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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
六章 ハインリヒ殿下たちとの交流
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23.リリエンタール侯爵家に行くために

 カサンドラ様とお話ししていると、視線を感じてわたくしは周囲を見回した。クリスタちゃんがわたくしよりも先に気付いて手を振っている。


「レーニ嬢ではないですか! 久しぶりです」

「クリスタ様、エリザベート様、弟が少し大きくなったので母が公の場に出られるようになったのです」

「お父様は?」

「父は、弟が可愛いようで、一緒に留守番をしてくれています」


 リリエンタール侯爵は産後の休暇を終えて公務に復帰したようだ。リリエンタール侯爵の夫が赤ん坊の息子と一緒にお屋敷で留守番をしているという。


「弟君の話を聞かせてください。レーニ嬢もお茶をご一緒してもいいですよね?」

「もちろん構いませんよ」

「お話を伺いたいと思っていました」

「ユリアーナよりも小さな赤ん坊がお屋敷で待っているのですね」


 レーニちゃんの話が聞きたいわたくしに、エクムント様もノルベルト殿下もハインリヒ殿下も興味津々だった。

 まずわたくしに持っていたモッコウバラの花冠を渡して、レーニちゃんは微笑んで挨拶をしてくれる。


「エリザベート様、お誕生日おめでとうございます。庭のモッコウバラが綺麗に咲いていたので花冠を作って参りました」

「ありがとうございます。とても美しい花冠ですね」


 受け取った花冠を頭の上に乗せると、モッコウバラの香りがしてくる。モッコウバラには棘がないので、頭に乗せても怪我をすることはなかった。


「弟君のことを聞かせてください」

「弟は名前をデニスといいます。デニスが生まれてからもお父様はわたくしを変わらず可愛がってくれています。デニスはわたくしに似たのか、赤毛なのですよ」


 リリエンタール侯爵もその夫も赤毛ではない。リリエンタール侯爵は金髪だし、夫は確か灰色の髪だった気がする。レーニちゃんの実の父親も赤毛ではなかったので、レーニちゃんの家は赤毛が生まれやすいのかもしれない。

 赤毛といっても色んな色があって、レーニちゃんは輝きのあるストロベリーブロンドだ。レーニちゃんの弟がどんな色なのかわたくしは気になって仕方がない。


「赤毛といっても色んな色があるではないですか? レーニ嬢と同じ色なのですか?」

「デニスは少し色味が濃いです。人参みたいな色といったら分かりやすいでしょうか」

「赤毛だということでリリエンタール侯爵やお父様は何か仰っていましたか?」

「わたくしに似たのだろうと言ってデニスを可愛がっています。わたくしもデニスがわたくしと同じような髪の色でとても可愛いのです」


 髪の色が似ているということでレーニちゃんは弟のデニスくんと親近感を覚えているようだ。姉が弟を可愛がるのはいいことなので、わたくしは微笑ましく見守る。

 レーニちゃんは「ちゃん付け」なので、わたくしはデニスくんは「くん付け」で呼ぼうと決めていた。


「ユリアーナは母上に似ているのです。私が父上に似ているので、私に似なくて少し寂しかったです。レーニ嬢は弟君が似ていてよかったですね」

「はい、わたくしに似ているせいなのか、可愛くて可愛くてたまりません」


 ユリアーナ殿下は王妃殿下に似てプラチナブロンドの髪に青い目だった。ハインリヒ殿下は国王陛下と同じ、黒髪に黒い目だ。

 はっきりと色彩が分かれてしまったので、似ていないような気がしてハインリヒ殿下も残念だったのだろう。


「ハインリヒ殿下はお顔は王妃殿下の面影がありますわ。ユリアーナ殿下とお顔は似ているかもしれませんよ」

「レーニ嬢がそう言ってくださると、ユリアーナがますます可愛くなりますね」


 笑み崩れているハインリヒ殿下も、ユリアーナ殿下のことが話したくてたまらなかったのだろう。


「ユリアーナははいはいを始めました。わたしのことを追い駆けて来るのですよ」

「僕のことも追い駆けてきます。とても可愛いです」

「皆様、さっきから可愛いしか言っていませんわ」


 くすくすと笑うクリスタちゃんも、ふーちゃんとまーちゃんのことをものすごく可愛がっているのが分かっている。わたくしにとってもふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんは大事な可愛い弟妹だった。


「わたくし、考えるのです。リリエンタール家を継ぐのはデニスが相応しいのではないかと」

「どうしてですか!? レーニ嬢は立派なレディではないですか」

「わたくしは実の父に愛されなかった。デニスは両親に愛されて健やかに育っています。わたくしはデニスにリリエンタール家の継承権を譲って、他家に嫁ぐのがいいような気がしているのです」

