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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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18.ふーちゃんとまーちゃんに何冊でも絵本を

 お茶会が終わると晩餐会まで少しの休憩が入る。

 休憩の間にわたくしは部屋に戻って顔を洗って、髪の毛を結び直してもらっていた。

 エクムント様も休憩時間の間に身だしなみを整えて来るようだった。


「えーおねえたま、だっこちて!」

「フランツ、寂しい思いをさせましたね」


 少しの間でもふーちゃんに時間を割きたくて、わたくしは座ってふーちゃんを膝の上に抱き上げる。まーちゃんはクリスタちゃんに膝の上に抱き上げられていた。


「えほん、よんでほちーの」

「一冊だけ読みましょうね」

「ねぇね、えぽん、えぽん!」


 甘えて来るふーちゃんとまーちゃんに一冊だけ絵本を読み聞かせる。ドレスを着たままだったが、ふーちゃんを膝の上に抱っこすることにわたくしは躊躇いはなかった。


 絵本を一冊読んでから膝から降ろすと、ふーちゃんはまーちゃんと一緒に列車のおもちゃで遊び始めた。


「お姉様は今晩は遅くまで帰らないのですね」

「そうなりますね。わたくしも辺境伯の婚約者となったのですから、晩餐会までしっかりと参加してきます」

「あまり遅くならないことをお祈りしておきます」


 クリスタちゃんは名残惜しそうにわたくしを送り出してくれた。

 両親とわたくしで食堂に行くと、一番前のテーブルに招かれる。

 エクムント様の隣りに座ると、わたくしはテーブルの上のナプキンを手に取った。

 ナプキンが薔薇の形に折られている。

 驚いてエクムント様をちらりと見ると、エクムント様は微笑んで小さく頷いていた。


 わたくしの緊張が解けるようにナプキンを折っていてくれたのだろう。

 エクムント様の気持ちが嬉しくて、わたくしは折られたナプキンを崩してしまうのが少しもったいなかった。膝の上にナプキンを置くと、料理が運ばれて来る。

 カサンドラ様とエクムント様は葡萄酒をグラスに注がれていた。

 わたくしはお酒が飲める年齢になっていないので、葡萄ジュースがグラスに注がれる。


「我が養子、エクムント・ヒンケルの誕生日を祝って、乾杯!」

「乾杯!」


 カサンドラ様が立って乾杯の音頭を取ると、みんながグラスを持ち上げる。わたくしも葡萄ジュースの入ったグラスを持ち上げた。

 冷たい葡萄ジュースは甘く瑞々しく美味しかった。


 料理が運ばれてきてもなかなか落ち着いて食べることができない。

 昼と同じく貴族たちが挨拶に来るのだ。


「エクムント様は乗馬がお上手と聞いています。うちの牧場の馬はよく走りますよ」

「エクムント様、うちの農場の葡萄は最高の葡萄酒が作れます」

「辺境伯領の紫の染料はとても珍しく、発色がいいのですよ」


 自分たちの商品を辺境伯であるエクムント様に売り込んで、辺境伯領の特産品としたがっている貴族が多くいるようなのだ。


「牧場の馬は今度視察に行きましょう。葡萄酒は今度飲んでみましょう。紫の染料は工房をお訪ねします」


 一つ一つに答えるエクムント様に、わたくしも食べている場合ではなくて一緒に頷いておく。

 結局晩餐会もほとんど料理を食べられずに、お皿が下げられるのを悲しく見送るしかなかった。


 パーティーの主催とはこのようなものなのだろう。

 分かっているがお腹は空く。


 夜も更けて晩餐会がお開きになった後でわたくしはお腹を空かせて、眠くて、ふらふらになりながらエクムント様に送られて部屋に帰った。


「エリザベート嬢、お休みなさい」

「エクムント様、お休みなさい」

「部屋に少しだけ準備をさせています。よろしければどうぞ」

「準備?」


 何のことか分からないままエクムント様を見送ったが、部屋に入って着替えてソファを見ると、サンドイッチと小さなキッシュの軽食が置かれていた。わたくしがほとんど何も食べられていないのをエクムント様は分かっていて気にかけてくださっていたのだ。


