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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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7.ハインリヒ殿下とノルベルト殿下からのお手紙

 トランクが大きくなって、荷物も前よりも多く入るようになって、わたくしとクリスタちゃんは王都行きの準備を終えた。

 王都に向かう馬車にはわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親が乗って、ふーちゃんとまーちゃんが大きくなってきたので少し手狭にはなっていた。


「わたち、ひとりでのれう!」

「まーも!」

「フランツ、一人では座席からずり落ちてしまうよ」

「マリアも、お膝に乗りましょうね」

「やー! ひとりでのうー!」

「まーも、ひとりー!」


 ふーちゃんは大人しいいい子だと思っていたが魔の三歳という言葉もある。遂にいやいや期に入ってしまったようだ。それに合わせてまーちゃんまでがいやいやになってしまっている。


「フランツ、特別にわたくしのお膝に乗せて上げましょう」

「マリアはわたくしのお膝が大好きですわよね?」

「えーおねえたま、だっこ!」

「くーねぇね、すち!」


 優しく誘えばふーちゃんは大人しくわたくしの膝の上に座って、まーちゃんはクリスタちゃんの膝の上によじ登って来た。


「私たちの言うことは聞かないのに、エリザベートとクリスタの言うことは聞くんだね」

「すっかりお姉様っ子になってしまいましたね」


 両親は苦笑していた。


 列車の中でもふーちゃんとまーちゃんは一人で座りたがったので、わたくしがふーちゃんをお膝に抱っこして、クリスタちゃんがまーちゃんをお膝に抱っこして座席に座った。

 ふーちゃんは大きくなっているし、元気に跳ねようとするのでわたくしはふーちゃんをしっかりと抱き締めておかなければいけなかった。クリスタちゃんもクリスタちゃんの体の割りにまーちゃんが大きいので、まーちゃんをしっかりと抱き締めていた。


 王都に着くと宮殿まで馬車で移動する。

 馬車を降りると客間に案内されて、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんはシャワーを浴びて汗を流して、旅の衣装から寛げる服に着替えた。

 両親はこれから晩餐会に参加するのでドレスとスーツに着替えている。

 母はもうコルセットで腰を締めることはなくなったが、モダンスタイルの床につかない長さで、スカートも膨らませていないドレスがよく似合っていた。

 豊かな金髪を結い上げてイヤリングとネックレスを身に着けた母はとても美しい。


「お母様綺麗ですわ」

「わたくしもお母様みたいになりたいわ」


 クリスタちゃんと母に見惚れていると、母がわたくしとクリスタちゃんの髪を撫でる。


「フランツとマリアを留守番をお願いしますね」

「はい。フランツもマリアもしっかりわたくしたちが見ておきます」

「お父様とお母様は楽しんで来てください」


 わたくしとクリスタちゃんが公の場に出るのは明日のノルベルト殿下のお誕生日のお茶会と、一日置いて、明々後日のハインリヒ殿下のお誕生日のお茶会だった。

 空いた一日はまーちゃんのお誕生日なので、お祝いをしてあげたいが、ここは王宮でディッペル家のお屋敷とは勝手が違うのでケーキを頼めるかは分からなかった。


「行ってらっしゃいませ、お父様、お母様」

「国王陛下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下によろしくお伝えください」

「おとうたま、おかあたま、いってらったい」

「パッパ、マッマ、ばいばい」


 わたくしとクリスタちゃんが出かけるときに声をかけると大泣きするふーちゃんとまーちゃんだったが両親に対しては結構ドライな反応をしていた。手を振って普通にお見送りできている。


 留守番している間、わたくしとクリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんと遊んで、夕食の時間には部屋で夕食を取って、寝る準備をする。

