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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
六章 ハインリヒ殿下たちとの交流
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19.市には行けなかったけれど

 襲撃事件があったので、わたくしたちは市に行くことを断念した。

 その代わりカサンドラ様が市で紙を売っている商人や革細工を売っている商人をお屋敷に呼んでくださって、わたくしたちは外出することなく買い物ができた。


「この紙も素敵。この紙でお花を折ったらきっと綺麗だわ。こっちの紙は箱を作って大きい箱から小さい箱まで順番に入れていったら楽しそう。この紙は物を包むのに使えそうだわ。ダメ、わたくし、選べない!」

「お嬢様、持ってきた紙を全部お買い上げくださっていいのですよ」

「そんな贅沢をしていいのかしら。去年の紙も残っているのに。でも、これは去年の紙と柄が違うし、色も違うし……」


 悩んでお目目がぐるぐるになっているクリスタちゃんに両親が笑って言う。


「全部買ってしまいなさい」

「どれかを買わずに後悔するよりもいい。公爵家の買い物で経済が回っていくのならばそれもいいことなのだよ」

「紙ですから、大した金額ではないですしね」


 両親に背を押されてクリスタちゃんはお財布を握り締めて決めた。


「全部ください!」

「毎度あり! お嬢様、おまけに辺境域で刷られた珍しい紙もお付けしましょう」

「見たことがない模様だわ! とても綺麗!」

「辺境域の部族の伝統的な模様だそうです。刺繍にするらしいのですが、それを試験的に紙に刷ったものです。試験的に作ったので数は少ないのですが、おまけにお付けしましょう」


 おまけまでついてしまってクリスタちゃんは大喜びだった。


「これを切って折ったら封筒も作れるでしょう。これなんて両面印刷ですよ! 裏も表も楽しめる!」


 買い取った紙を一枚一枚見て目を輝かせているクリスタちゃんと、持ってきた紙が全て売れて大喜びしている商人とで、これはとてもいい取引になったのではないかとわたくしは思っていた。


 わたくしは革細工を見せてもらった。

 エクムント様が革の製品を好むというのもあったけれど、わたくしも革のお財布が持ってみたかったのだ。

 お財布を選んでいると、クリスタちゃんもそわそわしている。クリスタちゃんのお財布もわたくしのお財布も刺繍の先生が作ってくれたもので、布製で、そろそろ中身が溢れそうになっていた。


 革のお財布を見ていると、綺麗な青緑色に染められたお財布と綺麗な赤紫色に染められたお財布が見える。


「これ、クリスタとお揃いにしませんか?」

「いいのですか、お姉様?」

「クリスタにプレゼントさせてください」

「わたくし、お誕生日でもないのに」

「わたくしがお揃いにしたいからいいのです」


 お財布二つを指差して値段を聞くと、わたくしが十分に支払える料金だった。


「この二つをいただきます」

「ありがとうございます、お嬢様」

「すぐに使うので包まなくて大丈夫です」

「分かりました」


 料金を払って赤紫色の財布をクリスタちゃんに渡すと、嬉しそうに抱き締めている。


「革は手入れをすると長持ちするんです。おまけにクリームもお付けします」

「ありがとうございます!」


 革を手入れするクリームまでもらってしまった。


 商人たちがおまけまでくれるくらい対応がいいのに驚いていると、同席していたカサンドラ様が説明してくれる。


「この屋敷に出向いてもらう代わりに、対価を支払ってある。その分商人の対応がいいのだろうな」


 商人の待遇をよくしたからわたくしたちにも対応がよくなるなんて、正の循環が出来上がっている気がしていた。わたくしたちが商人を大事にすれば、商人もわたくしたちを大事にする。

 こうして信頼関係を築いて行われる商売というのが一番いいものなのかもしれない。


 商人たちが帰ってからクリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんに折り紙を折っていた。振ると音が出る折り紙で、折り紙の名称は鉄砲だった。