 ありがたくサンドイッチとキッシュを食べて、フルーツティーを飲む。寝る前なのでそんなに量はなかったが、お腹が減りすぎた状態で眠ることはなくなってわたくしは安心していた。


 シャワーを浴びてパジャマに着替えて布団に入る。

 蒸し暑く寝苦しい夜ではあったが、窓を開けると入ってくる風が唯一の救いだった。


 翌朝、エクムント様とカサンドラ様に見送られて、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親は辺境伯領から帰った。

 馬車に乗り込むときにエクムント様がわたくしの手を握ってくれた。


「次はディッペル家でお会いしましょう。ガブリエラも楽しみにしています」

「ガブリエラ嬢はもう少し辺境伯領にいるのですか?」

「はい。辺境伯領で市に行きたいと言っていました」


 ガブリエラちゃんはもう少し辺境伯領に留まるようだ。馬車に乗り込むとエクムント様はずっと手を振り続けていた。


 馬車で列車の駅まで行って、列車に乗り換えて、ディッペル公爵領の駅に着くと馬車にまた乗り換えて、ディッペル家のお屋敷に帰る。

 帰り付くとわたくしは疲れ切って荷物を片付けると部屋でベッドに寝転んだ。

 昨夜は晩餐会で夜遅くまで起きていたので、眠気が襲ってくる。

 うとうとと眠りかけていると、ふーちゃんとまーちゃんが部屋に来ていた。


「えーおねえたま、あとんでー!」

「ねぇね、えぽん、えぽん!」


 絵本を読んで欲しくなったふーちゃんとまーちゃんはわたくしの部屋まで来てしまったようだ。


「お疲れなのに申し訳ありません」

「フランツ様とマリア様をお止めすることができなくて」


 ヘルマンさんとレギーナが申し訳なさそうに言っているが、わたくしは全然構わなかった。


「絵本を読んで欲しいのですね。今日は何冊でも読めますよ」


 昨日は一冊だけで我慢させてしまったので、わたくしは今日はふーちゃんにもまーちゃんにもたくさん絵本を読んであげたかった。

 子ども部屋に行くとクリスタちゃんも子ども部屋に来ていた。


「まーちゃんとふーちゃんがいないと思ったら、お姉様のところにいたのですね」

「絵本を読んで欲しいと言われました」

「お姉様は絵本を読むのがお上手だから。わたくし、小さな頃からお姉様に絵本を読んでもらうのが大好きだったのですよ」


 そういえばクリスタちゃんにも小さな頃からわたくしは絵本を読んであげていた。クリスタちゃんの一番のお気に入りの絵本は灰被りの物語だった。

 ふーちゃんの一番のお気に入りは列車の絵本で、まーちゃんはまだお気に入りがなくて何でもいい様子だった。


 わたくしがふーちゃんを膝に乗せて、クリスタちゃんがまーちゃんを膝に乗せて絵本を読み出すと、クリスタちゃんも聞いている気配がする。クリスタちゃんもまだまだ絵本を読んで欲しい年頃なのだ。


 列車の絵本を読み終わると、ふーちゃんとまーちゃんが本棚から新しく絵本を持ってくる。何冊も積み上げられた絵本を、わたくしは一冊ずつ読んでいった。


 全部読み終わるとふーちゃんとまーちゃんは満足して列車のおもちゃで遊び始めた。


「わたち、レールちいてあげう」

「にぃに、あいがちょ」


 話しているまーちゃんにクリスタちゃんが近付く。


「にぃにではなく、お兄様と呼びましょう」

「おにいたま?」

「わたくしとお姉様のことは、お姉様と呼ぶのです」

「おねえたま!」

「自分のことはわたくしと言うのですよ」

「わたくち!」


 二歳になったのでまーちゃんにも厳しく教えているクリスタちゃんに、まーちゃんは可愛く復唱していた。


「わたくち、おにいたま、おねえたま」

「とても上手です。まーちゃん、素晴らしいです」

「わたくち、すばらち!」


 褒められて胸を張るまーちゃんに、ふーちゃんが教える。


「えーおねえたまと、くーおねえたまよ」

「えーおねえたま! くーおねえたま!」

「まーたん、じょーじゅ!」

「わたくち、じょーじゅ!」


 ふーちゃんにも褒められてまーちゃんは黒いお目目を煌めかせていた。


読んでいただきありがとうございました。

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