 わたくしとクリスタちゃんが寝る準備をしていると、ふーちゃんとまーちゃんも競って寝る準備をしていた。


「わたち、はみがち、でちる!」

「まーも! まーも!」

「えーおねえたま、くーおねえたま、みてみて!」

「まー、みてー! みてー!」


 ヘルマンさんとレギーナに歯磨きをしてもらっているふーちゃんとまーちゃんをわたくしとクリスタちゃんは見守る。


「とても上手ですよ、ふーちゃん、まーちゃん」

「歯磨きができて偉いわ」

「わたち、じょーじゅ!」

「まー、えりゃい!」


 誇らしげな顔をしているふーちゃんとまーちゃんがうがいをして着替えてベッドに入るまでわたくしとクリスタちゃんはずっと見守っておかなければいけなかった。


 ふーちゃんとまーちゃんがベッドに入ってからわたくしとクリスタちゃんもベッドに入って眠る。

 目を閉じると旅の疲れか眠気が襲って来て、わたくしはあっという間に眠ってしまっていた。


 早朝に目が覚めたときには、両親は部屋に戻って来て眠っていた。

 一人ベッドを抜け出すと、クリスタちゃんも起きてベッドから出て来る。

 洗面所で顔を洗って、着替えていると、ふーちゃんとまーちゃんが起きて、両親のベッドに突撃して行っていた。


「おとうたま、おかあたま、おはよー!」

「パッパ、マッマ、おはよ!」

「朝から元気がいいですね。おはようございます、フランツ、マリア」

「おはよう、フランツ、マリア」

「おたんぽ、いきたいのー!」

「おたんぽ! おたんぽ!」


 お散歩に行きたいとお願いするふーちゃんとまーちゃんに両親は起きて洗面をして着替えをする。


「朝食まで時間がありますから、お散歩に行きましょうか?」

「エリザベートとクリスタもついてくるかな?」

「わたくしも行きますわ」

「お帽子を被って行かなくちゃ」


 ふーちゃんとまーちゃんの顔を拭いて、両親は着替えさせると、王宮の庭にお散歩に出た。

 王宮の庭は広く、早朝なので警備の兵士しかいなくてわたくしたち一家で王宮の庭を独り占めしたような気分になる。

 庭にはライラックの花が咲いていて、ペチュニアや、アジサイや、アサガオや、夏薔薇も咲いていた。

 花を見ると手を出してしまうふーちゃんとまーちゃんを両親が止めている。


「摘んではいけないよ。これは国王陛下の御庭だからね」

「摘まないで見て楽しみましょうね」

「つんだら、めっ!」

「めっ!」


 伸ばした手を引っ込めて、ふーちゃんとまーちゃんは顔を見合わせて言っていた。


 朝のお散歩が終わると、部屋に帰って朝食を食べる。

 ふーちゃんはフォークとスプーンを駆使して上手に自分で食べていたし、まーちゃんもスプーンとフォークで自分で食べようと一生懸命頑張っていた。まーちゃんはまだ上手に食べられず、スプーンに乗せたものが落ちてしまったり、フォークで刺せなくて苦心したりしていたが、それでもレギーナの助けがあってなんとか食べられていた。

 朝食が終わると部屋で寛いでいたが、わたくしとクリスタちゃんのところに手紙が届いた。


 両親は手紙を開けずにわたくしとクリスタちゃんに渡してくれる。


「ノルベルト殿下からですね」

「わたくしはハインリヒ殿下からです」


 手紙を開けてみると、中に綺麗に箔押しされた便箋が折り畳まれて入っていた。

 便箋を読んでみると、空いた一日のお誘いだった。


『エリザベート嬢とそのご一家へ

 私とハインリヒの誕生日の式典の合間に一日空白の日があります。その日にディッペル家のご家族を招待して、私とハインリヒとノエル殿下と両親とユリアーナと一緒にお茶を致しませんか? その日はマリア嬢のお誕生日だと聞いております。ケーキを用意してお待ちしております。よいお返事を待っております。

 ノルベルト・アッペル』


『クリスタ嬢とそのご一家へ

 私とノルベルト兄上の誕生日の式典の合間に、一日空いている日があると思います。その日にユリアーナを含めた我が一家とノエル殿下とディッペル家でお茶をしませんか? 両親もディッペル公爵と公爵夫人とお茶をするのを楽しみにしています。私はフランツ殿とマリア嬢にお会いできるのを楽しみにしております。どうか考えてください。

 ハインリヒ・レデラー』


 ノルベルト殿下とハインリヒ殿下の名字が違うのは、ノルベルト殿下が妾腹のお生まれだからだ。ハインリヒ殿下は王家のレデラーの名を名乗っているが、ノルベルト殿下はお母上の名字のアッペルを名乗っていらっしゃる。


「お父様、お母様、これを見てください」

「ハインリヒ殿下からお茶のお誘いです」


 わたくしとクリスタちゃんで手紙を見せに行くと両親は目を細めて喜んでいる。


「マリアのお誕生日を祝ってくださるそうだよ」

「ありがたいことですね。エリザベート、クリスタ、わたくしたちは喜んで行かせていただきます」

「返事を書いてくれるかな?」

「はい、お父様、お母様」

「すぐに書きます」


 まだ小さいのでお屋敷に帰ったらひっそりと家族だけで祝おうと思っていたまーちゃんのお誕生日が国王陛下と王妃殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下とユリアーナ殿下とノエル殿下で祝ってもらえる。


「マリア、お誕生日ができますよ」

「まー、おたんどうび?」

「マリアは自分のことを、そろそろ『わたくし』と言わなければいけませんね」


 まーちゃんに教えるクリスタちゃんに、まーちゃんは「わたくち!」と一生懸命繰り返していた。

読んでいただきありがとうございました。

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