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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
八章 エリザベートの学園入学
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16.レーニちゃんへのお誕生日の手紙

 翌日はわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんで朝食前にお散歩に行った。庭をお散歩しているとハシビロコウのコレットがクロードから餌をもらっている場面に出くわした。

 ふーちゃんがクロードの足元に駆け寄って目を輝かせている。


「わたしもえさ、あげたい!」

『フランツ様はなんと仰っているのですか?』

『餌を上げたいと言っているのですが、危険ですから止めます』


 隣国の言葉を主に話して、この国の言葉はあまり話せないクロードはふーちゃんの言っていることが分からなかったようだ。説明して、わたくしがふーちゃんを止める。


「コレットの餌は生魚で、ふーちゃんにはあげられませんよ」

「わたしもしたいー!」


 賢いのだがふーちゃんもまだ四歳の男の子である。こういうときには困ってしまう。

 どう説得しようかとわたくしが考えていると、カミーユがふーちゃんの手に木の実を持たせてくれた。木の実を見たオウムのシリルが、羽ばたいてふーちゃんの前にやってくる。

 木の実を欲しがるシリルに、ふーちゃんは木の実を手渡して満足そうにしていた。


『ありがとう、カミーユ』

『お役に立てたなら幸いです、エリザベート様』


 カミーユにお礼を言っていると、クリスタちゃんがまーちゃんを止めていた。まーちゃんの手にはアゲハ蝶が握られている。


「まーちゃん、蝶々を強く握ってはいけません」

「わたくち、ちょうちょ、ほちいの!」

「まーちゃん、手を放して」


 頑固に手を放さないまーちゃんを説得して、手を放させるころには、アゲハ蝶の羽根はくしゃくしゃになっていた。


「お姉様、これではこの子はもう飛べませんわ」

「まーちゃん、アゲハ蝶を強く握ると、羽が壊れてしまうのです。まーちゃんが握ったアゲハ蝶は飛べなくなってしまいました」

「ちょうちょ、とべないの!?」


 こんなことになるとは思わなかったのか、まーちゃんが涙目になっている。できるだけ優しい声でわたくしはまーちゃんに教える。


「このアゲハ蝶は責任をもって毎日花をあげて飼いましょう。もう二度とアゲハ蝶を握ってはいけませんよ?」

「あい……ごめんなたい、えーおねえたま、くーおねえたま」


 ぽろりと大粒の涙がまーちゃんの丸い頬を流れ落ちていく。まだ三歳のまーちゃんは手加減ができないし、綺麗なアゲハ蝶を見てしまったら我慢ができなくなっても仕方がなかった。

 まーちゃんの涙を拭って、わたくしは抱き締めて慰めた。


 飛べなくなったアゲハ蝶はサンルームに入れて、外敵が来ないようにして、花を毎日届けるようにカミーユとクロードにお願いしておいた。


 朝のお散歩が終わると朝食の時間になる。

 朝食を食べ終わると、わたくしは宿題をする前にレーニちゃんに手紙を書くことにした。もうすぐレーニちゃんのお誕生日なのだ。


「わたくしはレーニ嬢に手紙を書きますが、クリスタとフランツとマリアはどうしますか?」

「わたくしもレーニ嬢にお手紙を書きます」

「わたし、じ、すこししかかけない」

「フランツ、わたくしが代筆しましょうか?」

「クリスタおねえさま、おねがいします」

「わたくち、じ、かけにゃい」

「マリアはわたくしと書きますか?」

「えーおねえたま、おねがいちまつ」


 ふーちゃんはクリスタちゃんと、まーちゃんはわたくしとお手紙を書くことで納得して、わたくしたちは子ども部屋に移動した。

 子ども部屋でふーちゃんはクリスタちゃんに手紙を代筆してもらっている。


「レーニじょう、このむねのときめきがわかるでしょうか? わたしはうまれたばかりのこじかのようにふるえているのです。レーニじょうへのわたしのおもいは、うみよりもひろくふかいのです」

「ふーちゃん、なんて素晴らしい表現なんでしょう! そんな表現をどこで覚えたのですか?」

「クリスタおねえさまが、わたしにしをよんでくれました。わたしは、そのしをまねしているのです」


 四歳とは思えない表現力にわたくしは驚くと共に、やはりあまり意味が分からずに首を傾げてしまう。クリスタちゃんは絶賛しているが、ふーちゃんの詩は確かに四歳とは思えないものだが、わたくしにはどうしても意味が分からないのだ。

