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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
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9.ふーちゃんとまーちゃんの主張

 お茶会が終わって晩餐会までの休憩に入ると、わたくしとクリスタちゃんは一度部屋に戻った。

 客間ではふーちゃんとまーちゃんがヘルマンさんとレギーナと遊んでいたけれど、わたくしとクリスタちゃんを見ると走って来て飛び付く。抱き留めるわたくしとクリスタちゃんに、ふーちゃんとまーちゃんは不満そうだった。


「おねえさまたち、また、いなくなっちゃった!」

「わたくち、おねえたまとあとびたかったのに」


 今年からわたくしとクリスタちゃんが社交界デビューしているということを知らないふーちゃんとまーちゃんにとっては、久しぶりにわたくしとクリスタちゃんに会えたのに、わたくしとクリスタちゃんがふーちゃんとまーちゃんを放ってどこかに行ってしまったような感覚なのだろう。

 まだふーちゃんは五歳で、まーちゃんは明日で四歳だ。

 ふーちゃんとまーちゃんの中でわたくしとクリスタちゃんがいなくなるのが納得できないのは仕方がないかもしれない。


「フランツ、マリア、わたくしたちはノルベルト殿下のお誕生日の昼食会に行って、お茶会まで済ませて来たのです」

「一緒に遊べなくてごめんなさいね。少し休憩したら晩餐会に行かなければいけないの」

「またいなくなっちゃうの?」

「おねえたま、いかないで? おもちゃ、かちてあげるから」


 行かないでと言われるとわたくしもクリスタちゃんも困ってしまう。両親に視線で助けを求めると、父がふーちゃんを、母がまーちゃんを抱き上げた。


「エリザベートとクリスタには大事な役目があるのです」

「エリザベートは辺境伯の婚約者として、クリスタはハインリヒ殿下の婚約者として、式典に出なければいけないんだ」

「わたし、おねえさまたちとあそびたい!」

「わたくちも、おねえたまたちといっちょがいい!」


 全然納得してくれないふーちゃんとまーちゃんに、両親は辛抱強く語り掛ける。


「明日は国王陛下の御一家にお茶に招かれている。明日はずっと一緒だよ」

「あしたはエリザベートおねえさまも、クリスタおねえさまもいっしょ?」

「えーおねえたま、くーおねえたま、どこかいっちゃわない?」

「明日はずっと一緒ですよ。それに、明日はマリアのお誕生日ではないですか。国王陛下は例年のようにケーキを用意してくださっていますよ」

「ケーキ! わたくちのおたんじょうび!」

「マリアのおたんじょうびを、みんなでおいわいできるの?」

「できるとも」

「できますよ」


 明日の話をすればやっとふーちゃんとまーちゃんも落ち着いてきた。

 列車のおもちゃを広げて遊んでいたようだが、レールを敷いてある場所に戻っていく。

 ふーちゃんとまーちゃんが分かってくれてよかったとわたくしはホッとしていた。


 母はお化粧を直して、わたくしも口紅を塗り直して、クリスタちゃんは髪を整えて、父はスーツの皺を伸ばして晩餐会に参加した。

 晩餐会でも前方の王家のテーブルは来客が挨拶に行っていて、とても料理を食べるどころではない様子が見えていた。

 ハインリヒ殿下のお誕生日にはクリスタちゃんもそれに参加するのだ。クリスタちゃんの水色の目が真剣に王家のテーブルを見ているのが分かった。


「国王陛下は辺境伯領の葡萄酒を気に入って下さって、式典でも振舞ってくださっています」

「ディッペル公爵家の方々が着ているドレスは辺境伯領の布なのでしょう?」

「そうです。ディッペル家でも気に入って下さって使ってくださっています」

「わたくしもあの布が欲しいものですわ」

「私のスーツにもいいかもしれない」


 隣りの席に座るエクムント様は辺境伯領の葡萄酒や布を売り込むことに余念がない。わたくしのドレスも、クリスタちゃんのドレスも、母のドレスも、父のスーツも辺境伯領の紫色の絹でできていた。

 ディッペル家としても辺境伯領のものが売れて辺境伯領が豊かになることは喜ばしい。

 わたくしたちの装いは辺境伯領とディッペル家の繋がりの強さを見せつけるものだった。


 晩餐会で夕食を食べ終わると、会場を変えてダンスパーティーが始まる。

 時刻も遅くなっているのでわたくしは眠くなっていたが、ここで欠伸でもしようものならば、ディッペル家の娘は礼儀がなっていないと言われてしまう。

 必死に我慢して、エクムント様にリードされて踊る。

 社交界デビューがどうして十五歳くらいになっているのか。それは夜遅くまで晩餐会の後のダンスパーティーが続くからかもしれない。


「国王陛下、王妃殿下、ノルベルト殿下、エリザベートとクリスタは、これで失礼させていただきます」

「部屋で小さな息子と娘が待っております。それに、エリザベートとクリスタは社交界にデビューしたばかり。まだまだ年若いので」

「私たちは残らせてもらいます」

「そうだな。エリザベートとクリスタは今日が初日だったな。下がるがいい」


 両親が国王陛下と王妃殿下とノルベルト殿下に挨拶をして下がろうとしている。国王陛下も快く許可をくださっていた。これもディッペル家と王家の信頼があるからこそ許されることだ。


