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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
五章 妹の誕生と辺境伯領
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29.クリスタちゃんのお誕生日プレゼント

 ふーちゃんのお誕生日とクリスタちゃんのお誕生日は非常に近い。

 ふーちゃんが生まれた年にはクリスタちゃんはお誕生日のお茶会をずらしたくらいである。


 クリスタちゃんは自分のお誕生日のお茶会をとても楽しみにしていた。

 ハインリヒ殿下とお手紙でやり取りをしているようなのだが、その中でノエル殿下の話が出てきたのだ。


「ノエル殿下は、学園の新学期のためにこの国に残っているそうです。わたくしのお誕生日に来て下さるおつもりなのだとか」


 わたくしのお誕生日には隣国に帰る日程があったためにノエル殿下は出席されなかったが、クリスタちゃんのお誕生日には出席するつもりでいるというのはクリスタちゃんにとってはいい知らせだった。

 クリスタちゃんはノエル殿下と詩で分かり合えている。ノエル殿下はクリスタちゃんのことを本当に可愛がってくれているのだ。


 この国にいて、出席できる日程であったからクリスタちゃんのお誕生日に招待されてくださるノエル殿下に、わたくしも楽しみな気分が半分、どうすればいいのか分からない気分が半分だった。


 クリスタちゃんとノエル殿下は詩作で分かり合えているのだが、わたくしにはその詩の意味がよく分からないのだ。詩を理解しようと思っても、色んな疑問が残ってしまう。

 恋の妖精さんだとか、愛の天使だとか言われても、わたくしにはよく分からない。

 芸術というものはわたくしには難解なようだった。


「ノエル殿下が来て下さるといいですわね」

「わたくし、ノエル殿下にお会いしたいです」


 ノエル殿下にお会いするのは、昨年は母の出産があったためハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日に出席していないので、去年のクリスタちゃんのお誕生日以来ということになる。

 ノエル殿下も隣国の王女という立場なので気軽に出かけることはできないし、わたくしとクリスタちゃんもこの国の唯一の公爵家の娘なので自由にどこにでも行くことはできない。

 去年は一度も王都に行っていないので、ノエル殿下と会えていないのも仕方のないことだった。


 わたくしのお誕生日のときには、ノエル殿下は来てくださろうとしたのだが、どうしても隣国に帰らねばならずに、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が、ノエル殿下がとても残念がっていたのを伝えてくれた。

 わたくしもノエル殿下にお会いしたかったので残念に思っていた。


 ノエル殿下はわたくしよりも三歳年上だが、気取ったところがなく、心優しくて、ノルベルト殿下ととても仲がよくて、素晴らしい方なのだ。

 わたくしがノエル殿下の詩を理解できればいいのだが、それはわたくしに芸術的センスがないのだからどうしようもない。


 お誕生日のドレスを選ぶクリスタちゃんは本当に楽しそうだった。


 そんなわたくしとクリスタちゃんに残念なお知らせもあった。


「リリエンタール侯爵とレーニ嬢はリリエンタール侯爵が妊娠しているので大事を取って出席できないと返事があったよ」

「レーニ嬢からエリザベートとクリスタにお手紙をいただいています。とても残念に思っているようです」


 リリエンタール侯爵もお産が近くなっているのだろう。大きなお腹ではお茶会に参加するのは大変であるし、レーニちゃんがクリスタちゃんのお誕生日に来られないのは仕方がないことだった。


