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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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12.無礼講のお茶会

 日当たりのいい部屋は窓が開けられてレースのカーテンが風に揺れている。庭を抜けてきた涼しい風を受けながら、わたくしたちはお茶をする。

 朝の散歩のことをクリスタちゃんがノエル殿下に報告していた。


「リリエンタール家の皆様と朝食前に一緒に庭をお散歩したのです。フランツはレーニ嬢が大好きで、即興で詩を読んだのですよ」

「フランツ殿が! どのような詩か聞いてもいいですか?」

「はい、わたくし、覚えています。『わたち、レーニじょうにあってむねにはなのつぼみができまちた。わたちのむねは、レーニじょうにささげるおはなのつぼみでいっぱいなのでつ。いつかさきまつ、ふーのはな』拙い言葉でも懸命に気持ちを伝える姿が素晴らしかったですわ」

「なんて可愛らしい詩なのでしょう。書き写して手元に置きたいくらいですわ」

「ノエル殿下もそう思われますか?」


 それから紙と万年筆を出してクリスタちゃんとノエル殿下はふーちゃんの詩を書き写していた。

 詩を書き写し終わると、ノエル殿下が今度は話し出す。


「わたくし、兄と姉はいましたが、下に弟妹はいなかったのです。ノルベルト殿下と婚約して、この国に留学して、ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下に出会いました。二人のことを本当の弟妹のように思っているのですよ」

「私はノエル殿下に弟と思われているのですか!?」

「嫌ですか、ハインリヒ殿下?」

「いいえ、光栄です」


 光栄だとは言っているがハインリヒ殿下は複雑そうな顔をしていた。


「僕の弟妹はノエル殿下と結婚すれば、ノエル殿下の義理の弟妹になります。本当の弟妹のように思ってくれて嬉しいです」

「わたくし、失礼なことを言ってしまったでしょうか?」

「いいえ、ハインリヒは照れているだけですよ」


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下はお母上が違う。

 それをノエル殿下は気にしているのかもしれないが、王妃殿下はノルベルト殿下を引き取って自分の子と分け隔てなく育てている。ノルベルト殿下のお母上を乳母に雇ったのだって、王妃殿下の慈悲あってのことだ。

