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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
八章 エリザベートの学園入学
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17.夏休みの生活

 夏休みにわたくしはクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんとたくさん触れ合おうと決意していた。学園の宿題は出ているがそれは早めに終わらせて、クリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんとの時間をしっかりと取る。クリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんがこの年なのはこの一年しかないのだ。

 クリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんもわたくしにとってはかけがえのない可愛い弟妹だった。


「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、かくれんぼをしましょう!」

「わたくち、かくれるのとくいよ!」

「それでは、年長のわたくしが鬼をやりましょうね。クリスタちゃんも隠れてくださいね」

「きゃー! おにがくるー!」

「こあーい!」


 楽しそうにかくれんぼで隠れているふーちゃんとまーちゃんだが、ふーちゃんはカーテンを巻き付けただけで足が出ているし、まーちゃんはソファのテーブルの下に入り込んだだけで丸見えである。


「ふーちゃん見つけました」

「みつかったー!」

「まーちゃんも見付けました」

「みちゅかったー!」


 ふーちゃんとまーちゃんを見つけてからわたくしは二人に囁く。


「クリスタちゃんを一緒に探しましょう。どこにいると思いますか?」

「ここ!」


 ふーちゃんが棚の上の花瓶の中を覗いている。そんなところにクリスタちゃんは入れるはずはないのだが、楽しんでいるようだから細かいことは言わないようにする。


「ここかなー? ここかなー?」


 テラスを見て回って、子ども用のベッドの下も見たまーちゃんが首を傾げている。

 わたくしは心当たりがあったが、ふーちゃんとまーちゃんのために口に出さなかった。


 ふーちゃんとまーちゃんがじりじりとクローゼットに近付いていく。

 クローゼットの扉に手をかけてふーちゃんとまーちゃんが大きく息を吸った。


「クリスタおねえさまー!」

「くーおねえたまー!」

「はぁいー! 見つかってしまいました」


 クローゼットの中にクリスタちゃんは隠れていた。

 かくれんぼがブームのようでお散歩に行っても、ふーちゃんとまーちゃんはかくれんぼをしたがった。庭でも隠れるのだが、ふーちゃんとまーちゃんはどこか見えているので見つけやすい。


「わたし、エリザベートおねえさまにみつからないかくればしょをさがさなきゃ!」

「わたくちも」

「まーちゃん、わたしのまねしちゃだめだよ」

「わたくちも、おにいたまとかくれるのー!」


 時々衝突することはあってもふーちゃんとまーちゃんは基本的に仲がいいことはわたくしも知っている。わたくしは言い争いになったら止めるつもりでいたがふーちゃんとまーちゃんがそれ以上は言い争うことがないので止めなかった。


 かくれんぼだけではなくて、ふーちゃんとまーちゃんは虫にもとても興味がある。真夏なので庭には虫がたくさんいる。蝶々も飛んでいるし、カナブンや蜂やアブもいる。蝉も庭で鳴いている。トンボも噴水の上を飛んでいる。

 虫取り網などないので手で捕まえようとするふーちゃんとまーちゃんにわたくしとクリスタちゃんは丁寧に言い聞かせる。


「虫も生きているのです。強く握られたら虫は死んでしまいます。死ななくても羽根が取れることもあります」

「虫を捕まえたい気持ちは分かります。手で持つだけで弱ってしまうので、できれば捕まえない方がいいのですが、どうしても捕まえたいときには優しく持つことを心がけてください」

「羽根をもいだり、足を千切ったりしてはいけません」

「お口に入れてもいけません」


 教えられてふーちゃんとまーちゃんは真剣に頷いていた。

 まーちゃんは特にこの前アゲハ蝶の羽をくしゃくしゃにしてしまったので反省しているようだ。

 手を伸ばすときに「そーっと、そーっと」と言って蝶々に逃げられていた。

 過去の過ちを学習できるまーちゃんにわたくしは感心する。ふーちゃんもまーちゃんがアゲハ蝶の羽をくしゃくしゃにしていたのは見ていたので気を付けていた。


「エリザベートおねえさま、だっこして! あのセミ、とれそう」

「分かりました」


 四歳のふーちゃんは重くなっていたが短時間ならば抱っこできないほどではないので抱っこするとふーちゃんが木にとまっている蝉を捕まえる。優しく羽根ではない部分を掴んで、羽根も脚も持たないように気を付けているのが分かる。


