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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
八章 エリザベートの学園入学
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25.冬の試験の結果

 冬休みの前の試験でもペオーニエ寮が一番の成績を誇っていた。ペオーニエ寮に所属する貴族たちは上位の者たちで、それだけのプライドを持って試験に臨んでいるのだろう。

 ゲオルギーネ嬢が六年生で一番の成績だったということを聞いてわたくしは尊敬の念を抱いていた。

 わたくしの学年にはハインリヒ殿下がいるので、わたくしが全科目一位というわけにはいかない。ほとんどの科目は一位を取れるのだが、数学や化学などハインリヒ殿下に負けてしまう科目もあった。そういう科目に関しては、更に努力していかなければいけないと思っていた。


「ゲオルギーネ嬢は六年生の成績優秀者だとお聞きしました。五年生のときもそうだったのですか?」

「はい、五年生でも成績優秀者の座を取らせていただきました。そのおかげで家柄も申し分ないということでエリザベート様と同室になって指導をさせていただくことになったのです」


 家柄と成績で学園での地位が決まってくる。逆に家柄がよくなければペオーニエ寮に入れていないので、この学園はきっちりと貴族を家柄で区分していると言えるだろう。


 わたくしとハインリヒ殿下が一年生の上位を争っているのは当然として、少し下がって五位くらいにミリヤム嬢がいるのも気になった。高位の貴族に見初められたというミリヤム嬢はそれなりの教育を受けているようだった。

 運動会では目立たなかったが、試験では存在感を見せつけて来ている。


 ミリヤム嬢の家とは交流がなかったので関わったことがないが、どういう人物なのかわたくしはとても気になっていた。


「ミリヤム・アレンス嬢とゲオルギーネ嬢は交流を持ったことがありますか?」

「いいえ、アレンス子爵家とは交友はありません」


 ゲオルギーネ嬢に聞いても分かる情報がない。

 ミリヤム嬢が噂通りに上位の貴族に見初められたのが本当なのかも分からない。

 ミリヤム・アレンスという人物はわたくしにとっては謎の人物だった。


 学園での成績は両親に送られるので、隠すことはできないし、わたくしも隠す気はなかった。

 両親に褒められたい気持ちもなかったわけではない。


 試験期間が終わると長い冬休みが始まる。

 冬休みには両親のお誕生日と、国王陛下の生誕の式典がある。

 国王陛下の生誕の式典にはまだ参加することはないが、クリスタちゃんは来年からはハインリヒ殿下の婚約者として参加するのだ。わたくしも少し早いがクリスタちゃんに付き添って来年からは国王陛下の生誕の式典に参加することになるだろう。


 ディッペル公爵領に帰るとふーちゃんとまーちゃんが飛び付いてきた。ものすごい勢いで飛び付いて来たので、受け止めるのによろけてしまったが、わたくしはなんとか二人を抱き締めた。


「エリザベートおねえさま、おかえりなさい!」

「えーおねえたま、かえってきてくえた! だいすち!」

「フランツ、マリア、ただいま帰りました。わたくしもフランツとマリアが大好きですよ」


 お互いに抱き締め合っていると、クリスタちゃんがもじもじとこちらを見て来ている。クリスタちゃんにも両腕を広げると、クリスタちゃんも抱き付いてきた。


「お姉様、お帰りなさい。お父様とお母様からお姉様の成績を聞きました。総合では一位だったというではないですか」

「数学や化学ではハインリヒ殿下に負けてしまいましたがね」

「それでもすごいですわ。ハインリヒ殿下は二位だったのですか?」

「そうですよ」

「素晴らしいお姉様と婚約者を持てて誇りに思います」

「婚約者になるのは来年の春でしょう? 少し気が早いのではなくて?」

「そうでした。でも、もう婚約者になったような気分なのです」


 飛び付くのを躊躇っていたときとは全く違って、クリスタちゃんは浮かれているようだった。

 皇太子のハインリヒ殿下の婚約者となって王族の仲間入りをするのはそんなに簡単なことではない。けれど、大好きなひとの婚約者となれることがどれだけ嬉しいかは、わたくしも分からないわけではなかった。


 両親のお誕生日に向けて、クリスタちゃんはエクムント様からいただいた辺境伯領の特産品の紫色の布でドレスを作っていた。デザインは違うが、わたくしとクリスタちゃんが同じ布でドレスを作っていることは一目見れば分かる。


