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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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24.レーニちゃんのお泊り会

 リリエンタール侯爵からの手紙には、妊娠したので両親のお誕生日のお茶会を欠席することが書かれていた。しかし、レーニちゃんはディッペル公爵家に来たがっているというのだ。


「レーニ嬢だけ来ていただくというのはどうだろう」

「レーニ嬢も十一歳になられますものね。護衛の兵士と乳母とレーニ嬢だけでディッペル公爵家に泊まっていただいてはどうでしょう」


 両親の話が弾んでいる。

 そうなれば嬉しいとわたくしも思っていた。


「レーニじょう、おとまりするでつか? わたち、サンルームをあんないちてあげまつ」

「そういえばリリエンタール家にお泊りをしたことがありますが、レーニ嬢がディッペル家にお泊りをしたことはありませんでしたね」


 昨年の国王陛下の生誕の式典のときには、両親が不在となるので護衛を付けてわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと、ヘルマンさんとレギーナとマルレーンとデボラでお泊りをしに行ったのだ。

 わたくしたちができたのだからレーニ嬢にできないはずはない。


「お父様、お母様、レーニ嬢にぜひ泊まりに来るようにお誘いしてください」

「リリエンタール侯爵からも許可をいただいてください」


 わたくしとクリスタちゃんがお願いすると、両親はその旨を手紙にしたためてリリエンタール侯爵に送っていた。

 返事はすぐに来た。

 わたくしとクリスタちゃんにはレーニちゃんからお礼のお手紙が来て、両親にはリリエンタール侯爵からレーニちゃんがお泊りをしていいという返事が来ていた。


「レーニ嬢がディッペル家に来ますわ」

「フランツ、レーニ嬢が来ますよ」

「ばんじゃーい!」


 両手を上げて喜んでいるふーちゃんにまーちゃんも万歳をして喜んでいた。

 まーちゃんには両親が残念なお知らせをしなければいけなかった。


「マリア、デニス殿は来ないのですよ」

「でーたん、こにゃいでつか!?」

「デニス殿はレーニ嬢のお父様とお留守番で、来るのはレーニ嬢だけです」


 我が家で末っ子のまーちゃんにとって、デニスくんは自分よりも年下の男の子なので弟のように思っているのだろう。意気消沈しているまーちゃんの肩をふーちゃんが叩いて慰めている。


「レーニじょう、くゆからね」

「れーたん、くゆ、でつ」

「くゆでつよ」


 敬語の練習をしているので、喋り方が混ざっているのも三歳と二歳特有で可愛い。

 わたくしはふーちゃんとまーちゃんを見てにこにこしてしまった。


 両親のお誕生日のお茶会の二日前からレーニちゃんはやって来た。

 護衛にトランクを持ってもらって、可愛いワンピースを着てわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんにご挨拶する。


「ディッペル家にお泊りができてとても嬉しいです。エリザベート様、クリスタ様、お手紙をありがとうございました。フランツ様とマリア様からは折り紙をありがとうございました」

「フランツの詩はどうでしたか?」

「詩? あれは詩だったのですか?」


 やはりレーニちゃんは分かっていなかった。

 首を傾げながら肩から下げている小さなバッグから封筒を取り出したレーニちゃんが封筒の中から便箋を出す。折り畳まれた便箋を開くと、首を傾げている。


「『レーニじょう、わたちはおあいつるたびに、むねのはなのつぼみがふくらんでいくのをかんじまつ。このはながさきみだれるとき、わたちのレーニじょうへのきもちがみのるのでしょう。はなのなかでねむる、こいのようせいたん。このきもちをレーニじょうにとどけてくだたい』これは、詩、だったのですね。わたくし、芸術には疎いのでよく分かりませんでした。エリザベート様、どのような意味か分かりますか?」

