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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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29.ふーちゃん、四歳

 レーニちゃんの滞在中はふーちゃんもとても喜んでおり、まーちゃんも一緒に子ども部屋で遊んで楽しい日々を過ごした。

 寒い冬でもレーニちゃんがいたら雪の中で遊ぼうと思えるし、部屋の中で折り紙をしたり歌を歌ったり絵本を読んだりして過ごした。

 レーニちゃんが帰る日にはふーちゃんは泣きそうになっていた。


「レーニじょう、またきてくだたいね」

「ふーちゃんとたくさん遊べて楽しかったです。また来ます」


 ぎゅっとレーニちゃんの手を握るふーちゃんに、レーニちゃんは屈んで目線を合わせて言っていた。


 レーニちゃんが帰ってしまってから、冬も終わると春がやってくる。

 春にはふーちゃんのお誕生日があった。

 ふーちゃんは四歳になるのだ。


 父の望みで両親のお誕生日だけはお茶会に参加しているふーちゃんだが、お誕生日のお茶会を開くには少し早すぎる。それでもふーちゃんは両親にお願いしていた。


「レーニじょうをおまねきして、わたしのおたんじょうびのおちゃかいをしたいのです」


 リリエンタール侯爵は今妊娠中で動けないが、レーニちゃんだけならば両親のお茶会のときにもお泊りをしたし、国王陛下の生誕の式典で両親が不在のときにもお泊りをしていた。

 今回もふーちゃんはそれを求めているのだ。


「リリエンタール侯爵にお手紙を書かないといけないね」

「また来ていただくのですね。レーニ嬢は我が家の娘になったようですわ」

「そのうち、義理の娘になるよ」

「そうなる日が遠くなければいいのですが」


 ふーちゃんが十八歳で成人するまではレーニちゃんとは結婚はできないだろう。それまでの十四年間、レーニちゃんは義理の娘にはならない。ただ、ふーちゃんが学園に入学するころになれば、婚約はするだろうから、またレーニちゃんとの距離が縮まる。


「レーニじょうはわたしのこんやくしゃになるのです。おたんじょうびをいわってもらわないと!」


 主張するふーちゃんに、両親もリリエンタール侯爵にお手紙を書いて返事をもらっていた。


「レーニ嬢は来てくださるそうですよ」

「よかったね、フランツ」

「ありがとうございます、おとうさま、おかあさま」


 四歳になるとふーちゃんの喋りもしっかりとして来る。一つ一つの発音が明瞭になってくるふーちゃんに、両親は期待をしているようだ。


「エリザベートも優秀だったが、フランツもとても優秀だね」

「こんなに小さいのにきちんと敬語で喋れています。礼儀作法もしっかりしています」

「テレーゼの教育の賜物だね」


 ふーちゃんが褒められているのを聞き付けると、まーちゃんが走ってやってくる。


「わたくち、けいご、できまつ」

「マリアも上手ですね」

「マリアは三歳にならないのにもう敬語が使えるんだね」

「わたくち、じょーじゅまつ」

「そこは『上手です』と言うのですよ」

「じょーじゅでつ」


 指導されて言い直しているまーちゃんも可愛い。

 一歳しか年の差がないのでまーちゃんはふーちゃんに対抗する気持ちがあるようだ。


「わたくち、こんにゃく、ちる」

「マリア、婚約が何か分かっているのですか?」

「婚約したい相手がいるのかな?」

「おねえたま、おにいたま、こんにゃくちる。わたくちも、ちる」

「婚約したい相手ができて、それからですね」

「マリアには早すぎるよ」


 ふーちゃんが婚約の約束をしていることもまーちゃんには分かっているようで、自分も婚約の約束をしたい気持ちでいっぱいなのだが、相手がいないのでできるはずがなかった。

 ふーちゃんは早い時期からレーニちゃんを好きと言っていたが、まーちゃんがそういう素振りを見せたことはない。そういう意味でもふーちゃんがとても早熟だったのがよく分かる。


