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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
八章 エリザベートの学園入学
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5.寂しかったのはわたくし

 実家に帰ってもわたくしは忙しかった。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日の式典に出るためのドレスを誂えなければいけなかったのだ。

 クリスタちゃんは白を基調とした清楚なドレスを準備している。これはクリスタちゃんとハインリヒ殿下の婚約が発表されるからだった。

 クリスタちゃんとハインリヒ殿下の婚約が発表される場にはわたくしも同席しないといけない。クリスタちゃんの姉として、ディッペル家の長女として、わたくしはクリスタちゃんをハインリヒ殿下の元へ送り出さなければいけない。

 本来ならばその役目はディッペル家の後継者のふーちゃんがするのだが、ふーちゃんはまだ晩餐会に出られる年齢ではない。お茶会にも出られる年齢ではないのだ。


「クリスタおねえさま、とってもきれい」

「くーおねえたま、しゅてき」


 白を基調としたドレスを着ているクリスタちゃんを見てふーちゃんとまーちゃんがうっとりしている。わたくしもドレスを誂えてもらったが、クリスタちゃんが目立つようにミッドナイトブルーにきらきらと輝く銀色の星の刺繍が入ったドレスだった。


「お姉様、わたくしおかしくないですか?」

「とても可愛いですよ。小さな花嫁さんのようです」


 聞いてくるクリスタちゃんに答えると、頬を染めて微笑んでいる。


「お姉様のドレスもとても素敵です。大人っぽくて格好よくて」


 わたくしは気が付けば母と変わらない身長になっていた。

 この後はもうほとんど身長は伸びないだろうから、わたくしは大人と変わらない体付きになってきていると言える。とはいえ、胸は小さいし、まだまだその辺は成長の余地があった。


 ディッペル家に帰って来たのでわたくしは母に相談したいことがあった。

 学園に入学してからわたくしの体に変化があったのだ。


 母をそっと呼び出して自分の部屋で話をする。

 ふーちゃんとまーちゃんは子ども部屋に戻っているし、クリスタちゃんも隣りの部屋にいるはずだ。


「わたくし、学園に入学してから、初潮が来たかもしれません」

「エリザベート、そうだったのですね。一人で初潮が来て困りませんでしたか?」

「同室のゲオルギーネ嬢に助けを求めました。汚れた下着は下洗いをしておくこと、下着には脱脂綿を敷いておくことなどを習いました」


 脱脂綿を敷く程度で初めてだったのでどうにかなったが、これ以上出血が多くなるとそれではどうにもならないだろう。学園はできれば休みたくなかったし、わたくしは母にどうすればいいのか話を聞くことにしたのだ。


「挟み紙をするのはどうでしょう?」

「挟み紙?」

「出血の多い日は休んで、出血が少なくなってきたら、重ねた紙を挟むのです」


 どこにとは言わなかったけれど、出血している場所にだろうということはわたくしには分かった。それ以外にもピンで脱脂綿を下着に止める方法なども母は教えてくれた。

 挟み紙とピンで脱脂綿を止める方法を使えば、出血が酷い日以外は学園に通えそうだ。


「お母様もそうして学園に通っていたのですか?」

「今でも挟み紙をして、脱脂綿を下着にピンで留めてお茶会に出ることはありますよ。そういうときには、極力座らないようにして立ったままで済ませます」


 現在進行形で母も出血に悩まされているのだと分かってわたくしは少し安心していた。

 話し終えると母は部屋に一度戻って、わたくしのために痛み止めの薬を持って来てくれた。


「お腹が痛むことがあれば、これを一錠飲んでください。次に飲むまでには六時間は開けるように」

「分かりました。お母様、ありがとうございます」

「お薬が足りなくなったら、学園の医者に相談してください。処方してくださるはずです」

「はい。そうします」


 もらった薬は大事にポーチに入れておいた。

 脱脂綿や清潔な吸水性のいい紙をもらって、わたくしは帰る準備を始める。わたくしが学園に戻ろうとしている気配に、ふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんがわたくしの部屋に来ていた。