「銃の音でふーちゃんとまーちゃんも怖かったと思うのです。この鉄砲の折り紙の音で紛らわせられるといいと思って作りました」

「ばーん! ばーん!」

「ばーん!」


 鉄砲の折り紙を振って、ふーちゃんもまーちゃんも楽しそうにしていた。


 今回の襲撃事件を受けて、母は考えていることがあるようだった。

 わたくしとクリスタちゃんを呼んで言い聞かせる。


「淑女たるもの、有事の際にすぐに行動できなければいけません。帰ったら、銃撃を受けたときの対処について訓練しましょう」

「わたくしたちも銃を使うのですか?」

「いいえ、クリスタ。銃を使うのは危険です。わたくしたちがするのは、銃を見たらすぐに伏せ、身を隠す場所があれば身を隠し、護衛の兵士が来るまで凌いで、護衛の兵士と共に逃げることです」


 それがどれだけ難しいことなのか、銃撃事件の真っただ中にいたわたくしはよく分かっていた。銃を見ても体が竦んでしまってすぐには伏せたり、物陰に隠れたりするために体が動かないのだ。


「わたくし、銃を見たら怖くて体が動かなくなりました」

「訓練をすればそれもなくなります。銃を見たら反射的に伏せるか、物陰に隠れられるようになるまで訓練をしなければなりません」

「その訓練がわたくしには必要だと思っています。エクムント様の足手まといにはなりたくないのです」

「エリザベート、その心意気です。訓練を頑張りましょうね」


 かつては国一番のフェアレディと呼ばれた母は、銃撃事件があってもすぐに対処を考えるほど心強かった。


「エリザベート嬢が訓練を受けていてくれると、エクムントも助かります」

「カサンドラ様、エリザベートにはしっかりと訓練を受けさせます。クリスタも一緒に、一家で訓練しましょう」

「はい、お母様」

「訓練します。フランツとマリアも一緒にいつでも逃げられるようにしましょう」


 クリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんのことまで考えていた。

 辺境伯家が狙われたということは、その婚約者であるわたくしを狙って公爵家も狙われかねないということになる。

 ふーちゃんとまーちゃんも小さいが両親のお誕生日には毎年公の場に出ているので、訓練は必要だった。


「エクムント様がお姉様に覆い被さったように、いざとなったらわたくし、身を以てフランツとマリアを守ります!」

「クリスタが怪我をしてはどうしようもないのですよ」

「わたくし、フランツとマリアが大事なのですもの」

「フランツとマリアも伏せるくらいのことはできるようになるといいのですが」


 二歳のふーちゃんと一歳のまーちゃんが伏せることができるかは疑問が残る。

 クリスタちゃんは守る気満々だが、守ったクリスタちゃんが怪我をしてしまってはいけない。エクムント様もわたくしを守ったせいで怪我をしてしまって、今は部屋で休んでいる。


「守るためには、フランツとマリアの手を引いて物陰に隠れるか、逃げた方がいいと思います」

「フランツとマリアが怪我をしてしまったら、わたくし、後悔に苛まれますわ」

「そんなことがないように逃げるのです」


 母もクリスタちゃんに言ってくれている。

 ひとを庇うということが自分を危険にさらすのだとわたくしにはエクムント様の件でよく分かっていた。


「クリスタ、一緒にフランツとマリアの手を引いて逃げましょう!」

「はい、お姉様」


 わたくしが重ねて言えば、クリスタちゃんはやっと納得していた。


「ディッペル家も何があるか分かりません。エリザベート嬢のお誕生日は特に警戒してください」

「小銃を持ち込んでいるか調べるのはとても無理ですからね」


 小銃はその名の通り小さい。

 女性が持ってくるパーティーバッグの中にでも、男性が着ている上着の内ポケットの中にでも、隠し持てる大きさなのだ。

 それをいちいち入口でチェックするのも大変だ。


「警備兵には十分警戒をさせます」

「入口で持ち物チェックも行わせてもらいましょう」

「辺境伯領で銃撃事件があったと知れれば、持ち物チェックに文句を言うものもいないでしょう」

「皇太子殿下も来られるパーティーですからね」


 両親はカサンドラ様にしっかりと会場の警備をすることを示していた。


 わたくしのお誕生日にはエクムント様もカサンドラ様も来てくださるだろう。だからこそ、厳重に警戒しなければいけないのだとわたくしは気を引き締めていた。

読んでいただきありがとうございました。

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