「レーニ嬢は愛されたいのですね」


 弟のデニスくんにリリエンタール家の継承権を譲ろうと考えているレーニちゃんは、実の父親に愛されていなかったことが深い傷となっているようだった。わたくしはレーニちゃんに真剣に問いかける。


「リリエンタール侯爵になってしまえば、愛してくれる相手と結婚できるかどうかは分かりませんからね。事実、今のリリエンタール侯爵は前の夫と不仲でしたよね」

「そうなのです。わたくし、怖いのです。結婚などしたくない……でも、リリエンタール侯爵となるならば、政略結婚は免れない」

「レーニ嬢、全ての政略結婚が愛のないものではないのですよ」

「それは分かっています」

「それに、国王陛下と王妃殿下のように素晴らしいパートナーとなれることもあります」

「はい……」


 あまり顔色のよくないレーニちゃんにわたくしはそれ以上何かを言うことはできなかった。

 レーニちゃんは思い詰めた表情をしていた。


「リリエンタール家のお屋敷に遊びに行きたいですわ。デニス殿にもお会いしたいです」


 クリスタちゃんの提案にレーニちゃんの表情が明るくなる。


「ぜひ来てほしいです! クリスタ様とエリザベート様にデニスを紹介したいです」

「フランツとマリアもデニス殿と会わせたいですわ」

「それは素敵ですね。小さい子が集まるときっと可愛さが倍増しますわ」


 クリスタちゃんとレーニちゃんは楽しそうに話している。


「私も行きたいですが、無理でしょうね。クリスタ嬢、エリザベート嬢、楽しんで来てください」

「僕も無理でしょう。レーニ嬢のお屋敷に訪問できるといいですね」


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は立場というものがあるのでリリエンタール侯爵のお屋敷には滞在できない。わたくしはレーニちゃんにデニスくんを紹介してもらう計画を立て始めていた。


 パーティーが終わってお見送りのときに、わたくしはエクムント様が辺境伯領に帰ってしまうので泣いてしまいそうだった。

 エクムント様は目に涙を浮かべているわたくしの手を握って、静かにわたくしが口を開くのを待っていてくれる。


「エクムント様、どうかお元気で」

「エリザベート嬢、ご両親の誕生日にはまた来ます。何かあればいつでも手紙をください」

「エクムント様、わたくし、エクムント様に相応しいレディになれるように努力します」

「エリザベート嬢は素晴らしいレディですよ」


 名残惜しくてわたくしはなかなかエクムント様の手が離せなかった。


 お見送りが終わってから、わたくしとクリスタちゃんは両親に話をしていた。


「リリエンタール侯爵のお屋敷に滞在したいのです」

「フランツとマリアも一緒にです」

「リリエンタール侯爵はいいと仰っているのかな?」

「それは、まだ聞いていません」

「お父様とお母様に聞いてから聞こうと思っていました」

「それならば、まずリリエンタール侯爵にお話ししなければいけませんね」


 母がリリエンタール侯爵のところに手紙を書いてくれるというのに、わたくしとクリスタちゃんは提案した。


「国王陛下の生誕の式典のときに、お父様とお母様は王都に行くでしょう?」

「リリエンタール侯爵も王都に行かれると思います。そのときに、子どもだけでお屋敷で待っているのも寂しいので、リリエンタール侯爵のお屋敷に行ってはいけませんか?」

「リリエンタール侯爵の旦那様はお屋敷に残ると思いますので」


 今日の話では、リリエンタール侯爵の夫は赤ん坊が小さいのでお屋敷に残って赤ん坊と過ごしているようだった。恐らく国王陛下の生誕の式典のときにもリリエンタール侯爵の夫はお屋敷に残るのではないだろうか。

 リリエンタール侯爵の夫はレーニちゃんの義理の父親に当たる。レーニちゃんの義理の父親がお屋敷に残っているのであれば、わたくしたちが訪ねても迎え入れてくれるだけの準備はできるだろう。


「そうですね、リリエンタール侯爵と相談してみましょう」

「私たちが王都に行っている間、エリザベートとクリスタとフランツとマリアにもお楽しみがあってもいいかもしれないね」


 護衛の兵士がついていて、お忍びでの訪問であれば問題ないはずだ。

 リリエンタール侯爵と相談してくれるという母に、わたくしとクリスタちゃんは期待していた。

読んでいただきありがとうございました。

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