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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
八章 エリザベートの学園入学
225/528

15.ディッペル領に帰省する

 夏休み前の試験は寮ごとに点数を競うような形になっていた。

 リップマン先生の授業を受けていたわたくしは問題なく試験で高い評価をいただいて、ハインリヒ殿下も試験で高い評価を得ていた。上級生のノエル殿下もノルベルト殿下も当然素晴らしい教育を受けているので試験では高い評価を受ける。

 試験の結果はペオーニエ寮が一位で、リーリエ寮が二位、ローゼン寮が三位というものになった。


「毎年試験ではこのような結果になりますが、秋にある運動会では順位が変わってくるのですよ」


 お茶会のときにノエル殿下が教えてくれた。


「運動会では乗馬の技術を競ったり、リレーをしたりします。ダンスもありますが、ペオーニエ寮が有利というわけにはいきません」


 寮ごとにきっちりと身分で分けられているので、ペオーニエ寮の生徒は上級の教育を受けていることになる。しかし、運動会となると個々人の身体的能力が問題となって来るので、ペオーニエ寮が有利というわけにはいかないようだ。

 ノルベルト殿下の言葉にわたくしは身を引き締める。


「わたくし、あまり走ったことがありません。走る練習もした方がいいのでしょうか?」

「リレーの選手は寮の中で測定して、足の速いものがなります。エリザベート嬢は自分の得意なことをなさったらよいのではないですか?」


 ノエル殿下に促されてわたくしが思い浮かんだのは乗馬だった。乗馬はわたくしは幼い頃からポニーに乗っていて、少しは形になっていると思う。ポニーではない普通の馬に乗るのは慣れないかもしれないが、体育の授業で乗馬もあるので練習すれば慣れていけるだろう。


「わたくしは乗馬でエントリーしましょうか」

「エリザベート嬢は馬に乗れるのですね」

「わたくしが乗っていたのはポニーでしたが、普通の馬にも乗れるようになると思います」


 ノエル殿下に聞かれてわたくしは答えた。

 ポニーは普通の馬よりも体が小さい馬のことを指す名称で、基本的に馬ということには変わりはないのだ。


「僕はノエル殿下とダンスでエントリーしましょうか?」

「ノルベルト殿下、わたくしと踊ってくださるのですね。嬉しいですわ」


 ノエル殿下とノルベルト殿下はダンスで参加するようである。


「私はリレーの選手に選ばれたいですね。脚には少し自信があります」


 ハインリヒ殿下はリレーで参加することを望んでいるようだった。

 秋までの間学園は長い夏休みに入る。

 秋に入ってすぐにエクムント様のお誕生日があるので、わたくしはその時期まで休んで、辺境伯領にいることになるだろう。今年からハインリヒ殿下もノルベルト殿下もエクムント様のお誕生日に参加されるおつもりのようなので、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下もその時期に辺境伯領におられるだろう。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が辺境伯領に来るのは、独立派の貴族からしてみれば反乱を起こす絶好の機会なのかもしれないが、エクムント様とカサンドラ様がそんなことを許すはずはないという信頼がわたくしにはあった。

 エクムント様のお誕生日は例年よりも警護が厚くなるに違いなかった。


 前期の最後のお茶会を終えて、わたくしは部屋に戻ってディッペル公爵領に帰る準備をしていた。同室のゲオルギーネ嬢もザックス侯爵領に戻る準備をしている。


「ゲオルギーネ嬢、前期は大変お世話になりました。後期も戻ってきたらよろしくお願いします」

「わたくしの担当の一年生がエリザベート様でよかったと思っています。エリザベート様のお手伝いができて光栄でした。後期もこちらこそよろしくお願いします」


 優しくてあまり干渉してこないでくれるゲオルギーネ嬢のおかげで、わたくしは伸び伸びと学園生活が送れた。必要なところではゲオルギーネ嬢は学園のことを教えてくれたし、勉強も教えてくださる気でいた。わたくしには必要なかったが、ゲオルギーネ嬢の心遣いがありがたかった。