 小鹿のように震えているとはどういうことだろう。


「おにいたま、むつかちい」

「まーちゃんにはむずかしいかもしれないね」

「おにいたまのち、よくわからにゃい」


 まーちゃんもわたくしと同じ感想を抱いているようでわたくしは心のどこかでホッとしていた。


「まーちゃんは何てお手紙を書きたいのですか?」

「レーニじょう、おたんどうびおめめとうございまつ。デニスどのと、ゲオルクどのに、おあいしたいでつ」

「とても可愛いお手紙ですね。わたくしがそのまま書きますね」

「あい、えーおねえたま」


 ふーちゃんは詩を読むのが好きなようだが、まーちゃんのお手紙は非常にまともでわたくしは安心してしまう。まーちゃんのお手紙を書いてから、わたくしも自分のお手紙を書いた。


『レーニ・リリエンタール嬢

 今年の夏はレーニ嬢のお誕生日を祝いに行けなくて残念です。来年はきっとレーニ嬢のお誕生日に呼んでくださいね。十二歳のお誕生日おめでとうございます。レーニ嬢が来年学園に入学してくるのを楽しみにしています。

 エリザベート・ディッペル』


 簡単だがわたくしもお手紙を書いて、ふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんのお手紙と一緒に封筒に便箋を入れると、封筒がパンパンになってしまった。

 これは封筒を分けた方がいいかもしれない。


「お姉様、折り紙を入れようと思っていたけれど、これでは入りませんね」

「封筒を分けましょう」


 折り紙を入れたいクリスタちゃんのためにも、封筒を分けることにすると、ふーちゃんもまーちゃんもクリスタちゃんの横で一生懸命折り紙を折っていた。

 簡単な折り紙ならば折れるようになったふーちゃんと、一番簡単なチューリップだけ折れるまーちゃん。

 それぞれの封筒に便箋と折り紙を入れて、フランツ、マリア、クリスタ、エリザベートと名前を書いていく。


「わたし、じぶんのなまえ、かけます」

「それでは、表に『レーニ嬢へ』と書くので、裏に『フランツ』と自分の名前を書いてください」


 手を上げて発言するふーちゃんにクリスタちゃんが丁寧に教えている。ふーちゃんは大きな字で「フランツ」と自分の名前を書いていた。


「わたくち、じ、かけにゃい……」

「まーちゃんは、わたくしが書きましょうね」

「わたくち、じ、かきたい」

「まーちゃんもリップマン先生に字を習うように、お父様とお母様にお願いしましょうか」

「あい、えーおねえたま」


 少し早いかもしれないが、興味を持っているときが勉強をするときであるとわたくしは思っている。ふーちゃんが自分の名前を書けるようになって、まーちゃんも自分の名前を書きたい気持ちが出て来たのだろう。それは大事にしたかった。


 両親にお願いすると、リップマン先生に相談してくれていた。


「マリアはまだ三歳ですが、字を覚えられるでしょうか?」

「あの小さな手でペンを握れるだろうか?」

「マリアお嬢様はまずはクレヨンで練習してみましょう。フランツ坊ちゃまも最初はクレヨンでした」


 クレヨンならばまーちゃんの小さな手でも制御ができるかもしれない。ふーちゃんは今は何とかペンを使えているが、最初はクレヨンだったという。


「わたくち、クレヨンをちゅかうの?」

「マリアお嬢様は小さいので、手首が上手く定まらないと思います。ペンを使うよりも、クレヨンで練習してからの方がいいと思います」

「わたくち、じぶんのなまえ、かけるようになる?」

「練習すれば書けるようになると思いますよ」


 リップマン先生に言われてまーちゃんは少し考えていたが納得したようだ。


「わたくち、クレヨンでれんちゅーちる」

「文字を覚えることから始めましょうね。本は好きですか?」

「わたくち、えほんだいすちでつ」

「それはいいことですね。絵本をたくさん読みましょうね」


 リップマン先生との授業計画も立ったようで、わたくしはまーちゃんもふーちゃんもしっかりと勉強できるのではないかと期待していた。

読んでいただきありがとうございました。

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