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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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10.ふーちゃんの恋

 お茶会が終わるとわたくしとクリスタちゃんと両親は部屋に戻った。

 ふーちゃんとまーちゃんのご機嫌は斜めなようだが、わたくしはふーちゃんとまーちゃんにお話ししてあげる。


「これから、リリエンタール家のレーニ嬢とデニス殿が来ます。フランツとマリアはお茶をしましたか?」

「おた、まだ」

「ちてない」

「レーニ嬢とデニス殿とお茶をすればいいですね。わたくしも同席します」

「わたくしも同席するわ」


 ひっくり返ってじたばたともがいていたふーちゃんとまーちゃんが真っすぐに立ち上がる。

 ふーちゃんはヘルマンさんに、まーちゃんはレギーナに縋り付いている。


「わたち、おちがえ」

「そのままでも格好いいですよ、フランツ様」

「かみのけ、かーいー、ちて!」

「編み込みにしましょうか、マリア様」


 身だしなみを整えることを一番に考えられるのはさすがディッペル家の息子と娘だ。ふーちゃんは特にレーニちゃんのことが大好きだから、格好つけたいのだろう。


 髪を梳いてもらっているふーちゃんと、柔らかな髪を細い編み込みにしてもらっているまーちゃん。

 可愛く整えられたところで、部屋のドアがノックされた。


「お邪魔致します。ディッペル公爵、公爵夫人、お部屋を訪ねることをお許しくださってありがとうございます」

「いらっしゃいませ、リリエンタール侯爵、レーニ嬢、デニス殿、リリエンタール侯爵の御夫君」

「デニスまでお招きくださってありがとうございます」


 レーニちゃんのお父様がデニスくんを抱っこして部屋に入って来る。まーちゃんはデニスくんに興味津々だった。


「あかたん」

「デニス様ですよ」

「でーたん、おた!」

「まだ、お茶は一緒にできませんね」


 レギーナが説明しているが、まーちゃんはデニスくんと一緒にお茶をしたい様子だった。

 ふーちゃんが素早くレーニちゃんの手を取ってソファに連れて行く。ヘルマンさんがお茶を淹れてくれていた。


「ミルクティーになさいますか? ストレートティーになさいますか?」

「ミルクティーでお願いします」

「わたくしはノルベルト殿下のお茶会で飲んで来たので遠慮いたしますわ」

「お母様、わたくしがデニスを抱っこしていいですか?」

「椅子に座って抱っこしてくださいね」


 ミルクティーを頼んだレーニちゃんは、ソファに座って膝の上にデニスくんを抱っこしていた。レーニちゃんの正面にふーちゃんが座って、隣りにまーちゃんが座る。

 ふーちゃんはレーニちゃんを見てもじもじとしている。


「レーニじょう、かーいーね」

「デニスではなくてわたくしを可愛いと言ってくださるのですか?」

「あい、かーいー」

「ありがとうございます、フランツ様。これからお茶の時間ですか?」

「レーニじょうとおたかい。わたちのけーち、はんぶんあげう」

「いいのですよ。わたくしは食べて来ましたから。ケーキはフランツ様が全部食べてください」

「やたちい! すち!」


 何気に告白しているが、レーニちゃんはそれを笑って受け止めていた。

 ケーキとサンドイッチを食べたふーちゃんとまーちゃんは、れーにちゃんを遊びに誘っている。


「ちゅっぽ、みててあげる」

「列車ですか? わたくし、列車には詳しいのですよ」

「こえ、おうといきのとっちゅうれっちゃ!」

「こっちはディッペル公爵領を走る普通列車ですね」

「おー! しゅごい!」


 リリエンタール侯爵も列車に詳しかったがレーニちゃんも列車に詳しいようだ。仰け反って感心しているふーちゃんをレーニちゃんは笑顔で見守っている。

 レーニちゃんのお父様に抱っこされたデニスくんにまーちゃんは声をかけていた。


「まー、マリア。でーたん、よろくち」

「あう?」

「デニスに挨拶をありがとうございます、マリア様。この子はデニス。レーニに似て赤毛で可愛いでしょう?」

「あかげ、かーいー!」


 レーニちゃんは元の父親に赤毛であることを厭われていたようだが、今のお父様はレーニちゃんのこともデニスくんのことも可愛くて堪らないようだ。


「フランツはレーニ嬢が大好きなようですね」