「わたくしだけではないのですよ。マリア、見せて差し上げて」

「えーおねえたま、みてくだたい!」


 クローゼットからドレスを引きずって来たまーちゃんにわたくしは驚く。そのドレスは同じ紫色の布で作られていた。


「わたくしとクリスタとマリアと三姉妹、お揃いなのですね」

「それだけではないのですよ。フランツ」

「はい、クリスタおねえさま」


 ふーちゃんが見せてくれたのは紫色の布で作られたスーツだった。四歳のふーちゃん用のスーツは小さくて可愛らしい。


「お母様も同じ布でドレスを誂えているのです。お父様はスーツを誂えています。お父様とお母様のお誕生日は家族みんなでお揃いなのですよ」


 辺境伯領の特産品の紫色の布を家族で使う。それはディッペル家が辺境伯家と深い繋がりがあることを明確に見えるように示す行為でもあった。

 わたくしは両親のお誕生日が楽しみでならなかった。


 両親のお誕生日には毎年ふーちゃんとまーちゃんも参加している。

 それは父が可愛い息子と娘をお客様に見せたいという願いからであったが、すっかりと習慣になっている。ふーちゃんもまーちゃんも出席する気でスーツやドレスを用意していた。


「そろそろおもちゃのコーナーはいらなくなってきたでしょうか」

「なくてもフランツもマリアもお茶会に参加できるかもしれないね」

「お気に入りの絵本だけ用意させておきましょうか」


 両親もふーちゃんとまーちゃんの参加についてよく考えているようだった。

 今年はおもちゃのコーナーを作らずに、ふーちゃんとまーちゃんはお茶会に普通に参加して、どうしても飽きてしまったときのためにお気に入りの絵本だけ用意されることになりそうだ。

 六歳でお茶会にデビューしたわたくしだが、クリスタちゃんは四歳でお茶会にデビューしているので、ふーちゃんもそろそろそんな年なのかもしれない。まーちゃんはさすがに少し早い気もするが、ふーちゃんと揃ってとても賢い子なので大丈夫かもしれない。


「フランツ、マリア、困ったことがあればヘルマンさんやレギーナに言うのですよ」

「はい、おかあさま」

「あい、おかあたま! おむちゅがぬれたら、どうちればいい?」

「大きな声は出さずに、レギーナに着替えさせてもらうように頼むのです。できればお手洗いを使いましょうね」

「まにあわないかもちれない」

「間に合わなかったときは、着替えればいいだけです」

「ちれーなドレス、よごちたくないの」


 真剣な眼差しで訴えるまーちゃんに母は優しく語り掛ける。


「普段はほとんどできているから大丈夫ですよ。子ども部屋と違ってお手洗いまで遠いので、早めに言うのが大事ですね」

「ちれーなドレス……」

「今日からお手洗いの特訓をしましょう。マリアならばできるはずです」


 両親のお誕生日に出席して、ドレスを汚さないために、まーちゃんはトイレトレーニングの特訓を受けることになった。まーちゃんはやる気で頑張っていた。

 まーちゃんが両親のお誕生日に悲しい思いをすることがないようにわたくしもまーちゃんに細かく声掛けをしようと心に決めていた。


 ふーちゃんは寝るとき以外はオムツは外れている。寝るときもほとんど失敗することはないが、失敗したときに四歳になっているので汚す範囲が広いため寝るときだけはオムツを付けていた。


「わたし、おちゃかいではオムツをつけたほうがいいかな?」


 不安そうなふーちゃんに母が優しく微笑む。


「フランツは失敗することもないので大丈夫ですよ」

「かっこいいスーツをよごしたらいやだな。レーニじょうにみられてはずかしいおもいをするのもいや」

「オムツをしていた方が恥ずかしいのではないですか?」

「それはそうだけど」

「フランツはできるのだから自信をもってください。きっと大丈夫です」


 母に言われてふーちゃんも落ち着いているようだった。

 まーちゃんのトイレトレーニングの特訓も終わるころに、レーニちゃんが家に泊まりに来た。

 今回もリリエンタール侯爵がまだ復帰していないので、一人で泊まりに来たのだ。


「レーニ嬢いらっしゃいませ」

「お世話になります、ディッペル公爵、公爵夫人、エリザベート様、クリスタ様、フランツ様、マリア様」

「レーニ嬢が来てくださって嬉しいです。リリエンタール侯爵はいつ頃復帰なさる予定ですか?」

「春のハインリヒ殿下とクリスタ様の婚約式には参加すると言っていました」

「それまでもう少しですね」


 レーニちゃんが来て一番喜んだのはふーちゃんだった。


「ようこそ、レーニじょう。サンルームにおさんぽにいきましょう」

「外は寒いですからね。サンルームなら少しは温かいかもしれません」

「レーニじょうと、コレットとシリルをみたいです」

「わたくしも見せていただきたいですわ」


 レーニちゃんの手を引っ張るふーちゃんに、レーニちゃんもまんざらではない顔をしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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