 挨拶をしてトランクを護衛に持ってもらって馬車に乗る。

 馬車で列車の駅まで行って、列車に乗り込んで、ディッペル公爵領に着いたのは夜だった。


 遅い夕食を食べていると、クリスタちゃんが食堂にやってきてわたくしの方をちらちら見ている。クリスタちゃんの脚元にはふーちゃんとまーちゃんもいる。


「クリスタちゃん、ふーちゃん、まーちゃん、もう夕食は食べたのですか?」

「はい。お先にいただきました」

「わたし、エリザベートおねえさまともういっかいたべる!」

「わたくちも!」

「食べ過ぎはよくありませんから、お茶を用意してもらいましょうね」


 椅子に座るふーちゃんとまーちゃんに、ミルクティーを用意してもらって、わたくしはクリスタちゃんに向き直った。


「クリスタちゃんも座りませんか?」

「よろしいのですか?」

「せっかく帰って来たのですもの。クリスタちゃんともお話したいです」


 椅子に座ったクリスタちゃんもミルクティーを飲んで、わたくしが夕食を食べている間、一緒に時間を過ごす。


「秋には運動会があるようです。わたくしは乗馬でエントリーしようと思っています。ハインリヒ殿下はリレーでエントリーしたいようですよ」

「ハインリヒ殿下は脚が速いのですか?」

「脚には自信があると仰っていました」


 ミルクティーを飲みながらハインリヒ殿下の話をすると、クリスタちゃんが頬を薔薇色に染めて聞いている。その表情を見ているだけでクリスタちゃんがどれだけハインリヒ殿下を想っているかが分かるような気がした。


「フランツとマリアとクリスタもこっちにいたのですね」

「みんなで夜のお茶会かな?」

「わたし、エリザベートおねえさまとおしょくじしたかったの」

「わたくち、えーおねえたまといっと!」

「明日から毎日一緒に食事はできますよ」

「エリザベートは本当にフランツとマリアとクリスタに慕われるいい姉だね」


 くすくすと笑いながらも両親も席について、わたくしが食べ終わるまでみんなでお茶をしていてくれた。デザートまで食べ終わると、わたくしはお風呂に入って、部屋に戻って寝る準備をする。

 眠そうにしているふーちゃんとまーちゃんが「お休みなさい」を言いに来てくれた。


「エリザベートおねえさま、おやすみなさい。あしたはいっしょにあさのおさんぽ、いける?」

「明日は早起きしますわ」

「えーおねえたま、おやつみなたい。おたんぽ、いこうね?」

「はい。お休みなさい、ふーちゃん、まーちゃん」


 ふーちゃんとまーちゃんが子ども部屋に戻っていくと、クリスタちゃんが部屋を覗いているのが分かる。わたくしとクリスタちゃんの部屋の間には窓があるのだ。


「クリスタちゃん、まだ眠らないのですか?」

「お姉様と少しお話ししたくて」

「何をお話ししますか?」


 問いかけると窓の向こうからクリスタちゃんが話しかけて来る。


「わたくし、ハインリヒ殿下との婚約が来春結ばれることが発表されたら世界が変わるかと思っていました。でも、何も変わらなかった。お姉様はエクムント様との婚約をされたとき、世界が変わった気がしましたか?」

「わたくしとエクムント様との婚約は急でしたからね。そんな実感もないままに婚約が決まってしまって、世界が変わったとは思いませんでしたね」

「そうなのですね。わたくしだけではなかったのですね」

「婚約が決まってもクリスタちゃんはクリスタちゃん。何の変りもないですからね」


 わたくしが言えばクリスタちゃんはまだ何か言い足りていない様子だった。話し出すのを待っていると、少ししてクリスタちゃんの声が聞こえる。


「婚約が発表された喜びを詩に読もうと思ったのですが、わたくし、上手く読めなくて。お姉様、ノエル殿下とお茶会で詩を読んでいるのでしょう? お茶会で読まれている詩を教えてくれませんか?」


 本題はそれだったようだ。

 わたくしはクリスタちゃんに教えられる詩は一つしかない。


「『白薔薇に、祝いを込めて、誕生日』ハインリヒ殿下の読まれた詩です」

「それは、ハイクという詩なのですよね」

「そうです。ハインリヒ殿下が婚約の喜びを読んだものです」


 クリスタちゃんに教えて上げると、しみじみと繰り返している。


「『白薔薇に、祝いを込めて、誕生日』なんて素晴らしい詩なのでしょう。わたくしもやる気がわいてきました」

「クリスタちゃん、もう遅いので、詩を読むのは明日にしましょう」

「はい、お姉様。わたくし、明日には詩が読める気がします」


 ハインリヒ殿下の俳句を聞いてクリスタちゃんは詩を読む気になったようだった。

読んでいただきありがとうございました。

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