「おにいたま、セミ、みてて!」

「まーちゃん、おててをだして。にげてもいいから、やさしくもつんだよ」

「ありがとう、おにいたま」


 まーちゃんにも蝉を持たせてあげているふーちゃんの優しさに感動してしまう。わたくしの弟妹はこんなにも優しく仲がいい。


 蝉を観察した後、ふーちゃんは蝉を逃がしてあげていた。


「エリザベートおねえさま、こんちゅうずかんをよんで」

「セミのことがしりたいの。ちょーちょも」


 子ども部屋に帰るとふーちゃんとまーちゃんはわたくしに昆虫図鑑を読んでくれるようにお願いしてきた。手と顔を洗って、汗を拭いながらソファに座って冷たいミルクティーを飲んで、わたくしはふーちゃんとまーちゃんに囲まれて昆虫図鑑を読む。

 蝉が成虫になってからは一週間くらいしか生きないこと、幼虫のときは何年も土の中で動かずにいることなどを話していくとふーちゃんの目が潤んでくる。


「セミさんにはあまりじかんがなかったのに、つかまえちゃった……」

「少しの時間だけですぐに放してあげたでしょう」

「わたし、いっしゅうかんしかいきられなかったら、ずっとだいすきなひとといたい。セミさん、すきなひとといられるかな?」

「どうでしょうね。雄の蝉が鳴くのは、雌の蝉に呼びかけるためと言われていますし、雌の蝉はそれを聞いて近寄ってくるといいますし」

「セミ、けこんちるためにないてうの?」

「そうですね」


 蝉の話をしていると、クリスタちゃんも汗で濡れた服を着替えて子ども部屋に戻って来た。ふーちゃんとまーちゃんも着替えさせられて、わたくしもクリスタちゃんと入れ違いで着替えに行く。

 ディッペル領の夏は暑いが、まだ外で遊べるくらいだった。

 辺境伯領ではわたくしのような肌の白いものは夏は火傷するくらいの日差しなのだろう。

 王都ではエクムント様の肌と髪の色と身長は目立っていたが、辺境伯領ではわたくしの肌の色の方が目立つようになる。

 中央と辺境伯領ではまだこれだけ差があるのだと見せつけられる気になってしまう。


 着替えて戻ってくるとふーちゃんとまーちゃんはソファに座ったまま眠っていた。外で遊んで疲れたのだろう。

 わたくしもクリスタちゃんとソファに座って静かに話をする。


「ふーちゃんとまーちゃんにはわたくしが学園に行っている間寂しい思いをさせましたが、クリスタちゃんは大丈夫ですか?」

「わたくしも寂しかったですが、お姉様がふーちゃんとまーちゃんと遊んでいるところを見ていると幸せな気分になります」

「クリスタちゃんもわたくしに甘えたいのではないですか?」


 問いかけるとクリスタちゃんがもじもじと手を捏ねだす。


「わたくしもお姉様に甘えていいのですか?」

「クリスタちゃんもわたくしの大事な妹です」

「それなら、お姉様、一緒にノエル殿下が下さった詩集を読みませんか?」

「いいですよ。読みましょう」


 ふーちゃんとまーちゃんが眠っている間、クリスタちゃんもわたくしとの時間を欲しがっていたようだ。詩集を持って来て二人で読むと、学園に入学する前の日常を思い出す。

 クリスタちゃんと一緒にリップマン先生の授業を受けて、ピアノと声楽のレッスンを受けて、土曜日には乗馬の練習をして、忙しかったが楽しかった。


「今はふーちゃんとまーちゃんとリップマン先生の授業を受けているのですか?」

「はい。ふーちゃんとまーちゃんは一生懸命ですが、小さいので集中力が続かなくて、休憩がたくさん必要です」

「クリスタちゃんの勉強も進んでいますか」

「お姉様と勉強したところを復習したり、新しく物語を読んでリップマン先生と読解していったり、隣国の本を読んだりしています」


 学園に入学してもわたくしは勉強で困ることはなかったので、クリスタちゃんもリップマン先生の授業を受けていれば大丈夫だろうと安心できる。


「わたし、ねちゃった!?」

「わたくち、ねたった?」

「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、おなかすいてきちゃった」

「おひうごはん、まぁだ?」


 起きて来たふーちゃんとまーちゃんに声をかけられて、わたくしとクリスタちゃんは詩集を片付けた。

読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつみんなが大きくなって、いろんな人と出逢って成長していってる姿はいいてすね。 今外は雪ですが、作中では夏休みを楽しんでいるのが良くわかります。 来年度はいよいよクリスタちゃんも入学する…
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