「えぇっと、それは……よく分かりませんが、フランツがレーニ嬢を大好きだということだと思います」

「わたくし、フランツ様が鼻詰まりになったのかと思いました」


 全く通じていない。

 わたくしにも意味が分からなかったのだから、レーニちゃんに意味が分からなくてもおかしくはなかった。


「鼻ではなく、花ですわ」

「そうだったのですね。洟が垂れているのか、鼻詰まりなのか、心配しましたわ。フランツ様は風邪をひいたのではないのですね」


 なんと、ふーちゃんは鼻について言及しているので、鼻詰まりになったか、洟が垂れたかで、風邪を引いたのではないかと心配されていた。

 そういう意味ではないのだろうということは分かるのだが、胸の花のつぼみだとか、花の中で眠る妖精さんとか、そういうものがわたくしにはどうしても理解できない。


「素晴らしく可愛い詩なのですよ。フランツはこの年で詩が読めるなんて才能があるに違いありません」

「フランツ様は才能豊かなのですね。わたくしは芸術的センスがないのでよく分かりませんでしたが」


 申し訳ありませんとレーニちゃんが謝るのに対して、わたくしは全く謝ることはないと思っていたのだが、口には出せなかった。


 レーニちゃんが客間に泊まるので、わたくしとクリスタちゃんも一緒に眠ることにする。

 夕食後、ふーちゃんの願いで、レーニちゃんをサンルームに連れて行った。

 もう外に出るとかなり寒くなっているが、サンルームはそれよりも寒さがやや和らいでいる。サンルームの噴水の近くにはハシビロコウのコレットが羽を休めていて、オウムのシェリルは大きな籠に入れられていた。


「大きな鳥ですね。わたくし、初めて見ました」

「ハシビロコウという種類の鳥です。名前はコレットで、雌です」

「わたち、コレットにえた、やりまつ」

「ふーちゃん、コレットの餌は生魚ですよ!?」

「わたち、できまつ!」


 コレットの世話係のクロードに生魚を上げたいことを自己主張するが、クロードは異国の言葉を主に使っていて、この国の言葉はほとんど分からないので伝わっていない。


「クロード、おたかま、くだたい!」

『坊ちゃまは何を仰っているんですか?』

『いいのです、クロード。コレットに餌を上げたがっているのですが、もう餌はあげているし、コレットは休んでいるでしょう』

『坊ちゃまに言ってください。コレットに餌を上げるのは危険なので、もう少し大きくなってからしかできないと』


 わたくしが間に入るとクロードはふーちゃんに伝えるようにお願いしてくる。


「ふーちゃん、今日はコレットはもうお休みしていますし、餌は生魚なのでもう少し大きくならないと上げられないそうですよ」

「わたち、えた、あげたかった……」

「レーニちゃんにいいところを見せたかったのですね。レーニちゃんには、シェリルを紹介してあげてください」

「あい」


 わたくしが促すとふーちゃんはレーニちゃんの手を引いてシェリルの籠のところまで歩いていく。


「ちろいオウムのシェリル。とてもながいきでつ」

「このオウムはシェリルというお名前なのですね。長生きすることまでよく知っていますね」

「おねえたま、おちえてくれまちた」


 オウムのシェリルを紹介することができて、ふーちゃんは満足そうだった。


 シャワーを浴びてパジャマに着替えて客間に行くと、レーニちゃんが待っている。

 クリスタちゃんもやって来て、客間の夫婦用のダブルベッドに三人でぎゅうぎゅう詰めになって布団を被る。


「わたくし、ディッペル家に一人でお泊りに来ているのですよね。大人になったような気分です」

「レーニちゃんが来てくれるとふーちゃんも喜びます。レーニちゃんはふーちゃんの婚約者になってくれるのでしょう?」

「婚約はリリエンタール家とディッペル家の間で結ばれますが、わたくしはふーちゃんのことはとても可愛いと思っています」


 今は可愛いと思っているだけの感情が、いつかは恋に変わるのかもしれない。

 わたくしの頭をエクムント様のことが過る。

 エクムント様とわたくしの方が、レーニちゃんとふーちゃんよりも年齢差はあるし、エクムント様はわたくしのことを赤ちゃんの頃から知っている。すぐには恋心に切り替えられない気持ちは分かるが、お誕生日のお茶会の後で、帰りの馬車に乗る前にエクムント様はわたくしの指先にキスをしてくれた。


「お姉様、何を考えていますの?」

「え? わたくし、何か変でしたか?」

「お顔が真っ赤ですわ」


 灯りをまだ消していなかったので、わたくしがエクムント様のことを思い出して赤くなっているのがクリスタちゃんには分かってしまったようだ。


「エクムント様、わたくしのお誕生日のお茶会の帰りに、わたくしの指先にキスをしてくださったんです」

「見ていましたわ! とても素敵でした!」

「クリスタちゃん、見ていたのですか!?」

「わたくしもあの場にいたではないですか!」


 クリスタちゃんにはしっかりと現場を見られていた。

 恥ずかしく思いながらも頬を押さえていると、レーニちゃんがにこにこと微笑んでわたくしを見ている。


「エクムント様とエリザベート様は年の差があるけれど、愛を育んでいるのですね。そのお話を聞くとわたくしも安心します。わたくしもきっと、ふーちゃんのことを愛せると思うのです」


 ふーちゃんがもっと大きくなって、レーニちゃんに情熱を持って囁きかけるようになったら、レーニちゃんの気持ちも変わって来るかもしれない。

 エクムント様のことを考えながらも、レーニちゃんとふーちゃんの仲も考えつつ、わたくしは目を閉じた。

読んでいただきありがとうございました。

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