「わたくし、エリザベート様からもしも、フランツ様とレーニが婚約したらという話をされたのですよ」

「エリザベートは気の早いことを」

「でも、わたくしの夫も七歳年が下です。不敬かもしれませんが、あり得ない話ではないと思ってしまいました」

「不敬だなんてとんでもないです。レーニ嬢はエリザベートともクリスタとも仲がいいので、そうなってくれたら私たちも嬉しいと思っていますよ」

「本当ですか?」

「まぁ、まだフランツは小さいので、もっと先の話ですが」


 わたくしの語ったもしもの話を、リリエンタール侯爵は真剣に考えてくれていたようだ。リリエンタール侯爵家にとってディッペル家と繋がりができるのは悪いことではないし、リリエンタール侯爵は前の夫のことがあるから殊更にレーニちゃんの結婚相手を選ぶのには慎重になっているのかもしれない。

 ホルツマン家のレーニちゃんの従兄が選ばれることは絶対にないだろうとわたくしは確信していた。


「フランツ、レーニ嬢を独り占めしないでください。わたくしたちとも遊ばせてください」

「わたち、レーニじょうとあとびたいのー!」

「みんなで一緒に遊びましょう?」


 クリスタちゃんが自分もレーニちゃんと一緒に遊びたいと主張すると、ふーちゃんは珍しくクリスタちゃんに言い返していたが、レーニちゃんがみんなで遊ぶことを選んだのでその場はおさまった。

 色紙を出してきて、クリスタちゃんが折り紙をする。わたくしの膝の上に座って、ふーちゃんも一生懸命折り紙を折っていた。


「レーニじょう、おはな」

「フランツ様は折り紙も上手なのですね」

「あげう!」

「くださるのですか? ありがとうございます」


 一生懸命折ったちょっと歪な花をふーちゃんはレーニちゃんに渡していた。

 まーちゃんは色紙をくしゃくしゃと丸めてデニスくんに差し出している。


「ぼーう!」

「ボールですか。上手にできましたね」

「でーたん、どうじょ」

「デニスにくださるのですか。ありがとうございます」


 くしゃくしゃに色紙を丸めたボールを受け取って、デニスくんは手で握り締めて遊んでいた。


「明日は何かご予定がありますか?」

「明日はちょっと、お茶会に招かれております」

「朝にわたくしたち庭を散歩しておりますが、ご一緒致しませんか?」

「朝ならば平気です。エリザベートもクリスタもフランツもマリアも散歩が大好きです。喜ぶでしょう」


 リリエンタール侯爵から誘われて父は明日の朝に散歩を一緒にする約束をしていた。

 明日も朝から予定が入って忙しくなりそうだ。


「明日もエリザベート様とクリスタ様とフランツ様とマリア様にお会いできるなんて嬉しいです」

「わたくしもレーニ嬢にお会いできるのは嬉しいです」

「わたちもうれちい」

「フランツはレーニ嬢が大好きですね」

「だいすち! けこんつる!」

「え!? フランツ様ったら、結婚の意味が分かっていないのですね」

「けこんつるー!」


 ふーちゃんの発言にレーニちゃんは驚いているが、本気にはしていないようだ。

 わたくしは「三つ子の魂百まで」ということわざを思い出していた。

 ふーちゃんはレーニちゃんをずっと好きな予感しかしない。リリエンタール侯爵もふーちゃんならばレーニちゃんを嫁がせてもいいかもしれないと思い始めている気がする。


 姉としてわたくしはふーちゃんの恋を応援していた。


 リリエンタール侯爵とレーニちゃんとレーニちゃんのお父様とデニスくんが帰るときには、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんは廊下に出て、リリエンタール侯爵一家が見えなくなるまで手を振っていた。

 ふーちゃんの目にはちょっとだけ涙が浮かんでいた。


「ふーちゃん、レーニちゃんが好きなのですね?」

「すち! だいすち!」

「わたくしがレーニちゃんに贈る詩の書き方を教えてあげますからね」


 廊下でそっとふーちゃんに囁くクリスタちゃんに嫌な予感しかしない。

 わたくしがクリスタちゃんやノエル殿下の詩の意味がよく分からないように、レーニちゃんもふーちゃんからもらった詩の意味が分かっていなかった。


 ふーちゃんがクリスタちゃんに習って詩を書くのならば、レーニちゃんはその意味をわたくしに尋ねて来るだろう。

 わたくしは詩の意味を答えられる自信が全くなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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