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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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10.まーちゃんのお誕生日はプリンアラモードで

 翌日の朝は、早くにふーちゃんとまーちゃんに起こされた。


「おねえさまたち、おさんぽにいきましょう?」

「おたんぽおたんぽ!」


 ふーちゃんもまーちゃんもわたくしとクリスタちゃんがいない間、お屋敷で二人きりで我慢していたのだ。お散歩くらいは一緒に行ってあげたい。

 涼しいワンピースに着替えて、クリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんも着替えて、両親も揃って一家で王宮の庭をお散歩する。

 お散歩していると、ふーちゃんが「あ!」と声を上げて走り出した。


「レーニじょう、おはようございます!」

「フランツ様ではないですか。おはようございます」


 リリエンタール侯爵一家も朝のお散歩に出ていたようだ。

 レーニちゃんの足元にはしっかりと歩けるようになったデニスくんが寄り添っているし、ゲオルグくんはレーニちゃんのお父様に抱っこされていた。


「デニス、フランツ様にご挨拶を」

「デニスでつ。よろちくおねちまつ!」


 敬語は苦手なのか一生懸命言って頭を下げているデニスくんに、ふーちゃんも挨拶をする。


「フランツ・ディッペルです。よろしくおねがいします」


 格好つけたいお年頃なのか、ものすごく上手に挨拶ができていてわたくしとクリスタちゃんは思わず拍手をしてしまった。


「フランツ、とても素晴らしいご挨拶でした」

「デニス殿もご挨拶ありがとうございます」

「エリザベート様、クリスタ様、ゲオルグとは初めて会いますよね? 弟のゲオルグです」


 灰色のくるくるとした巻き毛が可愛いゲオルグくんは、レーニ嬢に紹介されて小さなお手手を振って挨拶してくれていた。


「とても可愛いですわ。ゲオルグ殿、初めまして」

「小さいのですね」

「もうすぐ一歳になります。少しだけ歩けますが、靴を履くと歩きたがらないので、父が抱っこしています」

「エリザベート様、クリスタ様、フランツ様、マリア様、おはようございます」

「リリエンタール侯爵の御夫君、おはようございます」

「マリアもご挨拶してください」

「マリアでつ。よろちくおねがいちまつ!」


 まーちゃんも言葉が遅い方ではないのだが、なかなか滑舌がはっきりして来ないところはあった。頭を下げるまーちゃんにデニスくんが手を伸ばしている。


「マリアたま!」

「デニスどの!」


 握手をして友好を深める小さな二人にわたくしはあまりの可愛さに仰け反ってしまいそうになった。


「あさからレーニじょうにおあいできるなんて、きょうはいいいちにちになりそうです」

「フランツ様はお上手ですね。そう言われると嬉しいですわ」

「レーニじょうをおもうと、わたしのむねは、ばらのはながさきみだれるのです」

「詩的な表現! フランツ様は詩がお上手でしたね。わたくしは芸術が分からないのであまり意味が分からなくて申し訳ないのですが」

「レーニじょうのこころにひびくしを、いつかつくってみせます」


 はきはきと喋っているふーちゃんに、いつもの甘えた様子はない。来年にはふーちゃんも六歳になってお茶会に出るようになるのだが、これならば問題はないだろうと安心する。


 心配なのはまーちゃんの方だった。


 わたくしとクリスタちゃんは学園に行っていて、社交界デビューもしたので、今後は昼食会や晩餐会にも出席することになるので、ディッペル家に帰っても、王都の式典でも、わたくしとクリスタちゃんがふーちゃんとまーちゃんとの時間を取れるのはどうしても少なくなる。

 その上ふーちゃんまでお茶会に出るようになってしまったら、その間まーちゃんは一人で子ども部屋で待っていなければいけない。

 ふーちゃんとまーちゃんは生まれてからずっと一緒で仲がよかっただけに、兄のふーちゃんだけがお茶会にデビューするのはまーちゃんにとっては納得ができないことだろう。


 考えていると、リリエンタール侯爵一家は王宮の中に戻っていって、わたくしたちも部屋に戻って朝食を食べた。

 朝食の席でわたくしはお散歩で考えたことを両親に話してみた。


「お父様、お母様、来年にはフランツもお茶会に出るようになるでしょう? そのときマリアはつまらなくて、今より酷く泣いてしまうのではないでしょうか」

「昨日もフランツとマリアはわたくしとお姉様が帰って来るまで泣いていました」


 わたくしの言葉にクリスタちゃんが付け加えてくれる。

 両親は顔を見合わせて考えているようだった。


「マリア、あなたは礼儀作法を学ぶ気がありますか?」

「おかあたま?」

「クリスタも四歳からお茶会に出ている。クリスタのときは事情があったからだが、マリアは礼儀作法がきちんとできているのならば四歳からのお茶会参加もできないわけではないよ」

「わたくち、おちゃかいにさんかできるの?」

「マリアが礼儀作法を学んで、ディッペル家の娘として恥ずかしくないように振舞えたら、の話です」

「フランツだけがお茶会に出るようになるとマリアは寂しいだろう? ただでさえ、エリザベートとクリスタが学園に入学していなくなって、社交界デビューもして昼食会や晩餐会に出席するようになったのだからね」


