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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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20.紫色のドレスとお揃いのスーツ

 大広間に行くと少しずつお客様が入ってきているのが分かる。

 お客様にわたくしはご挨拶をしなければいけなかった。


「キルヒマン侯爵夫妻、わたくしのお誕生日にいらっしゃってくださって、ありがとうございます」

「今日はフランツ様とマリア様に会えると、ガブリエラがずっと楽しみにしていたのです」

「ガブリエラ嬢とはお誕生日に約束をしています。お茶会を少し抜け出して子ども部屋を案内することになっています」

「本当ですか? ガブリエラも喜ぶことでしょう」

「エリザベートさま、おたんじょうびおめでとうございます」

「ありがとうございます、ガブリエラ嬢」

「エリザベート嬢の着ているドレスの布は私が贈ったものなんだ。ガブリエラ、素敵だろう?」

「はい、とても素敵です。エクムント叔父様もお似合いです」


 軍服ではなく珍しくスーツを着ているエクムント様はわたくしとお揃いの布を使っているので、わたくしは合わせてくれたのだと嬉しくなってしまう。

 わたくしのドレスよりも深い色に見えるエクムント様の紫色のスーツは光沢があって美しかった。


「エリザベート嬢、本日はお招きいただきありがとうございます」

「エクムント様とお揃いの布を使っているのですね。その布は辺境伯領の特産品ではなかったですか?」


 さすが、ノルベルト殿下はよく分かっていらっしゃる。ハインリヒ殿下もわたくしに挨拶をしてくれていた。


「お越しいただきありがとうございます。この布はエクムント様から頂いたものです」

「エリザベート嬢に布を贈った後で、私も布を使ってスーツを誂えたらエリザベート嬢とお揃いになるのではないかと思ったのです」

「とてもよくお似合いです」

「その布、僕もノエル殿下にプレゼントしたいです。辺境伯領から取り寄せることができますか?」

「できますよ。ノルベルト殿下にお送りいたしましょう」


 わたくしに辺境伯領の特産品となる布を贈ったのは、わたくしのお誕生日プレゼントということもあったが、何よりもそれを纏って二人でパーティーを主催すればその布の宣伝にもなるという考えの元だったのだろう。

 辺境伯領の特産品をもっとアピールするためにわたくしもエクムント様のお役に立ちたかった。


「エリザベート様、お誕生日おめでとうございます。わたくし、フランツ様にお会いしたいのです」

「レーニ嬢、来てくださったのですね。フランツもレーニ嬢にお会いしたいと思っているでしょう」

「あれから、折り紙の本を買ってもらって練習しました。わたくし、フランツ様に折り紙を折って来ましたの」

「それはフランツも喜ぶことでしょう」


 ガブリエラちゃんをふーちゃんとまーちゃんに会わせるときに、レーニちゃんにも来てもらったらいい。わたくしはそう考えていた。


 一通り挨拶が終わると、わたくしはエクムント様を見る。エクムント様は無言で頷いてガブリエラちゃんを連れて来てくれた。


「わたくしはお化粧直しに行ってまいります。少し退席いたします」

「行っておいで、エリザベート」

「お化粧直しだなんて、口紅が相当気に入ったのですね」


 両親は快くわたくしを送り出してくれる。

 わたくしはクリスタちゃんとレーニちゃんとガブリエラちゃんと一緒に子ども部屋に行った。子ども部屋に行っている間、エクムント様はお客様の対応を引き受けてくださっていた。


「えーおねえたま、くーおねえたま! レーニじょう、きてくえた!」

「おねえたま、れーじょう……だぁれ?」

「こちらの令嬢はキルヒマン家のガブリエラ嬢ですよ。エクムント様の姪御さんです」

「めいごたん、なぁに?」

「お兄様の娘さんです」

「おにいたまのむつめたん……」

「むちゅかち……」


 姪御さんという単語の意味がよく分からないふーちゃんとまーちゃんだが、年が近いガブリエラちゃんには興味津々のようだ。


「ガブリエラじょう、エクムントたまとおなじね」

「おんなじー」

「わたくし、はだのいろとかみのいろは、エクムントおじさまとおなじなのです。めのいろがおばあさまとおなじで、くろですが、エクムントおじはおじいさまとおなじできんいろです」