 年の離れた二人の姉がいて、物心ついたときからわたくしの方は婚約していたのだから、ふーちゃんにとって婚約をするということは身近だったのかもしれない。


 ふーちゃんのお誕生日の前日にはレーニちゃんがやって来てお屋敷に泊まることになった。

 それだけではなかった。ふーちゃんのお誕生日の前日にはエクムント様がいらっしゃったのだ。


「ディッペル家の後継者で、私の婚約者の弟君をお祝いしないわけにはいかないでしょう」

「エクムント様、来てくださったのですか?」

「本当は、ガブリエラがフランツ殿のお誕生日を祝いたがっていたのですよ」

「ガブリエラ嬢もいらっしゃるのですか?」

「明日、実家から連れて来ようと思っています」


 ふーちゃんのお誕生日は思わぬ来客で賑やかになりそうだった。


 レーニちゃんが泊まるときは客間の夫婦用のダブルベッドにレーニちゃんとクリスタちゃんとわたくしで一緒に眠るのが常となっている。ぎゅうぎゅうになって布団の中に入って、わたくしはため息をついていた。


「エクムント様がいらしてくれました」

「ガブリエラ嬢も明日はいらっしゃると言っていましたね」

「ガブリエラ嬢はエリザベートお姉様がエクムント様と結婚なさったら、ふーちゃんとの関係はどうなるのですか?」


 わたくしにとってはガブリエラ嬢は母が嫁ぐ前にキルヒマン家に養子に行っているので、義理の従姉妹であり、エクムント様とわたくしが結婚すると義理の姪になる。

 それをふーちゃんに当てはめると、どうなるのだろう。

 レーニちゃんの問いかけにわたくしは答えに詰まってしまった。


「義理の姪ではないのでしょうか? わたくしの義理の姪になるから、ふーちゃんにとっても義理の姪……多分」

「今でもお母様がキルヒマン家に養子に入ってディッペル家に嫁いで来られたので、義理の従姉妹なのですよね」

「そうですよ、クリスタちゃん」

「それならば、義理の従姉妹のままではいけないのかしら」


 もう頭がこんがらがってしまった。

 養子に入ったり、結婚した後では相手の家族は義理の家族になったりして、ややこしくてかなわない。

 わたくしが混乱していると、レーニちゃんが布団を顔の近くまで持ち上げてぽつりと言う。


「羨ましかっただけですの。わたくしの従兄と言えば、ラルフ殿のような方しかいなかったから」


 ラルフ殿の件に関してはレーニちゃんもうんざりしているだろう。ふーちゃんのおかげで二度とラルフ殿が近付いてこなくなって安心しているに違いない。

 それでも、レーニちゃんにとってはラルフ殿は従兄なのだ。


「レーニちゃんはディッペル家に嫁いでくるのですよ。わたくしの義理の妹になるのです」

「わたくしにとっても義理の妹ですよ」

「クリスタちゃん、それはちょっと違うかもしれません」

「ふーちゃんはわたくしの弟だから、そのお嫁さんは義理の妹ではないのですか?」


 問いかけるクリスタちゃんにレーニちゃんが悪戯っぽく笑いかける。


「わたくしの方がお誕生日は早いですもの」

「え!? そうなのですか?」

「そうなのですよ。わたくし、夏生まれですからね」


 レーニちゃんとクリスタちゃんは同じ年だが、お誕生日はレーニちゃんの方が早かった。ショックを受けているクリスタちゃんに、レーニちゃんは恥ずかしそうに言う。


「格下のわたくしが、格上のディッペル家のエリザベートお姉様とクリスタちゃんにお誕生日のお茶会の招待状を書けなかったのです」

「今年はぜひ書いてください」

「ふーちゃんも一緒に行きますわ」

「嬉しい!」


 ずっと言えなかったのだろう。

 そのことを言うとレーニちゃんは満足して寝てしまった。


 翌日のふーちゃんのお誕生日では苺のタルトが出された。

 人数が多かったので大きな苺のタルトを切る形式ではなくて、一人一人に丸い小さな苺のタルトが配られた。

 大広間でもない食堂で、ドレスやスーツを着ることもなく普段着で祝われたお誕生日だったが、レーニちゃんの隣りに椅子を持って来ていたふーちゃんはとても満足そうな顔をしていた。


「フランツさま、おたんじょうびおめでとうございます!」

「ありがとうございます。ガブリエラじょうにまでいわってもらえて、とてもうれしいです」


 ガブリエラちゃんはエクムント様に連れられて来ていたが、黒い目を輝かせて席に座っていた。ガブリエラちゃんの隣りにはエクムント様が座っている。


「おにわのはるバラです。おたんじょうびプレゼントです」


 差し出された棘の外された薔薇の花束は、食堂のテーブルの上に飾られた。


「わたくしからも、お誕生日プレゼントです。マリア様にもあります」


 レーニちゃんからは折り紙の独楽をもらって、ふーちゃんとまーちゃんは嬉しそうにしっかりと握っていた。

読んでいただきありがとうございました。

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