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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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27.ホルツマン伯爵家の謝罪

 わたくしたちがお茶をしようとするとヘルマンさんが素早くふーちゃんのために高い子ども用の椅子を持って来てくれる。

 サンドイッチやケーキも取り分けて来てくれて、ふーちゃんの前に並べて、ふーちゃんはレーニちゃんのお隣りに座った。

 レーニちゃんは可愛いふーちゃんが来てくれてにこにこしている。


「お茶に誘ってくださってありがとうございます。クリスタ様にはハインリヒ殿下、エリザベート様にはエクムント様がいて、わたくし、少し羨ましかったのです。わたくしにはフランツ様がいました」

「あい、わたちがいまつ」

「小さいけれど、ラルフ殿に勇敢に立ちはだかって、とても格好よかったです。守っていただけてわたくし、嬉しかったのですよ」

「レーニじょう、いつもにこにこちててくだたい。かなちいかおは、わたちもかなちいでつ」


 レーニ嬢に悲しい顔をさせないためにホルツマン伯爵家の子息であるわたくしと同じ年のラルフ殿と言い合ったのだ。ふーちゃんの勇気をわたくしも讃えたかった。


「そんな仲睦まじいところを見せられると、僕もノエル殿下に会いたくなってきました」

「ノエル殿下は冬休みで隣国に帰っているから仕方ないですよ、ノルベルト兄上」

「クリスタ嬢がいるハインリヒに言われると何となく納得できないな」


 笑いながらもハインリヒ殿下を肘で突くノルベルト殿下。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下の仲は間違いなくいいし、これからも拗れることなどないだろう。


 原作、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』とは変わったのだ。


 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとふーちゃんとエクムント様とハインリヒ殿下とノルベルト殿下でお茶をしていると、近付いてくる男女とラルフ殿に気付いた。

 男女はラルフ殿の両親であるホルツマン伯爵夫妻のようだった。


「ディッペル家の後継者であるフランツを『チビ』と仰って侮辱したラルフ殿ではないですか。まだ言い足りないことがありましたか?」


 貴族的な棘を舌にまぶして伝えれば、ホルツマン伯爵夫妻がラルフ殿の頭を下げさせる。


「息子が大変な失礼を致しました。ディッペル公爵の御子息とは存じなかったのです」

「父はご挨拶のときに愛息子のフランツと愛娘のマリアを紹介しています。本当に親馬鹿だとお恥ずかしい限りなのですが。もしかして、そのときにフランツの顔も見ずに他のことを考えていた、なんてことはありませんよね?」


 下手に出ているように見せているが、痛烈な皮肉を織り交ぜたわたくしに、ラルフ殿が青ざめてホルツマン伯爵夫妻が平伏する。


「申し訳ありませんでした」

「ラルフ、お前も頭を下げるのです」

「本当に知らなかったのです。許してください」


 まだ自分のせいだと認めたがらないようなので、わたくしは更に追い打ちをかけることにした。


「まだ子どもなのですから、間違うことくらいありますよね。まだ十二歳ですもの。これから家庭教師やご両親を見習って大人になって行けばよろしいのですよ」


 許したかのように思えるこの言葉にも痛烈な皮肉が隠されている。


 十二歳と言うのはわたくしと同じ年であるし、同じ年のわたくしからこのようなことを言われるのはまずものすごい屈辱であろう。

 その上、「もう十二歳とは子どもではないのだから分別くらいつけなさい。あなたの家庭教師も親もどのような躾をしているのですか?」という意味が込められていた。


「フランツはもう三歳ですものね。フランツは母からきっちりと教育を受けているので、ラルフ殿に対しても礼儀を守っていました。フランツ、もう三歳なのだから、ラルフ殿を許して差し上げましょうね?」

「あい。ラルフどの、レーニじょうは、わたちのこんにゃくちゃになりまつ。にどとこえをかけないでくだたい」


 止めとばかりに三歳のふーちゃんに許されるという屈辱を味合わせると、ラルフ殿は顔を真っ赤にして怒っているのか、恥じ入っているのか分からない様子だった。


「ラルフの教育はこれからしっかりとやり直してまいります」

「どうか、これ以上お咎めのないようにお願いいたします」


 ホルツマン伯爵家をディッペル公爵家が主催する全てのパーティーに招待しないこと、及び、ディッペル公爵家が出席するパーティーに出席させないことくらいは両親に手を回せばできるのだが、今回はこれで許すという形にして、ホルツマン伯爵家に恩を売っておくのがいいだろう。

