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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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8.お茶会後の約束

 父と国王陛下は学園時代の学友で、同じ年である。

 母は一つ年下で、学園時代から父とは親しくしていたので、国王陛下とも親交があったはずだ。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下がわたくしたちディッペル家の一家をお茶に誘ったのは、国王陛下が両親とお茶をしたかったということもあるだろう。王妃殿下も両親と親しくしたいというようなことを言っていた覚えがある。

 お茶会の場ではなく、手紙で知らされたのは、ディッペル家が国王陛下一家とノエル殿下にお茶に誘われていたのを聞いたら、他の貴族たちがいい顔をしないと思ったのかもしれない。

 ディッペル家はバーデン家が降格になってから、この国唯一の公爵家となったし、そんなに気にすることはないのではないかと思ってしまうが、貴族の中で嫉妬ややっかみは面倒なことになるのだろう。


 ハインリヒ殿下がクリスタちゃんを特に気に入っているというのも、もはや周囲に知れ渡っている。国中がハインリヒ殿下とクリスタちゃんの婚約がいつになるかを見守っているというような状態である。


 実際、クリスタちゃん以上にハインリヒ殿下の婚約者に相応しい相手はこの国にはいない。

 王族の中から選ぶのは血が近いし、王家の利益ともならないので論外であるし、隣国との関係性ならばノルベルト殿下が既に隣国の王女であるノエル殿下と婚約している。


 この国唯一の公爵家には娘が三人いて、長女のわたくしは辺境伯家に嫁ぐことが決まっている。そうなると次女のクリスタちゃんが王家に嫁げば、辺境伯家とも繋がりができるし、ディッペル家とも繋がりがより強固なものになる。


 ノルベルト殿下がわたくしとの婚約を考えたときには、バーデン家のことも考えて、ディッペル家だけが王家と繋がりを持って力を持つのは国のバランスを崩すといってお断りしたのだが、バーデン家が降格されて、公爵家が一つになった今となっては話は別だ。

 クリスタちゃんこそがハインリヒ殿下の婚約者に相応しいということになるだろう。


 今はまだクリスタちゃんが十歳なので婚約の話は持ち上がっていないが、それも時間の問題だとわたくしは思っていた。


「何かあるかもしれないと思って、フランツのスーツとマリアのドレスを荷物に入れて来てよかったよ」

「二人とも明日は一緒に国王陛下一家のお茶会に参加しましょうね」

「わたち、おたかい、いけう?」

「まー、おたかい?」


 両親の言葉に勘違いしてしまったのか、ふーちゃんとまーちゃんがヘルマンさんとレギーナのスカートを引っ張る。


「おきがえ、ちて! おたかいよ!」

「わたくち、どれつ! どれつ!」

「フランツ様、今ではありませんよ?」

「マリア様、ドレスは明日です」

「おきがえー!」

「どれつー!」


 ヘルマンさんとレギーナを困らせているふーちゃんとまーちゃんにわたくしとクリスタちゃんが言い聞かせる。


「今日はわたくしとクリスタとお父様とお母様で行ってきます。フランツとマリアは明日です」

「今日眠って、明日ですよ。分かりますか?」

「あちた……?」

「あちた、いちゅ?」


 よく時間の経過を理解していないふーちゃんとまーちゃんには、「明日」はまだ難しいようだった。


「わたち、おたかい、いくぅー! びええええええ!」

「まー、いくぅー! ふぇぇぇぇぇ!」


 泣き出してしまったふーちゃんとまーちゃんを宥めようとするが、ヘルマンさんとレギーナが素早くふーちゃんとまーちゃんを抱き留めた。


「列車の絵本を読みましょう」

「列車のおもちゃも出しましょうね。レールは少しですが、どこに敷きましょうか?」

「ちゅっぽ?」

「ぽっぽ!」


 列車の話になると飛び付くふーちゃんに、まーちゃんもつられている。ふーちゃんとまーちゃんが列車で夢中で遊んでいる間に、わたくしとクリスタちゃんと両親はそっと部屋を抜けて来た。