「エリザベートおねえさま……ふぇ……」

「えーおねえたま……びぇ……」


 泣きそうになっているふーちゃんとまーちゃんをクリスタちゃんが抱き締めている。


「お姉様にはハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日に王都で会えますわ」

「おたんじょうび、いつ?」

「あちた?」

「明日ではありませんが、もうすぐですよ」

「エリザベートおねえさま、いかないでー!」

「えーおねえたま、わたくち、たみちいのー!」


 ふーちゃんとまーちゃんに泣かれてしまうとわたくしも胸が痛む。

 ふーちゃんとまーちゃんを順番に抱き上げて、わたくしは二人に言い聞かせた。


「わたくし、毎日ふーちゃんとまーちゃんのことを考えています。ふーちゃんとまーちゃんもわたくしのことを考えていてください」

「エリザベートおねえさまのこと、かんがえる!」

「えーおねえたま、いかないれ!」

「わたくしは立派な淑女になるために貴族として学んでこなければいけないのです。初夏になれば王都でハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日の式典があります。そのときに会いましょう」

「エリザベートおねえさま、おてがみかいて」

「わたくちにも、かいて」

「お手紙を書きましょうね。クリスタちゃんに読んでもらってください」

「お姉様、わたくしにも書いてくださいね」


 ふーちゃんとまーちゃんだけでなく、クリスタちゃんもやはり寂しかったようだ。手紙を書く約束をして、クリスタちゃんにお願いをする。


「クリスタちゃん、わたくしに綺麗な色紙を分けてくれませんか?」

「はい、お姉様」

「ふーちゃんとまーちゃんのお手紙に折り紙を入れたいのです」

「ふーちゃんとまーちゃんがお手紙を書きたいときには、わたくしが代筆しますわ。お姉様、気を付けて行ってらっしゃいませ」

「クリスタちゃん、大好きですよ」

「わたくしもお姉様が大好きです!」


 ふーちゃんとまーちゃんだけでなく、クリスタちゃんも抱き締めると、クリスタちゃんは涙目になってしっかりと抱き付いてくる。

 クリスタちゃんを抱き締めて別れを惜しんでから、わたくしは護衛と共に馬車に乗った。


 馬車で列車の駅まで向かって、列車に乗り換えて、王都まで行って、王都から学園まで馬車に乗る。

 大きなトランクを護衛に運ばせていると、衝立の向こうからゲオルギーネ嬢が声をかけて来た。


「実家はいかがでしたか?」

「弟妹が寂しがって、なかなか帰してもらえませんでした」

「羨ましいですわ。わたくしはザックス侯爵領が遠いので、気軽には帰れませんでしたの。今ではすっかり慣れましたが、一年生や二年生の頃は寂しかったものです」

「わたくしも、寂しかった……そうなのです、わたくしも弟妹から離れて寂しかったのです」


 ゲオルギーネ嬢の言葉にわたくしは自分も寂しかったことに気付く。

 ふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんが寂しがっていると思っていたが、本当に寂しかったのはわたくしだったのかもしれない。


「わたくしは二つ年下の弟がおりますの。エリザベート様は年の離れた弟君と妹君がおられましたね?」

「フランツは八歳年下で今四歳で、マリアは九歳年下でもうすぐ三歳です。小さい頃からずっと一緒だったので可愛くてなりません」

「クリスタ様とも仲がよろしかったというお話をきいております」

「クリスタは四歳のときにディッペル家に引き取られて、そのときからずっと一緒にいました。今一緒にいないのが不思議なくらいです」


 正直に口に出してしまうと、わたくしも寂しくなってくる。

 ゲオルギーネ嬢と話をしてから、わたくしは早速ふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんに手紙を書き始めた。

 手紙の内容は、無事に王都の学園についたことや、わたくしがふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんのことを思っていることなど、他愛のないことだったが、書いていると寂しさが薄れる気がする。

 折り紙を折って封筒に入れると、わたくしは手紙をディッペル家に届けてくれるように寮の使用人に頼むのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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