 将来ホルツマン伯爵家に引き取られたローザ嬢との間にレーニちゃんやクリスタちゃんが何かあれば、この件を持ち出してホルツマン伯爵家を脅すこともできるわけだ。


「フランツ、ホルツマン伯爵夫妻とラルフ殿に声をかけて差し上げて」

「エリザベートおねえたまがいっているので、ゆるちまつ。ちっかりとわたちのかおをおぼえておいてくだたいね」


 ふーちゃんも言うではないか。

 格好いいふーちゃんにレーニちゃんが痺れているのが分かる。

 自分の夫にするのならば、やはり頼れる相手の方がいいに決まっている。三歳の時点でふーちゃんはレーニちゃんをしっかりと守る頼れる男だった。


 ホルツマン伯爵夫妻とラルフ殿が頭を下げながら逃げていく中、レーニちゃんはふーちゃんの小さな手を握り締めていた。


「あの方、フランツ様の顔を見ていないし、わたくしが国王陛下の前でデニスにリリエンタール家の後継者を譲って、ディッペル家に嫁ぐ準備をしたことも知らなかったのですわ。情報収集能力がないというのは、貴族として致命的だと思います」

「わたち、ラルフどのにごあいさつちまちた。ラルフどのは、わたちをみていなくて、レーニじょうのほうばかりきにちてまちた」

「わたくしを狙っていたのですね。リリエンタール家と縁が切れたので再び結ぼうと必死だったのでしょう。助けてくださったフランツ様は本当に格好よかったですわ」

「わたち、レーニじょうをにこにこにできまちたか?」

「はい、わたくし、もうにこにこしていますわ」


 いつも笑顔でいて欲しいというふーちゃんの願いがレーニちゃんには通じているようだ。将来ふーちゃんとレーニちゃんが結婚することになっても、レーニちゃんを常に笑顔でいてもらえるようにふーちゃんがするのであれば、レーニちゃんは間違いなく幸せになれるだろう。


「フランツ殿は三歳なのにとても賢いのですね」

「フランツ様はわたくしには難解でよく分からないのですが、詩を書かれるのです。この前も詩と折り紙を送ってくださいました」


 感心しているエクムント様にレーニちゃんが言えば、「詩」という響きにノルベルト殿下が身を乗り出す。


「フランツ殿の詩はノエル殿下も可愛らしくて素晴らしいと言っていました。どのような詩を読まれるのですか?」

「フランツ様、わたくし、お手紙を持って来ています。声に出して読んでもよろしいですか?」

「ちょっちはじゅかちいけど、いいでつ。レーニじょうへのわたちのきもちでつ」


 照れながら答えるふーちゃんに、レーニちゃんはパーティーバッグを開けて便箋を取り出した。


「いつも持ち歩いているのですか?」

「エリザベート様とクリスタ様に意味をお聞きしましたが、よく分からなかったのです。それで、ノエル殿下の婚約者のノルベルト殿下もおいでになると聞いていたし、ノルベルト殿下にお会い出来たら意味が聞けるかと思って持ってきました」


 封筒の中にはふーちゃんの詩が書かれた綺麗な便箋とチューリップの折り紙が入っていた。


「『レーニじょう、わたちはおあいつるたびに、むねのはなのつぼみがふくらんでいくのをかんじまつ。このはながさきみだれるとき、わたちのレーニじょうへのきもちがみのるのでしょう。はなのなかでねむる、こいのようせいたん。このきもちをレーニじょうにとどけてくだたい』これなのですが、わたくしはフランツ様が風邪を引いて鼻詰まりになったのか、洟が垂れてしまったのかと心配していました」

「これはレーニ嬢に宛てたラブレターですよ。レーニ嬢への気持ちが書かれています」

「そうなのですか!?」

「花の蕾を高まる恋に見立てて、花が咲いたときには花の中で眠る恋の妖精がレーニ嬢に思いを届けてくれるように願っているのです」

「そうだったのですね。芸術とは難しいです。フランツ様は三歳で芸術を理解していらっしゃってすごいと思います」


 褒められて鼻高々なふーちゃんであるが、ノルベルト殿下の解説があって尚、わたくしはこの詩の素晴らしさが分からなかった。


「フランツ殿は詩人なのですね。素晴らしい詩を書かれます」

「わたち、ちじんでつか?」

「はい、ノエル殿下もこの詩を認めてくださると思いますよ」

「うれちいでつ。ありがとうございまつ」


 ノルベルト殿下は絶賛しているのだからきっといい詩なのだろう。

 それを理解できないふがいない姉で申し訳なかったが、わたくしには芸術というものはどうしても理解の及ばないことだった。

読んでいただきありがとうございました。

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