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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
五章 妹の誕生と辺境伯領
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23.パウリーネ先生の行き先

 まーちゃんとふーちゃんにハインリヒ殿下とノルベルト殿下が歩み寄ると、わたくしとクリスタちゃんもまーちゃんとふーちゃんのいる一画に移動していた。

 泣いていたまーちゃんだったが、わたくしとクリスタちゃんの顔を見ると少し泣き止む。

 抱っこしてあやしていたレギーナが明らかにほっとした表情をしているのが分かった。


「マリア、お姉様が来ましたよ」

「ハインリヒ殿下とノルベルト殿下に可愛いお顔を見せてあげてくださいね」


 クリスタちゃんとわたくしで話しかけると、マリアが涙を拭いてもらってじっとハインリヒ殿下とノルベルト殿下を見詰めている。

 ハインリヒ殿下はマリアを初めて見るはずだ。指を差し出すと、マリアがハインリヒ殿下の指をぎゅっと握る。


「ユリアーナよりもずっと大きい。ユリアーナも私が指を出すと握ってくれるのです。それが可愛くて可愛くて」

「妹ができてハインリヒは嬉しくて堪らないのですよ」

「ノルベルト兄上もでしょう? ユリアーナの部屋に日に何度も行っているではないですか」


 ハインリヒ殿下の妹のユリアーナ殿下はお兄様たちに愛されているようだ。


「にぃに?」

「そうなのですよ、フランツ殿。私は兄になったのです」

「ふー、にぃに」

「フランツ殿と同じですね」


 兄になったことが嬉しくてふーちゃんにまで自慢しているハインリヒ殿下が微笑ましい。

 わたくしがふーちゃんのおもちゃの中から絵本を取り出して読むと、ハインリヒ殿下もノルベルト殿下もクリスタちゃんもまーちゃんも聞いているのが分かる。

 ふーちゃんは絵本が終わるまで敷物の上に座って聞いていて、絵本を読み終わると「もいっちょ!」と人差し指を立ててもう一回と強請って来た。

 もう一回同じ絵本を読んで、ふーちゃんの髪を撫でてその場を離れる。丸坊主にされていたふーちゃんの髪は少し伸びて来て可愛くなっていた。


「ふーちゃ……わたくし、フランツが可愛くて可愛くて」

「分かります。もしかして、クリスタ嬢はフランツ殿をふーちゃんと呼んでいるのですか?」

「それは、お姉様と二人きりのときだけの秘密なのですが、ふーちゃんと呼んだ方が可愛い気がして」

「それ、とてもいいですね。私もユリアーナをゆーちゃんと呼びたい」

「ハインリヒ、気持ちは分かるけど、公の場でぽろっと出てしまうかもしれないから控えた方がいいよ」

「ノルベルト兄上と二人きりのときだけにします」


 ハインリヒ殿下に甘えられてノルベルト殿下は抵抗できないようだった。ノルベルト殿下にとってもハインリヒ殿下は可愛い弟なのだろう。


「レギーナ、別室でマリア様のオムツを見て、ミルクをあげてきてください」

「はい、ヘルマンさん」

「わたくしはフランツ様のお茶をご用意します」


 レギーナがまーちゃんを連れて席を外すのに、クリスタちゃんがヘルマンさんに近寄って行く。


「ヘルマンさん、わたくしもフランツとお茶をしてもいいですか?」

「クリスタお嬢様がそうされたいのならば」

「お姉様も、ハインリヒ殿下も、ノルベルト殿下もご一緒しましょう」


 声をかけるクリスタちゃんに、後ろから肩を叩く少女がいる。

 レーニちゃんだ。


「わたくしもご一緒していいですか?」

「もちろんです、レーニ嬢!」


 会場の大きなテーブルに陣取ってわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとノルベルト殿下とハインリヒ殿下はふーちゃんとお茶をすることになった。

 ふーちゃんのための椅子は用意されているので、そこにヘルマンさんが座らせて軽食やケーキを取ってくる。

 冬なので熱々のミルクティーもふーちゃんの手が届かないところに置いて少し冷ましている。


 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとノルベルト殿下とハインリヒ殿下もそれぞれにケーキと軽食を取って、席に着く。