 濃い肌の色も癖のある黒髪もエクムント様やカサンドラ様と親しくしているのでふーちゃんもまーちゃんも見慣れていた。

 辺境伯領ではほとんどの貴族が濃い肌の色に癖のある黒髪で黒い目なのだが、辺境伯領から離れたディッペル領や王都ではあまり見ない色彩ではあった。


「フランツさまとマリアさま、とてもかわいいですわ。わたくしのていまいよりもちいさいのですね」

「フランツはフリーダ嬢と同じ年ではなかったでしょうか」

「そうなのですね。はじめまして、ガブリエラ・キルヒマンです」

「わたち、フランツでつ!」

「わたくち、まー」


 自己紹介をするガブリエラちゃんとふーちゃんとまーちゃんにレーニちゃんが我慢できずにパーティーバッグから折り紙を取り出した。立体的な花のようになっている折り紙をふーちゃんとまーちゃんに渡す。


「これは独楽になっているのですわ。指で回すとよく回りますのよ」

「こま! くるくるくるー!」

「でちない。おねえたま、ちて!」


 上手に花の形の独楽を回しているふーちゃんと、できなくてクリスタちゃんに助けを求めて回してもらっているまーちゃんに、ガブリエラちゃんが羨ましそうにしている。


「ガブリエラ嬢も欲しいのですか?」

「いえ、わたくしは……」

「ごめんなさい、ガブリエラ嬢の分まで作って来なかったのです。これから作るので、クリスタ様、色紙を分けてくれますか?」

「もちろんいいですわよ」


 クリスタちゃんに色紙を分けてもらって、レーニちゃんは高速でガブリエラちゃんの独楽を折っていた。折り上がるとガブリエラちゃんの手の上に乗せる。


「クリスタ様の綺麗な色紙で作ったので、一層華やかになりましたわ」

「ありがとうございます、レーニさま」


 花の形の独楽をもらったガブリエラちゃんはふーちゃんとまーちゃんに混ざって真剣に回していた。

 その間にわたくしは口紅を取り出して、さっと軽くひと塗りした。

 口紅を塗っているとクリスタちゃんもレーニちゃんもじっとわたくしのことを見ていた。


「エリザベート様は口紅を塗られているのですね」

「お誕生日に母にもらったのです。そろそろ口紅を塗ってもいい年頃ではないのかと言われて」

「お姉様、素敵ですわ……。わたくしも来年にはお母様からもらえるかしら」


 うっとりとわたくしを見ているクリスタちゃんにわたくしは微笑みかける。


「お母様はきっとクリスタちゃんの十二歳のお誕生日にも口紅を用意してくださると思います」

「わたくし、十二歳が待ちきれないわ」


 家族の肖像画を描いてもらったときも、口紅を塗りたがっていたのはクリスタちゃんの方だった。クリスタちゃんは小さな頃からお化粧に興味があったのだろう。

 そのうちわたくしも白粉を塗って、口紅を塗って、頬紅も塗って、お化粧をするようになるのかもしれない。そのときにはわたくしは成人して辺境伯領に嫁いでいることだろう。


 ふーちゃんとまーちゃんとガブリエラちゃんが遊び終わって会場に戻ると、待っていたかのようにハインリヒ殿下が声をかけて来た。


「クリスタ嬢、私と踊ってくれませんか?」


 いつの間にか会場のピアノがワルツの旋律を奏でている。


「喜んで」


 差し出された手に手を重ねて、クリスタちゃんがハインリヒ殿下と踊りの輪に入っていく。

 わたくしが迷っていると、ガブリエラちゃんがエクムント様の手を引っ張って来た。


「エクムントおじさま、エリザベートさまをおさそいしないと!」

「言われなくても誘うつもりだったよ。ガブリエラ、私に格好つけさせてくれよ」

「エクムントおじさまはおくれをとったのです!」

「そんなに後れを取ってはいないと思うけど」


 可愛い叔父と姪のやり取りににっこりしていると、エクムント様がわたくしに手を差し伸べて来る。


「踊ってくださいますか、エリザベート嬢」

「はい、喜んで」


 わたくしとエクムント様は踊りの輪の真ん中に出た。

 紫色の豪奢なドレスが翻り、エクムント様のスーツも光沢を放って美しく見える。


 これは辺境伯領の特産品のアピールでもあるのだ。

 わたくしとエクムント様が辺境伯領の特産品の紫色の布を着ることで、パーティーに参加しているひとたちに辺境伯領の特産品を宣伝することができる。


 ドレスのスカートを翻しながらターンをすると、エクムント様が腰を支えてくれる。エクムント様に支えられながらわたくしは踊りの輪の一番中心で堂々とダンスを披露したのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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