11.ユリアーナ殿下とふーちゃんとまーちゃん
国王陛下一家とのお茶会でわたくしとクリスタちゃんとノルベルト殿下とハインリヒ殿下とノエル殿下とエクムント様が座っているテーブルでは、ノルベルト殿下がエクムント様に話しかけていた。
「本人の前で言うのはどうかと思いますが、ノエル殿下にプレゼントするものに悩むのです」
「イヤリングとネックレスのセットはもう差し上げたのですよね」
「そうなのです。父上は母上にプレゼントすることなく、王家の宝飾職人を連れて来て欲しいものを聞いているし、僕は何を差し上げればいいのか全然分からないのです」
悩まし気なノルベルト殿下にエクムント様は紅茶を一口飲んで喉を潤わせて答える。
「国王陛下の御考えもよいかと思われます。欲しいものは本人に聞くのが一番ですからね」
「聞いてもいいのですか? スマートに欲しいものを察してプレゼントするのが男として格好いいのではないのですか?」
「そんなことはありませんよ。話を聞くということはとても大事なことです。特に将来結婚する相手ともなると、よく話し合わねばなりません」
大人として意見を言ってくれるエクムント様にノルベルト殿下は納得して頷いている。
「それでは、ノエル殿下、何か欲しいものがありますか?」
「わたくしがいただいたのは真珠のネックレスとイヤリングです。真珠は日常的に身に着けるのには向いているとは言えません。他のものでネックレスとイヤリングを下さったら嬉しいですわ。カットガラスなんて、使いやすくてお手入れも楽でいいかもしれません」
「カットガラスのネックレスとイヤリング! いいですね。手配させましょう」
ノエル殿下とノルベルト殿下の話がまとまったところで、エクムント様がそっと助言をする。
「ご本人の前で言ってしまってはいけないのかもしれませんが、それならば、ブレスレットも一緒に作っておくと喜ばれるかもしれませんよ」
「ブレスレットも!? わたくし、ブレスレットは持っておりません」
エクムント様の発言にノエル殿下も身を乗り出してきている。
「ブレスレット! それは思い付きませんでした。ノエル殿下に喜んでいただけるなら、それも一緒に作らせましょう。何色がいいですか?」
「クリアカラーがいいですわ。どんな服にも合わせやすいですから。わたくし、自分の好みをノルベルト殿下が聞いてくださるのがとても幸せです」
「エクムント殿に相談してよかったです。ノエル殿下、これからもノエル殿下のお話を聞かせてください」
「はい、ノルベルト殿下。わたくし、ノルベルト殿下とは気軽に話し合える夫婦になりたいと思っています」
ノエル殿下とノルベルト殿下が仲睦まじくしているのを見て、わたくしも幸せな気分になって来た。
「あの、クリスタ嬢は、何色がお好きですか?」
「わたくし、オールドローズやピーチピンクが好きですわ」
「私もクリスタ嬢に贈り物をしてもいいですか?」
「とても嬉しいです。楽しみにしております」
クリスタちゃんのお誕生日は来年の春なので気が早いがハインリヒ殿下はもうクリスタちゃんの好みを聞いている。それだけクリスタちゃんにプレゼントがしたいのだろう。
「エリザベート嬢は、何色がお好きですか?」
「え? わたくしですか?」
「この流れならば、私も聞けるかと思ったのです」
エクムント様に聞かれてわたくしは驚いてしまう。エクムント様は大人なのでスマートにわたくしの欲しいものは関係なく、似合うものを選ぶのかと勝手に思っていた。
「エクムント様は自分で選ばれるものだと思っていました」
「私も若い子がどんなものが好きか分からなくて……聞ける機会があれば聞こうと思っていました」
「そうだったのですね」
「エリザベート嬢の好みを知りたい気持ちはあったのですが、気軽に聞ける場面がなくて。エリザベート嬢の私への期待が大きいのは感じていましたので」
「そ、それは、エクムント様は大人で格好いいですから」
「年ばかり取っていて、私は女性の気持ちなど分からないのです。エリザベート嬢も私の中では、私に抱っこを強請っていた小さな可愛いエリザベート嬢のままで」
「わたくし、もう十三歳ですわ」
「本当に失礼ですよね。ですが、どうしても可愛い小さなエリザベート嬢を忘れられないのです」
可愛いと言われているし、思い出として大事に思ってくれているのは分かるのだがいつまでも子ども扱いは面白くなかった。少しわたくしがむくれていると、ノルベルト殿下がくすくすと笑っている。