 父と母から手紙を受け取って、わたくしとクリスタちゃんはそれを読んだ。


『エリザベート様、クリスタ様。

 この度はクリスタ様のお誕生日のお茶会を欠席することをお許しください。

 パウリーネ先生と母が話をして、産み月が近いので無理をすることがないようにとの判断で、欠席させていただくことになりました。

 わたくしはエリザベート様とクリスタ様にお会いしたかったです。

 クリスタ様、お誕生日本当におめでとうございます。

 わたくしが見付けた四葉のクローバーを押し花にして手紙に入れておきます。

 クリスタ様にいいことがたくさんありますように。

 レーニ・リリエンタール』


 丁寧に書かれた手紙には、四葉のクローバーが押し花になって栞にされているものが入っていた。わたくしは栞をクリスタちゃんに渡す。


「四葉のクローバーなんて、なかなか見つからないものを、レーニ嬢はわたくしのために探してくださったのね。お礼のお手紙を書かなくちゃ」

「わたくしもレーニ嬢にお手紙を書きます」


 わたくしの部屋の机に椅子を並べて、クリスタちゃんと二人でレーニちゃんにお手紙を書いた。


『レーニ嬢。

 クリスタのお誕生日に来られないのはとても残念ですが、お母様がご無事に過ごせることを願っています。

 クリスタに四葉のクローバーをありがとうございました。なかなか見つからない四葉のクローバーをもらって、クリスタはとても喜んでいました。

 レーニ嬢もお姉様になるのです。そのときにはお祝いをさせてくださいね。

 レーニ嬢の弟君か妹君が無事に産まれてきますように。

 エリザベート・ディッペル』


 便箋に手紙を書いて封筒に入れると、書き終えたクリスタちゃんも一緒の封筒に便箋を折って入れていた。


「お姉様、お礼に折り紙を入れておくというのはどうでしょう?」

「いい考えだと思います」


 クリスタちゃんと一緒に綺麗な紙を切って、小さなハートの形に折ってそれを四つくっ付けて、四葉のクローバーを作ってわたくしとクリスタちゃんは封筒の中に入れた。


 レーニちゃんが来られないことはとても残念だが、レーニちゃんの弟か妹が無事に産まれるのをわたくしは願うだけだった。


 クリスタちゃんのお誕生日のお茶会には、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下が来てとても豪華になった。

 新学期のためにこの国の残っていたので来られただけという形にしているが、ノエル殿下はもしかするとクリスタちゃんのために春休みにわざとこの国に残ったのかもしれない。

 それだけクリスタちゃんを可愛がってくれているノエル殿下には感謝しかなかった。


「ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下、ノエル殿下、わたくしのお誕生日にいらしてくださって本当にありがとうございます」

「お招きいただきありがとうございます。クリスタ嬢にプレゼントがあるのです」

「わたくしからもプレゼントがあります」

「ハインリヒとノエル殿下がプレゼントをすると聞いていたので、僕からするのは差し出がましいかと思って、遠慮させていただきました。すみません」

「嬉しいですわ、ハインリヒ殿下、ノエル殿下。ノルベルト殿下はお気になさらないでください」


 王族からあまりプレゼントをもらうのも誤解されそうでよくないと、ノルベルト殿下は遠慮してくださったようだ。ハインリヒ殿下がプレゼントを用意しているし、ノルベルト殿下はノエル殿下と婚約しているのでクリスタちゃんにプレゼントを渡すのは確かに微妙だった。

 その辺りをきちんと弁えているからノルベルト殿下は王族としてやっていけているのだと思う。


「プレゼントはこれなのですが、開けてみてくださいますか?」

「ピンクの薔薇のネックレス! ハインリヒ殿下、とても嬉しいです」

「クリスタ嬢に付けて欲しいのです。私に付けさせてくれますか?」


 ハインリヒ殿下からもらった箱を開けて目を輝かせるクリスタちゃんに、ネックレスを手に取って、ハインリヒ殿下がクリスタちゃんの後ろに回る。クリスタちゃんは一つの三つ編みにされた髪を押さえて、ハインリヒ殿下にネックレスを付けてもらっている。


 金色のチェーンにピンクの薔薇の飾りのついたネックレス。首に付けてもらったクリスタちゃんは、頬を薔薇色に染めてネックレスに手を当てている。


「わたくしの欲しいものがどうして分かったのですか?」

「分かったのではないのです。私が贈りたかったのです」

「嬉しい……。ハインリヒ殿下本当にありがとうございます」


 仲睦まじく話すクリスタちゃんとハインリヒ殿下に、ノエル殿下が咳払いをする。ノエル殿下からクリスタちゃんに渡されたのは、小さな本だった。


「これは詩集ですか?」

「そうです。わたくしの大好きな詩人の詩集を取り寄せました」

「隣国の言葉で書かれていますね。わたくし、勉強して読めるようになりますわ。ありがとうございます」

「クリスタ嬢も詩がお好きだと聞いたのでプレゼントしたかったのです」


 本当はもっと早くに渡したかった。

 そう言うノエル殿下は、一年もクリスタちゃんに会えなかったのを本当に残念に思っていたようだった。


「ハインリヒ殿下、ノエル殿下、クリスタにありがとうございます」

「エリザベート嬢、わたくし、エリザベート嬢にもプレゼントがありますのよ」

「わたくしにですか?」


 ノエル殿下から手渡された小さな本に嫌な予感はしていた。


「エリザベート嬢のお誕生日には来られなかったので、用意していたのですが、渡すことができなかったのです」

「ありがとうございます。これは、詩集ですね」

「そうですわ。エリザベート嬢にも詩のよさを分かってほしくて。それに、クリスタ嬢とは別の詩集なので、二人で貸し合えたら読み合えるのではないかと思ったのです」


 やはり詩集だった。

 わたくしは詩のことはよく分からない。

 この詩集がわたくしの理解できるものなのか、わたくしは不安になっていた。


読んでいただきありがとうございました。

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