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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
七章 辺境伯領の特産品を
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6.新しいトランク

 まーちゃんのお誕生日はノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の間にある。

 ノルベルト殿下とハインリヒ殿下は四日違いでお誕生日が来るので、毎年ノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日は一緒に祝われることになっていた。

 国の貴族たちも王都での滞在が長くなりすぎず、経済的負担も減るのでノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日が一緒に祝われるのには賛成していた。


 しかし、今年から少し変わってくるようだ。


「ハインリヒ殿下は皇太子殿下であられるし、ノルベルト殿下は学園に入学したので、別々に式典とお茶会が行われる予定のようだよ」

「同じドレスで出席するのは公爵家の威光が保てませんね。一着の予定だったドレスを二着誂えさせましょう」

「王都の滞在期間も長くなってしまうけれど、エリザベートもクリスタもしっかりと準備をしておきなさい」


 これはまーちゃんのお誕生日どころではなくなった。

 ハインリヒ殿下は皇太子殿下で、ノルベルト殿下は今年学園に入学したので、二人ともいい年齢になってきたので別々に祝おうと国王陛下も決めたのだろう。

 わたくしとクリスタちゃんは大急ぎで二着のドレスを誂えた。


 わたくしは空色とミントグリーンのドレスを、クリスタちゃんはサーモンピンクとオールドローズのドレスを誂えた。

 空色のドレスは久しぶりでわたくしは幼い頃に戻ったような気分になった。クリスタちゃんも幼い頃に気に入っていたオールドローズのドレスを注文している。


「お姉様、ノルベルト殿下は学園に入学されたのですよね?」

「今年の春から入学されているはずです」

「お姉様も来年には学園に入学されて、ディッペル公爵領から王都の学園の寮に移るのですね……」

「そんなに寂しがることはないですよ。長期休暇には帰ってきますし、お茶会に出席するときには学園は休みになります」


 学園は長い夏休みと冬休みがあって、短い春休みがある。

 ディッペル公爵領と王都は数時間で行き来できるので、わたくしは帰ろうと思えば週末ごとにでも帰ってくることができた。

 週末ごとに帰るかどうかは分からないけれど、夏休みと冬休みと春休みに帰るのは決定している。


「ノルベルト殿下も学園の寮に入っているのですか?」

「ノルベルト殿下は寮に入っていないと思いますよ。ノルベルト殿下にお会いしたときに聞いてみればいいのではないですか?」


 王族が寮に入るというのは聞いたことがない。

 ノルベルト殿下は王宮から学園に通っているだろうし、ノエル殿下も同じだろう。

 ハインリヒ殿下も来年になればわたくしと同じで学園に入学するが、寮には入らずに王宮から通われるだろう。


「わたくしも再来年には学園に入学するのですね。それまではお姉様と離れ離れ……」

「王都は近いのですぐに会えますよ」


 寂しそうにしているクリスタちゃんを慰めつつ、わたくしは別のことを考えていた。


 クリスタちゃんが学園に入学するということは、本格的に『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の物語が始まることを意味する。

 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では、入学してきたクリスタちゃんとわたくし、悪役のエリザベートは学園で初めて出会い、クリスタちゃんの礼儀のなってなさをわたくしが公衆の面前で指摘して恥をかかせるというストーリーになっていた。


 まず、クリスタちゃんとわたくしは初対面ではない。

 クリスタちゃんはノメンゼン家の娘でもなく、ディッペル家の娘になっている。『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は『クリスタ・ディッペル』にクリスタちゃんがなっている時点で根底から覆されていた。

 何より、クリスタちゃんは礼儀知らずの娘ではないのだ。国一番のフェアレディと呼ばれたわたくしの母から教育を受けて、リップマン先生から勉強を習い、刺繍の先生から刺繡や縫物を習って、ピアノと声楽の先生からピアノと声楽を習って、声楽はものすごい才能があるとまで認められている。