「僕にはアドバイスをくれる格好いいエクムント様も、エリザベート嬢の前では弱いのですね。僕もノエル殿下の前だとついつい弱くなってしまうので分かります」
「お恥ずかしい限りです」
まだまだエクムント様の妹のような存在から抜け出すことはできないが、わたくしはエクムント様の問いかけに答えることにした。
「わたくしは、エクムント様からいただいた薄紫のダリアのネックレスとイヤリングを気に入っておりますわ。色で好きなのは、空色やミントグリーンですが、エクムント様からネックレスとイヤリングをいただいて、辺境伯領の布もいただいて、紫も好きになりました」
「紫色はエリザベート嬢によくお似合いです」
「わたくしは髪の光沢が紫色ですからね」
好きな色を伝えるとエクムント様は頷いて納得していた。
エクムント様も新しいネックレスとイヤリングとブレスレットをくださるのだろうか。期待してしまうとその日が楽しみになる。
「おねえさまのテーブルにうつりたいのです」
「おねえさまたちとおちゃをしたいです」
ふーちゃんとまーちゃんが国王陛下と王妃殿下とユリアーナ殿下と両親のテーブルからこちらのテーブルに移って来ようとする。
給仕が素早く椅子を動かしていると、ユリアーナ殿下がぽんっと勢いよく椅子から飛び降りて、ハインリヒ殿下の膝の上によじ登って座ってしまった。
「ユリアーナ、お行儀が悪いよ」
「おにいたまと、いっと、いーの!」
「ユリアーナもこっちのテーブルに来たかったの?」
「あい!」
お手手を上げて返事をするユリアーナ殿下に、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が苦笑している。プラチナブロンドに青い目のユリアーナ殿下は王妃殿下にそっくりだ。
王妃殿下の姪であるノエル殿下も同じプラチナブロンドに青い目なので、ユリアーナ殿下と並ぶと姉妹のようにも見える。
「ユリアーナ、椅子を持って来てもらうから、そちらに座りなさい」
「おにいたまのおひじゃ! いーの!」
「ユリアーナ! 普段はこんなことはないのです」
「ユリアーナ殿下もお兄様たちに甘えたいのでしょう」
「フランツ殿とマリア嬢は椅子に座っているのに」
「ユリアーナ殿下はまだお小さいですから」
言い合うユリアーナ殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下に、クリスタちゃんがとりなしている。
椅子を持って来られてユリアーナ殿下は不承不承椅子に座っていた。
ふーちゃんとまーちゃんとユリアーナ殿下がテーブルに来ると、テーブルは急に狭くなってしまう。ふーちゃんもまーちゃんもユリアーナ殿下も小さいのだが、子ども用の椅子が結構幅を取ってしまうのだ。
「ユリアーナ・レデラーでつ!」
「ユリアーナでんか、かみのおリボンがかわいいですね」
「わたくしもおリボンしているの。おそろいですね」
挨拶をするユリアーナ殿下に、向こうのテーブルでは座っている場所が遠すぎて声をかけられていなかった様子のふーちゃんとまーちゃんが声をかける。
リボンを褒められてユリアーナ殿下は誇らし気に胸を張っている。
「わたくちのうばが、むつんでくれたの」
「おめめとおなじ、あおいろですね」
「かわいーですね」
ユリアーナ殿下にふーちゃんもまーちゃんも敬語を使っていて、普段の練習の成果が発揮されている。
「おにいたま、だぁれ?」
「ノエル殿下は分かるね? こちらはディッペル公爵家のエリザベート嬢とクリスタ嬢。正面に座っているのは辺境伯家のエクムント・ヒンケル殿だよ」
「エリザベートじょうとクリスタじょう、エクムントどの、よろちくおねがいちまつ」
「ディッペル家のフランツ殿とマリア嬢とはさっき同じテーブルだったよね?」
「フランツどのとマリアじょうと、おはなち、でちなかったの」
「あちらのテーブルは大人のお話で盛り上がっていたからね。これからお話しするといいよ」
「フランツどの、マリアじょう、おねちまつ!」
「フランツです。こちらこそ、よろしくおねがいします」
「マリアです。よろしくおねがいします」
小さなユリアーナ殿下とふーちゃんとまーちゃんの交流も弾みそうでわたくしは可愛い会話を聞いていた。
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