を与えているのは間違いない。


 壊血病の予防法を確立させたときには、どうしてもエクムント様の婚約者になりたくて必死だったが、わたくしが実際に婚約者になってから、エクムント様に大事にされていると、どうしても家柄や容貌がヒンケル家に相応しかっただけで、わたくしでなくてもよかったのではないかと考えてしまうようになってしまった。


 わたくしのことを大事にしてくださっているのは確かなのだが、エクムント様からわたくしはまだ赤ちゃんのときのイメージが抜けていなくて、子ども扱いされている気分しかしないのだ。


「エリザベート嬢は素敵な女性ではないですか」

「ノエル殿下はそう仰いますが、エクムント様が本当にどう思っているかはわたくしには分からないのです」


 十一歳の年の差は大きい。

 無邪気にエクムント様を慕って、婚約者になれたことを喜んでいただけの子どもではわたくしもなくなっている。


 エクムント様にもっと今のわたくしを見て欲しいと欲が出て来てしまっているのだ。


 ため息を吐くとノエル殿下は「ふふっ」と笑って話題を変えた。


「一年生で首席を取るのはクリスタ嬢でしょうか。二年生はエリザベート嬢とハインリヒ殿下、どちらが首席をとるのでしょうね」


 試験の話になるとわたくしは真剣な表情に戻る。

 ハインリヒ殿下であっても、負けられないものは負けられない。わたくしは一年生のときにハインリヒ殿下に勝って首席を取っているし、二年生になっても首席の座は守りたかった。


「わたくしからは程遠い話です」

「ミリヤム嬢も頑張っているのでしょう? 一年生のときの成績はどれくらいでしたか?」

「中の下くらいでした。今回はエリザベート様に教えていただいているので、もう少し上を狙えそうな気がします」


 勉強が苦手で、苛められていたと言ってもミリヤム嬢は中の下くらいの成績だったのか。それならば今回は上位に食い込みそうな予想が立てられる。


「きっと大丈夫ですわ、ミリヤム嬢」

「エリザベート様に教えていただいたことをしっかりと活かします」


 応援するとミリヤム嬢は微笑んで答えていた。


「エリザベート嬢に勝つのは難しいですからね。でも、私にもプライドがあります。精一杯頑張りますよ」

「わたくしも精一杯やります。ハインリヒ殿下、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 成績という点ではライバルではあるがハインリヒ殿下とわたくしは友人でもある。そんなに険悪な雰囲気にはならなかった。


「三年生の首席は僕が取りたいものです」

「わたくしは五年生の首席を取ってみせます」

「ノエル殿下、宣言されましたね?」

「はい。わたくし、自信があります」


 ノエル殿下が五年生の首席、ノルベルト殿下が三年生の首席、わたくしかハインリヒ殿下が二年生の首席、クリスタちゃんが一年生の首席となると、ほとんどの学年の首席がこのお茶会に集うようになってしまう。

 それだけレベルの高いお茶会なのだとわたくしは気が引き締まる思いだった。

読んでいただきありがとうございました。

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