 父と母に説明されて、まーちゃんはぎゅっと小さな手を握って気合を入れていた。


「わたくち、いいえ、わたくし、できます!」

「マリア、やる気ですね!」

「マリアならきっとできます」


 舌ったらずな喋り方をまーちゃんが卒業しようと努力を始めた瞬間だった。敬語も頑張っている。わたくしとクリスタちゃんはそんなまーちゃんを手放しで褒めていた。


 まーちゃんのお茶会参加が早くなるのはふーちゃんにとってもいいことなのかもしれない。ずっと一緒にいた妹がそばにいてくれてお茶会初参加となると、ふーちゃんもいいところを見せたいとなるだろう。

 それに、お茶会にはレーニちゃんも参加するかもしれないのだ。

 そのときにはふーちゃんは間違いなく格好つけることだろう。


 ふーちゃんとまーちゃんのお茶会問題が解決しそうな気配にわたくしは胸を撫で下ろしていた。


 昼食を食べて、お茶の時間になると、わたくしとクリスタちゃんと両親とふーちゃんとまーちゃんは国王陛下の私的な居住区に招かれる。そこには国王陛下と王妃殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下の他に、エクムント様もいらっしゃった。


「エクムント様も招かれたのですか?」

「はい。ノルベルト殿下からお招きをいただきました」


 今年はエクムント様もご一緒にお茶をするようだ。


「辺境伯領と王家にもっと強い繋がりを求めているのだ。幸い、エクムントはオルヒデー帝国との融和をよく考えてくれている」

「それに、辺境伯領の葡萄酒も、紫色の絹の布も、王都でとても流行っております。辺境伯領はなくてはならない領地ですわ」


 国王陛下と王妃殿下の言葉にわたくしは納得する。

 何より、エクムント様とお茶がご一緒できるのが嬉しかった。


「父上には相談するのが恥ずかしいことも、エクムント殿ならば相談できるから、僕がお願いしたんです」

「ノルベルト殿下からお手紙をいただいてとても嬉しく思います」

「エクムントとノルベルトが話したがっていたのだよ。エクムント、ノルベルトは長男で上に兄がいない。エクムントを兄のように慕っているようだ。よろしく頼むよ」

「光栄なことです」


 エクムント様はわたくしとクリスタちゃんとノルベルト殿下とハインリヒ殿下とノエル殿下と同じテーブルに着くようだった。

 国王陛下は父に親し気に話しかける。


「ユストゥス、今日はこう呼ばせてくれ。私の事はベルノルトと」

「はい、ベルノルト陛下。学生時代のようですね」

「ユストゥスとは話したいことがたくさんある。ユリアーナの成長も見て欲しい」

「ベルノルト陛下はユリアーナ殿下が可愛いのですね。私もフランツとマリアが可愛いので分かります」


 ユリアーナ殿下は可愛らしいワンピースを着せられて椅子に座っていた。年齢はまーちゃんと同じ年だが、ユリアーナ殿下の方が生まれが遅いので、今日誕生日を迎えるまーちゃんが先に四歳になる。


「来年はフランツも六歳になりますが、フランツだけをお茶会に参加させるのはマリアが寂しがると思うので、マリアも来年からお茶会に参加させようと思っているのですよ」

「テレーゼ夫人の教育ならば安心であろう」

「テレーゼ夫人はこの国一番のフェアレディと呼ばれた方ですからね」


 国王陛下と王妃殿下と同じテーブルに着いているふーちゃんとまーちゃんは背筋を伸ばして座って、きりっとした顔をしていた。今日自分たちはできることを示しておけば、国王陛下からも王妃殿下からも認められると思っているのだろう。


「クリスタは色々と事情がありましたが、四歳からお茶会に出席しています。マリアも四歳でお茶会に出席させても平気だと思うのです」

「私はその件に関して、賛成だな」

「わたくしもよいと思いますわ。大好きなお兄様がお茶会に出席するのに、どうして自分は出られないのかとマリア嬢が寂しがっては可哀想です」


 国王陛下からも王妃殿下からも賛成されて、ふーちゃんもまーちゃんも喜んでいるようだった。


 ケーキが運ばれて来るかと思ったら、今回は少し違った。

 運ばれてきたのはプリンの上に生クリームを絞って、フルーツを添えた、プリンアラモードだった。


「学生の頃にユストゥスがこれが大好きだったのを思い出して作らせた」

「お誕生日にプリンアラモードも悪くはないのではないでしょうか?」


 国王陛下と王妃殿下の言葉に、豪華なプリンアラモードが一人ずつ運ばれてきたのを見て、ふーちゃんもまーちゃんもお目目を丸くして身を乗り出している。


「エクムント様はプリンアラモードを食べたことがありますか?」

「ありませんね。普通のプリンはあります」

「わたくしもプリンアラモードは初めて食べます」


 この世界に生まれて来て初めての豪華なプリンアラモード。

 紅茶と一緒に食べると、上のカラメルがほろ苦くて、プリンはしっかりと硬めで大人の味がする。


「おいしいです、こくおうへいか」

「わたくしのおたんじょうびに、ありがとうございます」


 スプーンでプリンアラモードを食べながらふーちゃんとまーちゃんが一生懸命お礼を言っている。


 わたくしもプリンアラモードと紅茶を楽しんだ。

読んでいただきありがとうございました。

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