 そんなクリスタちゃんをわたくしが礼儀知らずの無礼者と罵ることはあり得なかった。


 ハインリヒ殿下も『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』とは全く違う。

 兄への想いを募らせて拗らせて、ノルベルト殿下こそが皇太子になるべきだと自分が皇太子であることを認めずに、廃嫡になるために荒れた学生生活をする予定のハインリヒ殿下。

 物語とは打って変わって、ハインリヒ殿下は自分が皇太子であることを認めて、しっかりと皇太子の責任を果たしているし、ノルベルト殿下はそんなハインリヒ殿下を支えようと隣国の王女殿下であるノエル殿下と婚約をして、将来は大公になる決意を固めている。ノルベルト殿下の決意が固く、ハインリヒ殿下も揺るがないので、ノルベルト殿下を皇太子にしたい長子相続派の連中も全く手が出せなくなっている。


 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では、ノルベルト殿下の周囲には長子相続派の貴族の子息が取り巻きとなって存在して、ノルベルト殿下とハインリヒ殿下の間の溝をますます深める結果になっていた。


 それも全く起こりそうにない。


 最終的には辺境に追放されて、公爵位を奪われるはずのわたくしは、公爵家の後継者をふーちゃんに譲って、辺境伯家に嫁ぐという決断をしているし、この世界の原典たる『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』とは全く違う方向に物語は進んでいた。


「お姉様、ハインリヒ殿下のお誕生日には、わたくしがオールドローズのドレスを着て、お姉様が空色のドレスを着て、薔薇の造花の髪飾りを付けるのはどうでしょう?」

「何か企んでいるのですか?」

「ハインリヒ殿下と初めて会った頃の装いでハインリヒ殿下をお祝いするのです」

「それは、ハインリヒ殿下も懐かしく思ってくださるかもしれませんね」

「わたくしがオールドローズのドレスで、お姉様が空色のドレスですよ。約束ですからね」

「分かりました。約束しましょう」


 クリスタちゃんの華奢な小指に小指を絡めて約束をすると、クリスタちゃんが嬉しそうに出来上がったドレスを持って部屋に戻って行った。わたくしも誂えてもらったドレスを持って部屋に戻る。


 ドレス二着と普段着と靴とストッキングと髪飾りとネックレスとイヤリング……荷物は滞在日数の分増えて、わたくしのトランクでは入りきれなくなってしまう。


「大変! 荷物が入らないわ!」

「クリスタちゃんもですか?」

「トランクが小さいみたいです」


 荷物が多くなったのと、わたくしとクリスタちゃんが成長したので中身も多くなって、小さな頃は二人で一つのトランクでよかったのに、今は一人一つのトランクでも足りなくなってしまっている。


「お父様とお母様に相談して、トランクを買ってもらうしかないですね」

「どうしても持って行くものは必要ですからね」


 わたくしとクリスタちゃんが両親にお願いしに行くと、両親は快く受け入れてくれた。


「フランツとマリアのトランクが入り切れなくなっていたところだったのだよ」

「二人で一つのトランクを使っていたのですが、今回は長期滞在になるので荷物が多くなっていたようです」

「エリザベートとクリスタが使っているトランクはフランツとマリアに譲って、エリザベートとクリスタにはもっと大きなトランクを買おう」

「ありがとうございます、お父様、お母様」

「わたくしとお姉様のトランクはフランツとマリアが使うのですね」

「トランクはお譲りしても構わないでしょう」


 わたくしとクリスタちゃんのトランクはふーちゃんとまーちゃんにお譲りして、トランクを新調してもらえることになった。

 そのトランクはわたくしが学園に入学するときも持って行くかもしれない。クリスタちゃんのトランクはクリスタちゃんが学園に入学するときにも持って行くかもしれない。


 大きなトランクをわたくしとクリスタちゃんは慎重に選んだ。

読んでいただきありがとうございました。

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