 ノルベルト殿下にとっても王妃殿下は本当のお母上のように接せられているのだろう。


 そのことを気にかけているのかノエル殿下は不安そうだが、ノルベルト殿下は大らかにそれを払拭してみせた。


「そうですね。ノルベルト兄上が結婚したら、私はノエル殿下を義姉上とお呼びしていいのですね」

「そう呼んでいただけると嬉しいです」

「ユリアーナもノエル殿下のことを義姉上と呼ぶと思います」


 大人のテーブルにいる座れるようになっているユリアーナ殿下に視線を向けると、ユリアーナ殿下は手掴みでケーキを食べて、乳母に手を拭かれていた。

 ふーちゃんとまーちゃんもユリアーナ殿下をちらちら見ながらケーキとサンドイッチを食べている。


「マッマ、あかたん」

「ユリアーナ殿下ですよ」

「ゆーでんた」

「ユリアーナでんかは、いくちゅ?」


 ユリアーナ殿下に興味津々のまーちゃんとふーちゃんに、王妃殿下が答えてくれる。


「一歳になりました。秋には二歳になります」

「まーたんといっと。まーたん、おたんどうび」

「そうでしたね。今日はマリア嬢のお誕生日だと聞いています。ケーキを特別に用意させたので、ご一緒に祝わせてもらえますか?」

「お心遣いありがとうございます、ジョゼフィーヌ殿下」

「マリア、お誕生日のケーキが来るよ。よかったね」

「けーち! けーち!」


 フォークを握り締めて喜んでいるまーちゃんの前に大きな桃のケーキが置かれる。

 わたくしたち子どものテーブルにも大きな桃のケーキが置かれた。


「お誕生日おめでとうございます、マリア嬢」

「ユストゥスの愛娘の誕生日を祝えて嬉しいよ」

「ありがとうございます、ジョゼフィーヌ殿下、ベルノルト陛下」

「マリア、お礼を申し上げて」

「あいがちょごじゃまつ」


 母に促されてまーちゃんが可愛くお礼を述べていた。

 ケーキは切られてそれぞれのお皿に乗せられる。

 残ったケーキを指差してまーちゃんが一生懸命自己主張している。


「へうまんたん、レギーナ!」

「残りはヘルマンさんとレギーナにあげたいのですか?」

「ベルノルト陛下、ジョゼフィーヌ殿下、マリアは普段お世話になっている乳母たちにケーキの残りをあげたいと言っているのですが、よろしいでしょうか?」

「マリアのケーキだから自由にするといい」

「マリア嬢は乳母にケーキを下げ渡すなんて、心優しいのですね。将来大物に育ちますわ。ユリアーナは全部自分のものだと思っていますからね。ハインリヒやノルベルトの分まで食べてしまおうとするのですよ」

「ゆーの!」


 自分に話が向いたと気付いたユリアーナ殿下がお皿に乗っているケーキを抱え込むようにして口に運んでいる。口の周りにたくさんクリームが付いているが、それを素早く乳母が拭いていた。


「マリア嬢のお誕生日は私とノルベルト兄上の間ですね」

「一緒にお祝いができて嬉しいです」

「マリア嬢がお茶会に出られる年齢までは、毎年私たちとお祝いをしませんか?」

「父上と王妃殿下もディッペル公爵と公爵夫人とお茶をするのを楽しんでいるようですし」


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下の提案はわたくしとクリスタちゃんにとっても嬉しいものだった。

 毎年ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日に挟まれて、当日にお誕生日を祝えないまーちゃんを当日お祝いすることができる。しかも国王陛下の御一家とノエル殿下もご一緒にだ。

 これだけ光栄なことはないだろう。


 何より無礼講なのでディッペル家のお屋敷にいるような寛いだ雰囲気でいられるのがよかった。


「ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のループタイは素敵ですね」

「私のは母が選んでくれました」

「僕のはノエル殿下がお誕生日お祝いにくださったのです」

「ノルベルト兄上が付けているのが羨ましいと母上に言ったら、私にも選んでくれたのです」


 一歳違いの兄弟というのはこのようなものなのかもしれない。

 兄が持っているものを弟は欲しがるのだろう。


 クリスタちゃんもわたくしがエクムント様からネックレスをもらったらネックレスを羨ましそうにしていたし、イヤリングをもらったらイヤリングも欲しそうにしていた。

 淑女の嗜みで強請るようなことはしなかったが、ハインリヒ殿下はクリスタちゃんの気持ちを汲んで、クリスタちゃんにネックレスとイヤリングをプレゼントした。

 年下のクリスタちゃんがわたくしのもらったものが欲しいと思う気持ちが分かったのも、ハインリヒ殿下がノルベルト殿下の弟という位置づけにあったからかもしれない。


「父上は僕が成人したら、アッペルの名前で大公にしてくれるためにレデラーを名乗らせていないのだと教えてくれました。僕は成人したらアッペル大公となって、ノエル殿下と結婚するのです」


 ハインリヒ殿下が王家のレデラーの姓を持っているのに対して、ノルベルト殿下が本当のお母上の姓であるアッペルをの名乗っているのは、そういう意図があったからなのか。

 国王陛下はノルベルト殿下が生まれたときから将来は大公にすることを考えていたのだ。


 婚約者のいる身で他の女性と恋に落ち、ノルベルト殿下を生ませた国王陛下に関して考えるところがないわけではないが、蟠りのあった王妃殿下との関係も改善されて、今は国を支えるよきパートナーとして寄り添い合っている。

 王妃殿下もノルベルト殿下に関しては何の罪もないと最初から認めていて、ノルベルト殿下をハインリヒ殿下と分け隔てなく育てているのがよく分かる。


 わたくしはエクムント様が他の女性との間に子どもを作ったらショックで結婚を考えられなくなってしまうかもしれないが、王妃殿下はそのようなことはなく、ノルベルト殿下が生まれてからこの国に嫁いできたが、しっかりと後継者のハインリヒ殿下を生んでいる。


 王妃殿下のように恋愛感情はなくパートナーとして国王陛下を認める姿勢は貴族として素晴らしいのかもしれないが、わたくしにはできそうもなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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