 わたくしが飲み物を給仕に頼むと、ハインリヒ殿下が誇らしげな顔でいるミルクティーを頼んでいた。


「私は紅茶を克服したのです」

「ミルクを入れれば平気になっただけだよね」

「ノルベルト兄上、そう言わないでください」


 ノルベルト殿下ににこやかに言われて、顔を赤くしているハインリヒ殿下が同じ年ながら可愛らしい。クリスタちゃんもハインリヒ殿下を可愛いと思ったようだ。


「わたくし、市で買い物をしました。綺麗な模様のある紙を買いたかったのですが、金貨一枚でお店の紙を全部買い占められてしまったのです」

「クリスタ嬢は買い物をしたのですね。私はまだ自分で買い物をしたことがないです。支払いは全て母上か父上がやってくれています」

「いい経験をなさいましたね」

「その紙で。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下に折り紙を折って差し上げますわ」

「それは嬉しいです」

「楽しみにしておきますね」


 市の話で盛り上がっていると、レーニちゃんがもじもじとしながら発言する。


「わたくし、自分で買い物をしたことはありませんが、母に頼んで庭に植える花を選んだことはあります」

「自分で売っている場所に行って選んだのですか?」

「そうです。母と護衛が一緒でしたが、とてもワクワクしました」

「レーニ嬢もいい経験をなさっていますね。僕も買い物に行ってみたいものです」


 身分が高くなればなるほど自由というものがなくなる。

 わたくしとクリスタちゃんも市を貸し切って、一般人を追い出してしか買い物ができなかったが、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が買い物をするときにはもっと大変かもしれない。


 前世ではジャージ姿でコンビニに行けていたのが、今は護衛付きで一般人を全員締め出してからでないと買い物の一つもできない。しかも、渡されたお小遣いは店一つの品物を買い占めるくらいの金額がある。

 本当に前世とは全く違うのだとわたくしは実感していた。


「母は将来領地を治めるのならば領地のことを知っておかねばならないと、わたくしを色んな場所に連れて行ってくださいます。リリエンタール侯爵領でわたくしは花の苗を買いに行ったり、人形の服の布を買いに行ったりしています」


 レーニちゃんは侯爵家の令嬢なので、王家のハインリヒ殿下とノルベルト殿下、公爵家のわたくしとクリスタちゃんよりは自由が利くのかもしれない。リリエンタール侯爵の教育方針もあるだろう。


 ふーちゃんが素手でサンドイッチやケーキを掴んでもぐもぐと食べている中、わたくしたちは談笑していた。

 ふーちゃんが食べ終わった頃に、国王陛下が両親に話しかけているのを見て、わたくしはそちらの方に行った。


「王妃のお産も無事に済んで、パウリーネ先生にディッペル公爵領に戻ってもらおうかと思っているのだが」

「その件ですが、考えていたことがあるのです」

「パウリーネ先生にはそのまま、リリエンタール侯爵のところに行ってもらうというのはどうでしょう」


 パウリーネ先生の経験や技術をディッペル公爵領で埋もれさせるのはもったいない。まーちゃんも順調に育っているし、次にパウリーネ先生を必要としているのはリリエンタール侯爵ではないのかと両親は考えたようだった。


「わたくしも考えておりました。このままディッペル公爵家に戻っていいのかと」

「リリエンタール侯爵はどうお考えですか?」


 妊娠しているがレーニちゃんを連れて両親のお誕生日に来てくれたリリエンタール侯爵は話を聞いて驚いていた。


「そんな高名なお医者様をリリエンタール領に派遣していいのですか?」

「わたくしはカサンドラ様からディッペル公爵家に行くように言われたときに、考えてはいたのです。もっと大きな視野で、たくさんの妊娠している方の力になれないかを」

「リリエンタール領に来た後は、次の妊娠している方のところに行くのですね」

「はい、それがわたくしの望みです」


 レーニちゃんのお母上のリリエンタール侯爵のお産にもパウリーネ先生が付き添うことになる。それはお産がより安全になるということでわたくしには喜ばしいことだった。


「王妃殿下のお産も手伝ったパウリーネ先生がお母様のところに来て下さるのね」


 レーニちゃんも嬉しそうにしている。

 レーニちゃんの弟か妹も無事に産まれてくればそれほど嬉しいことはない。

 わたくしはパウリーネ先生の決意を尊敬していた。

読んでいただきありがとうございました。

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