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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
八章 エリザベートの学園入学
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10.エクムント様に守られて

 お茶会から晩餐会までの休憩時間にわたくしはエクムント様にお手紙を書いて、父にもお手紙を書いてもらって、エクムント様に届けてもらった。

 そのお手紙にはお茶会の時間には用事があるのでそれまでには戻らなければいけないこと、誘っていただいてとても嬉しくて楽しみにしていることなどを書いておいた。父からの手紙もお茶会の時間の話が書かれているのだろうが、父からの手紙ではエクムント様を国王陛下の御一家とのお茶会に誘う文面も書かれていたかもしれない。


 ノルベルト殿下のお誕生日のお茶会で誘われた返事をしたのでそれでやり取りは終わりだろうと思っていたが、エクムント様からは更にお返事が来たのだった。

 それは一輪のダリアの花に添えられた一言だけの返事。


「『楽しみにしています。エクムント・ヒンケル』……ダリアの花がわたくし、大好きなのを覚えていてくださったんだわ」


 ダリアの花は枯れないように花瓶に挿したが、お手紙はいつまでもわたくしは胸に抱いていた。


 晩餐会には両親だけが参加するので、残されたわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとふーちゃんとまーちゃんは部屋で夕飯を食べた。まーちゃんにはレギーナがついていて、ふーちゃんにはヘルマンさんが付いている。ふーちゃんはもうヘルマンさんに助けられなくてもほとんどのことは自分でできるようになっていた。


「あしたは、まーちゃんのおたんじょうびなの。まーちゃん、さんさいになるの」

「まーちゃんのお誕生日楽しみですね、ふーちゃん」

「レーニじょう、あした、おさんぽいってくれるの?」

「はい。ふーちゃんとお散歩に行ったら今日も楽しかったので、明日も楽しいと思います」


 年の差はあるし、ふーちゃんはまだ小さいのだが、レーニちゃんとの仲を確実に育んでいる。レーニちゃんは小さくても可愛いふーちゃんが大好きなようだ。


「ディッペル家で過ごすたびに思います。わたくしもこの家族の一員になりたいと」

「レーニじょう、わたしとけっこんしたら、ディッペルけのおよめさん」

「そうなったら素敵でしょうね」


 レーニちゃんはディッペル家の仲のよい家族に夢を抱いているようだ。このままならばふーちゃんも聡明で優しい子に育ちそうだし、まーちゃんも自己主張は強いがいい子に育ちそうである。

 それも全部両親の深い愛情があってのことだとわたくしには分かっていた。


 レーニちゃんがふーちゃんのお嫁さんになってくれて、一緒にディッペル家を治めてくれればどれだけ安心なことか。ふーちゃんにとっても、ディッペル家にとっても、リリエンタール家と繋がりができるのはいいことだった。


 夕食の後は順番にお風呂に入って休む。

 明日の予定はわたくしがエクムント様と城下町を散策して、クリスタちゃんがハインリヒ殿下と庭を歩いて、レーニちゃんがふーちゃんと庭をお散歩することになっていた。


「わたくし、焦らないことにしました。エリザベートお姉様とクリスタちゃんが羨ましい気持ちは変わりませんが、わたくしのことを好きでいてくれるふーちゃんがいつまでもわたくしを好きでいてくれるように素晴らしい女性になろうと思います」

