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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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15.夏過ぎて

 ハインリヒ殿下のお誕生日のお茶会が終わると、両親は晩餐会に出るために準備をする。

 わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは留守番だった。

 お昼寝から目覚めたふーちゃんとまーちゃんは、部屋に戻って来たわたくしとクリスタちゃんを見て飛び付いてくる。


「おねえたま、いっちょにおた、ちまちょう?」

「おた! おた!」


 お茶に誘われたのでわたくしとクリスタちゃんは着替えてふーちゃんとまーちゃんを膝の上に抱っこしてソファに座った。ふーちゃんとまーちゃんはケーキとサンドイッチを取り分けて上げると、口いっぱい頬張って食べている。

 ヘルマンさんとレギーナがミルクティーを入れてくれていた。

 ミルクティーを飲みながらお茶を終えると、ふーちゃんとまーちゃんは自然とわたくしとクリスタちゃんの膝から降りて遊び出す。遊んでいるふーちゃんとまーちゃんを見ながらわたくしも息をついていた。


 昼食会からお茶の時間まで出ずっぱりで少し疲れていた。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下はわたくしよりもずっと幼い頃から、前日の晩餐会にも出席して、昼食会、お茶会、晩餐会とこなしているのだから王族とは大変だ。

 昨日の国王陛下との約束で、クリスタちゃんも王族の仲間入りするかもしてないと思うとわたくしは背筋を伸ばす。


「ハインリヒ殿下の婚約者となったらクリスタちゃんも前日の晩餐会から、翌日の昼食会、お茶会、晩餐会と出席しなければいけませんよ」

「お姉様もご一緒ですか?」

「わたくしはクリスタちゃんと一緒には出られません」

「どうしましょう。わたくし一人で平気かしら……」


 わたくしが一緒ではないと分かるとクリスタちゃんは不安になっているようだ。


「クリスタちゃんも学園に入学したら十二歳になっているでしょう。きっと大丈夫です」

「お姉様がいてくれないと心細いです」

「わたくしも出席できるようになればいいのですが」


 クリスタちゃんが十二歳のころにはわたくしはまだ十三歳だ。

 昼食会や晩餐会に出席できるのは、十五歳か十六歳になってからだろう。


「エクムント様はおられます。それにお父様とお母様も」

「お父様とお母様がいれば平気かしら」

「クリスタちゃんはお母様にしっかりと躾けられています。ハインリヒ殿下の婚約者として隣りに並んでも恥ずかしくないですよ」


 力付けるとクリスタちゃんは少し不安が晴れた様子ではあった。


「えーおねえたま、くーおねえたま、あとんでー!」

「ねぇね、あとぼー!」


 ふーちゃんとまーちゃんに誘われてわたくしとクリスタちゃんは話を中断してふーちゃんとまーちゃんの遊んでいる部屋の隅に行った。敷物の敷かれたその場所には、レールが敷いてあって、その上をふーちゃんとまーちゃんが列車を走らせている。


「わたち、まーたんにれっちゃ、あげたの」

「にぃに、ぽっぽ、くえた」

「てつのれっちゃ、わたちの。きのれっちゃ、まーたんの」


 鉄の列車と木の列車は少し作りが違うので、レールの幅が違っていた。木の列車をまーちゃんにお譲りして、ふーちゃんは鉄の列車だけで遊ぶことにしたようだ。


「まーたん、おたんどうび、おめでと」

「にぃに、ありがちょ」


 木の列車はふーちゃんからまーちゃんへのお誕生日プレゼントだった。


 その日は部屋で夕食を食べて、両親が帰ってくる前に眠ってしまった。

 翌朝、起きると両親は帰っていて、荷物を纏めていた。


「王都への長い滞在期間が終わりましたね」

「エリザベートもクリスタも、帰る準備はできているかな?」

「まだです! すぐに準備をします」

「わたくしも!」


 洗面をして、着替えて朝食を食べてから、わたくしとクリスタちゃんは大急ぎで帰る準備をした。ふーちゃんとまーちゃんの帰る準備はヘルマンさんとレギーナがしてくれていた。