 階段を降りようとすると、エクムント様の姿が見える。


「エリザベート嬢、手を」

「エクムント様、迎えに来て下さったのですか?」

「カサンドラ様がそれくらいのことはしろと仰って」


 カサンドラ様はどこまでもわたくしの味方だった。エクムント様にエスコートされて大広間に向かうわたくしを、クリスタちゃんが両手を組んでうっとりと見つめている。


 大広間ではノルベルト殿下がお客様に挨拶をしていた。


「ようこそいらっしゃいました、ディッペル公爵、公爵夫人、エリザベート嬢、クリスタ嬢」

「この度はお招きありがとうございます」

「お誕生日おめでとうございます」


 挨拶をすればノルベルト殿下の隣りに控えているノエル殿下と目が合う。


「エリザベート嬢、クリスタ嬢、後でお茶をご一緒しましょうね」

「はい、喜んで」

「エクムント殿もいらっしゃってくださいね」

「ありがとうございます。喜んでご一緒させていただきます」


 ノエル殿下にお茶に誘われたということは、ノルベルト殿下もハインリヒ殿下もご一緒ということだ。


「レーニ嬢はいるのでしょうか? わたくし、レーニ嬢もお誘いしたいのですが」

「レーニ嬢もお誘いしましょう。お茶はみんなで一緒にした方が楽しいですわ」

「レーニ嬢からデニス殿の成長を聞きたいのです」


 会場を見回すクリスタちゃんに、ノエル殿下は笑顔でレーニちゃんもお誘いすることを許してくださった。


 大広間を歩いていると、レーニちゃんとリリエンタール侯爵にお会いする。リリエンタール侯爵はわたくしとクリスタちゃんを見付けると、すぐに声をかけて来て下さった。


「エリザベート様、クリスタ様、こんにちは。今回の王都滞在にはデニスも連れて来ているのですよ」

「エリザベート様、クリスタ様、お久しぶりです。フランツ様とマリア様はお部屋におられるのでしょうか? お茶会の後でお部屋を訪ねてもいいですか?」

「レーニったらそのことばかり気にしていましたのよ」

「両親に聞いてみます。きっといいと言うと思います」

「デニスも連れて行っていいですか?」

「デニス殿にお会いできるなんて嬉しいです」


 レーニちゃんの申し出にわたくしはまず両親に確認することを考えていたが、クリスタちゃんはもうデニスくんに会えることを喜んでいた。

 まだ決まったことではないが、両親はきっと了承してくれるだろう。


「レーニ嬢、ノエル殿下からお茶に誘われました。レーニ嬢もご一緒しませんか?」

「お誘いいただきありがとうございます。喜んでご一緒致します」


 クリスタちゃんに誘われてレーニちゃんはすぐに答えていた。


 クリスタちゃんとレーニちゃんが話している間に、わたくしは両親のところに戻ってレーニちゃんの件を聞いてみることにした。


「お父様、お母様、お茶会の後でレーニ嬢がわたくしたちの部屋に遊びに来たいと言っているのです。デニス殿も一緒です」

「レーニ嬢とエリザベートとクリスタはとても仲がいいからね」

「歓迎いたしますとリリエンタール侯爵にお伝え致しましょうね」

「ありがとうございます、お父様、お母様」


 了承してくれた両親にお礼を言って、わたくしはレーニちゃんとクリスタちゃんのところに戻った。


「レーニ嬢、お茶会の後でわたくしたちのお部屋に来る件、両親の了承が取れました」

「よかったですわ。ありがとうございます」

「お姉様、レーニ嬢とデニス殿と遊べるのですね」

「クリスタ、お父様とお母様も一緒ですからね。内緒の呼び方が出てしまわないように気を付けるのですよ」

「はい、お姉様!」


 元気に答えるクリスタちゃんに一抹の不安を覚えながらも、レーニちゃんとデニスくんとお茶会の後の約束ができたのは喜ばしいことだった。


 挨拶を終えたノルベルト殿下が少し疲れた顔でノエル殿下の手を引いてわたくしたちの方に歩いて来ている。

 わたくしが歩き出そうとすると、エクムント様がわたくしに手を差し伸べた。わたくしはエクムント様の大きな手の上に手を重ねる。


「お姉様、羨ましい……」

「クリスタ嬢、手を」


 じっとわたくしを見詰めるクリスタちゃんに、小走りで駆け寄って来たハインリヒ殿下が手を差し出す。クリスタちゃんは頬を薔薇色に染めて、ハインリヒ殿下の手に手を重ねていた。


「わたくしもエスコートしてくれる相手が欲しいものですわ」


 呟くレーニちゃんに、レーニちゃんにいい方が現れてしまったらふーちゃんがショックを受けるのではないかとわたくしは密やかに思っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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