「エリザベート嬢を部屋までお送りいたしましょう」

「私もクリスタ嬢をお送りいたします」


 エクムント様とハインリヒ殿下が名乗りを上げてくれて、わたくしの手をエクムント様が、クリスタちゃんの手をハインリヒ殿下が取っている。

 手を取られてわたくしとクリスタちゃんは部屋まで送ってもらった。


 部屋に帰ると泣き声が聞こえていた。

 ふーちゃんとまーちゃんが泣いている。


「ねないー! おねえさまたちがかえってくるまで、ねないー!」

「フランツ様、眠くはないのですか?」

「やーなの! ねないのー!」

「マリア様、明日起きられませんよ?」


 ドアの向こうから聞こえてくる泣き声に、わたくしとクリスタちゃんは脚を急がせる。ドアのところでわたくしはエクムント様に、クリスタちゃんはハインリヒ殿下にご挨拶をした。


「今日はありがとうございました。送っていただけて嬉しかったです」

「ダンス、たくさん踊れて幸せでした。明日も楽しく過ごせたらいいと思います」

「お休みなさい、エリザベート嬢」

「ゆっくり休んでくださいね、クリスタ嬢」


 お辞儀をしてからわたくしとクリスタちゃんは部屋の中に入る。部屋に入ると、ふーちゃんとまーちゃんが泣き止んで、ひっくひっくとしゃくり上げながらこちらを見ている。


 ドレスを手早く着替えて、わたくしがふーちゃんを、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き締めると、ふーちゃんとまーちゃんはやっと落ち着いてきたようだ。


「帰りが遅くなりましたね」

「これでも国王陛下に早く帰らせてもらったのですよ」

「ずっと泣いていたのですか? 夕食は食べましたか?」

「たべた!」

「わたくち、たべたわ」

「それならよかったです。わたくしとお姉様はお風呂に入って来ますから、眠れますか?」

「エリザベートおねえさま、ひとつだけえほんをよんで?」

「わたくちにもひとつ」


 泣いて我が儘になっているようだが、それも仕方がないだろう。

 わたくしはクリスタちゃんに視線を投げる。


「クリスタちゃん、先にお風呂に入って来てください」

「はい、お姉様」

「わたくしは絵本を読みます」


 ふーちゃんとまーちゃんをベッドに寝かせて、わたくしはベッドの端に腰かけて絵本を読む。まーちゃんのリクエストの絵本を読んでいると、先に寝るかもしれないと思っていたまーちゃんは起きていて、ふーちゃんが眠ってしまった。

 眠ってしまったが約束なのでふーちゃんの分の絵本も読む。

 二冊の絵本が読み終わるころには、まーちゃんもぐっすりと眠っていた。


「エリザベートお嬢様……いいえ、社交界デビューなさったので、エリザベート様とお呼びすべきですね。エリザベート様、わたくしたちの力が及ばず申し訳ありません」

「ふーちゃんもまーちゃんも、わたくしとクリスタちゃんが大好きなのですわ。それは嬉しいことです。謝らないでください」

「ありがとうございます、エリザベート様」


 わたくしも「お嬢様」と呼ばれる年齢を超えてしまったのだと自覚する。そういえばヘルマンさんもレギーナも、ふーちゃんとまーちゃんのことは、「お坊ちゃま」や「お嬢様」と呼んでいなかった。


「ヘルマンさんとレギーナはふーちゃんとまーちゃんを、どうして最初から『様付け』で呼んでいたのですか?」

「フランツ様とマリア様はわたくしたちにとってはお仕えする主人です。それに、エリザベート様とクリスタ様は、わたくしたちが来た当時から『お嬢様』と呼ばれていたのでそれに倣いました」

「乳母としてはお世話をする方が主人ですから」


 ヘルマンさんとレギーナの答えに納得したような、よく分からないような気分になる。

 乳母にとっては世話をする子どもが特別な存在であるのは間違いないようだ。


 わたくしは自分の乳母のことは覚えていない。クリスタちゃんも乳母がいたことはないのではないだろうか。


「お姉様、お風呂から出ましたわ」

「クリスタちゃん、今度はわたくしが入らせてもらうわね」


 お風呂から出たクリスタちゃんと入れ替わりに、わたくしもお風呂に入った。

読んでいただきありがとうございました。

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