「レーニちゃん、ふーちゃんのことをそれだけ思ってくれているのですね」

「ふーちゃんと結婚すればレーニちゃんもわたくしたちと同じディッペル家の一員になれますからね」


 政略結婚とは家と家を結ぶものだが、ディッペル家とリリエンタール家ならば釣り合いが取れているし、レーニちゃんもディッペル家の一員になりたいと思ってくれている。

 レーニちゃんがふーちゃんの成長を待ってくれると聞いてわたくしは嬉しく思っていた。


 眠っている間に両親は戻って来ていて、翌朝は朝食を食べるとそれぞれに準備をした。

 わたくしは目立ちすぎないように服を選んで、辿り着いたのが学園の制服だった。学園の制服ならばラフすぎないし、エクムント様と会うのにも失礼に当たらない。

 レーニちゃんはサマードレスを着ていて、クリスタちゃんもワンピースを着ていた。ふーちゃんはシャツとスラックスと靴下で格好よく決めていた。


 準備が整ったあたりでエクムント様が一番に部屋にやって来た。部屋のドアをノックしてわたくしの名前を呼ぶ。


「エリザベート嬢、お迎えに上がりました」

「今行きますわ、エクムント様」


 足早にドアを開けると、両親もドアの前に立ってエクムント様に挨拶をする。


「今日はエリザベートのことを頼みましたよ」

「護衛も付いていますが、エリザベートのことを守ってやってください」

「はい、心得ております。大事な御令嬢をお借りします」


 両親に送り出されて、わたくしはエクムント様の手を取った。

 エクムント様に連れられて王宮から出て馬車に乗ると、エクムント様は最初にわたくしを図書館に連れて行ってくれた。


「これが王立図書館です。以前は貴族だけしか使えなかったのですが、館内で閲覧する分には平民も利用できるようになっています。貸し出しは貴族だけに限られています」

「入って見てもいいですか?」

「もちろん。ご一緒しましょう」


 わたくしの手を取ってエクムント様が馬車から降ろしてくれる。馬車は少し離れた場所で待機させていて、エクムント様はわたくしと一緒に王立図書館に入った。

 図書館の中には貴族らしき服装の者も、平民らしき服装の者もいる。


 大量にある本を見てわたくしは夢中になってしまった。


「この文献、わたくし、見たことがありませんわ。こちらの文献も、学園の図書館にはないものです」

「ゆっくり見ていて構いませんよ」

「エクムント様は退屈ではありませんか? エクムント様も見たい資料があれば、見て来てくださいませ」


 護衛がいるので平気だと思って促すと、エクムント様は少し躊躇っていたが文献を探しにその場を離れた。

 わたくしは東方の文献を探して読む。

 俳句のことが書いてある文献があれば見つけておきたかった。

 ノエル殿下はわたくしが俳句のことを持ち出したときに深く聞かなかったが、ハインリヒ殿下が俳句を作るようになると、出典を詳しく聞かれるかもしれない。そのときに答えられるようにしておかなければいけなかった。


 文献を夢中になって読んでいると、周囲からざわめきが聞こえる。


「初代国王陛下と同じ色彩の方がおられます」

「あの方はもしかして王族なのでは」


 わたくしは自分の姿が目立つことにあまり気付いていなかった。

 両親は生まれたときからわたくしの髪の色と目の色を知っているし、周囲の方々もわたくしがディッペル家の娘と知っていて、接してくださっているからだ。

 貴族や平民が入り混じる中ではわたくしは目立ってしまうのだと思うと、少し心細くなってしまった。

 エクムント様を探そうとしていると、長身のエクムント様がわたくしの横に寄り添った。


「エクムント様……」

「エリザベート嬢、東方の資料を読んでおられるのですね」

「はい。調べたいことがあったのです」


 心細くなっていたわたくしはエクムント様が来てくださってホッとする。

 エクムント様が目を伏せて文献を見ていると、周囲の目もエクムント様に移っていた。


「あの方は辺境伯では?」

「褐色の肌に黒髪、白い軍服は辺境伯のものでしょう」


 いつの間にか視線もわたくしよりもエクムント様の方に向いている。

 わたくしが注目されているのに気付いて、エクムント様はさりげなくそれが自分に向くようにしてくださったのだろう。王都では褐色の肌はとても目立つのだ。

 周囲の視線を浴びながらも堂々としているエクムント様にわたくしは尊敬に念を抱く。


 図書館を出てからは、エクムント様はわたくしのそばを離れなかった。

 王立の植物園に行って夏薔薇が咲くのを見る。

 白薔薇が咲いているのを見ると、婚約式のときにエクムント様が白薔薇にキスをしてわたくしに下さったのを思い出す。


 城下町でのデートはエクムント様に守られてとても楽しいものだった。

読んでいただきありがとうございました。

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