 公爵家がこの国には一つしかないので、ディッペル家から馬車が送り出される。馬車に乗り込むクリスタちゃんにハインリヒ殿下が手を握って別れを惜しんでいる。


「次にお会いできるのはエリザベート嬢のお誕生日ですね」

「お姉様のお誕生日にぜひ来てくださいね」

「はい、行きます」


 クリスタちゃんの首でネックレスが光り、耳ではイヤリングが揺れている。ハインリヒ殿下にいただいたネックレスとイヤリングをクリスタちゃんは身に着けていたのだ。


「エリザベート嬢のお誕生日には行けませんが、隣国からお祝いのお手紙を書きます」

「ありがとうございます、ノエル殿下」


 ノエル殿下はわたくしのお誕生日の時期と姉上のお誕生日の時期が重なっているので、隣国に帰らなければいけないのだ。それも毎年のことなのでわたくしはしっかりと理解している。

 お誕生日に届くお手紙が難解な詩だったらどうしようと思わなくもないのだが、それでもノエル殿下のお気持ちは嬉しかった。


「来年もお茶会をしたいものだな、ディッペル公爵、公爵夫人」

「喜んで参加させていただきますわ」

「久しぶりに国王陛下と個人的なお話ができて楽しかったです」

「来年も楽しみにしておりますわ」


 国王陛下と王妃殿下は両親に話しかけていた。

 馬車に乗るとハインリヒ殿下とノエル殿下とノルベルト殿下はずっと手を振って下さっていた。

 国王陛下と王妃殿下も名残惜しそうに馬車を見送って下さっていた。


 ディッペル公爵家がこの国に置いてどれだけの地位を築いているかを見せられた数日間ではあった。


 ディッペル公爵領に帰るとふーちゃんとまーちゃんは子ども部屋で伸び伸びと遊んでいた。王都に持っていけるレールの数は少なかったので、列車の遊びもそれほど盛り上がらなかったのだ。

 ふーちゃんは鉄の列車のための木のレールを長く敷いて、まーちゃんは木の列車を楽しそうに色んな場所に走らせている。レールを敷くのはまーちゃんにはまだ難しそうだった。


 わたくしとクリスタちゃんは着替えをして荷物を片付けると、子ども部屋に行った。まーちゃんがクリスタちゃんの足に縋り付いてくる。


「ねぇね、レール、ちて」

「レールが敷いて欲しいのですか?」

「あい」


 お願いされてクリスタちゃんはまーちゃんのためにレールを敷いてあげていた。わたくしはふーちゃんの遊んでいるところに近寄って行く。


「えーおねえたま、れっちゃ、かちてあげる。どうじょ」

「ありがとうございます、ふーちゃん」

「わたち、リリエンタールこうしゃくりょうにいくの」

「レーニちゃんに会いに行くのですか?」

「レーニじょうとおたかいつるの」


 ふーちゃんの鉄の列車はリリエンタール侯爵領に行くようだった。


「デニスくんも早く一緒にお茶ができるようになるといいですね」

「デニスどのもいっちょ!」


 レールの上を列車を走らせていくふーちゃんをわたくしは温かい目で見守っていた。


 王都から戻ると暑い夏が来る。

 今年の夏は特に暑くて、辺境伯領では暑さで倒れるものも出たという。

 窓を開けていても蒸し暑く、風がない日は汗だくになってしまう。

 それでも頻繁にシャワーを浴びて、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは夏を乗り切った。

 夏が過ぎれば秋が来る。

 秋には毎年辺境伯領に行っている。


 今年もエクムント様のお誕生日に辺境伯領に招かれていた。


「エクムント様にお誕生日プレゼントが差し上げられないでしょうか」

「お姉様が辺境伯領に行くことがプレゼントになるのではないですか?」

「それほどわたくしは価値があるとは思っていませんわ」

「お祝いしようという気持ちが大事なのです」


 クリスタちゃんに諭されたけれど、わたくしはエクムント様にお誕生日プレゼントを用意できないことを気にかけていた。


 何かプレゼントが用意できればいいのだが、わたくしは自由にお屋敷から出ることはできないし、商人を呼ぶわけにもいかない。両親に助けてもらうのも何か違うような気がしていた。


「刺繡をしましょう、お姉様」


 結局できることはそれくらいしかなくて、わたくしは小さな布のポーチにブルーサルビアの刺繍をして用意した。

 刺繡は上手くできた気がするのだが、煌びやかなプレゼントを思い浮かべてしまうと、わたくしはそれを手渡すのに気後れしそうだった。

読んでいただきありがとうございました。

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