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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
五章 妹の誕生と辺境伯領
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22.ドレス改革

 両親のお誕生日には国王陛下も出席する。

 わたくしはドレスを新調しなければいけなかった。去年のもので入ると思ったのだが、ところどころきつくなっていたし、丈が合わなくなっていた。クリスタちゃんも同様である。

 わたくしとクリスタちゃんのために仕立て職人さんが呼ばれて、新しいドレスを注文することになった。

 ドレスというよりもワンピースに近いような丈とデザインのものを示されて、わたくしとクリスタちゃんは両親の顔を見る。


「床近くまで丈のあるドレスでなくてもいいのですか?」

「このドレス、衿があります。こんなドレスでもいいのですか?」


 両親に聞いてみれば両親は王都での流行を教えてくれた。


「モダンスタイルと言ってこういうのが最近の流行みたいなんだ」

「隣国で流行っていたのがノエル殿下がこの国にいらしてから、この国でも流行るようになったのです」

「モダンスタイル!」

「素敵だわ! わたくし、このドレスを着たい」


 大人たちはこぞってこのスタイルのドレスに変えていると聞く。女性のドレスの流行が変わるときが来ているのだとわたくしは胸がわくわくする。

 この世界では古いヨーロッパの歴史を感じさせるドレスが社交界では流行っていたが、その流行が変化する歴史に立ち会っている。


 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』ではドレスのデザインは変わっていた気がしないので、ノエル殿下とノルベルト殿下の婚約が早く決まってから歴史が変わったのだろう。

 こんなところまで変わって来るとはわたくしには驚きだった。


 新しいドレスは丈が脹脛の半ばで、それに編み上げのブーツを揃えるなんてこともできる。

 正直これまでのドレスは素敵ではあったのだが、古臭いイメージが抜けていなかったので、モダンスタイルのドレスにわたくしは夢中になってしまった。

 クリスタちゃんもドレスのデザインは新しいものを選んで嬉しそうにしている。


「コルセットも古臭くなりましたね。わたくしはもうコルセットはつけないようにします」


 母がコルセットを付けない決断をしてくれたのも嬉しい出来事だった。母は父の両手で持てるくらいにウエストを締めていたが、それが健康にいいとはとても思えなかった。

 妊娠と出産の期間はコルセットを外していて、出産後にそろそろコルセットを付けようという時期にドレスの改革が起きたのは本当によいことだった。


 コルセットを付けなくても母はほっそりとして、背もすらりと高いので見た目はとても美しい。母も新しいドレスを注文していた。


 男性の服がスーツになっているのに対して、女性の服があまりにも格式ばったものだったので、温度差を感じていたが、これで男性も女性も同じ、古臭さを感じさせない格好になる。

 新しいドレスの仕上がりがわたくしはとても楽しみだった。


「エクムント殿は新しくスーツや燕尾服を仕立てているようだよ」

「来年には辺境伯家に行かねばなりませんからね」


 エクムント様も辺境伯家に行くことを意識してスーツや燕尾服を仕立てている。エクムント様には父から十分な給料は支払われているが、それでは足りないだろうから、辺境伯家から援助がされているのだろう。


 元々キルヒマン侯爵家の三男で、騎士となるときに仕える家がなくて両親が相談を受けたエクムント様は、辺境伯家の養子になって、残り一年ディッペル家で学ばなければいけないが、それが終われば辺境伯家に行ってしまう。


 寂しいような、エクムント様が地位を得て嬉しいような、複雑な感情が胸で絡み合う。

 黙っているわたくしに父が肩に手を置く。


「エクムント殿がいなくなると寂しいかもしれないが、毎年、エクムント殿の誕生日には辺境伯家に行こう」

「そうですわ。クリスタも市に行かねばならないでしょう」

「はい、わたくし、あのお店に新しい紙が仕入れられていないか見に行くのです」


 クリスタちゃんは辺境伯領の市に心を奪われている。わたくしも市に行って今度は布や糸を見たかった。


「フランツもマリアも大きくなったら市に行くのです。わたくし、フランツとマリアの手を引いてあげます」

「それだとクリスタの両手が埋まってしまうのではないですか?」

「そうだわ! お姉様と一人ずつにしましょう」

「そうしましょう」


 優しいクリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんの手を引いてあげると言っているが、それだとクリスタちゃんの両手が埋まってしまって身動きが取れなくなってしまう。特に小さな子は別々の方向に行きたがるものだ。クリスタちゃんは困ってしまうだろう。

 助け舟を出すとクリスタちゃんはそれに乗って来た。

 クリスタちゃんに手を握られて、小さい頃にクリスタちゃんがわたくしの手を握って来たのを思い出す。


 クリスタちゃんの手は小さかったが、今はそれなりに大きくなって、華奢で美しく育っている。


「エリザベートとクリスタとフランツとマリアと市に行ける日が来るのでしょうか」

「きっと来るよ。そのときには護衛をたくさん連れて行かないとね」


 両親もふーちゃんとまーちゃんの成長を心待ちにしているようだった。


 両親のお誕生日はお茶会形式で行われた。

 ふーちゃんもまーちゃんなど、小さな子どものいるディッペル家では晩餐会までパーティーを開くのは難しいという考えからだった。

 ふーちゃんとまーちゃんのために大広間の一画に敷物が敷かれて、おもちゃが並べられて、ベビーベッドもレギーナが座る椅子も用意されている。


「レギーナ、マリアがあまりに泣いてしまうようなら、一度別室に下がっていいですからね」

「はい、奥様」

「その判断がつきにくいときには、ヘルマンさんに聞いてみるといい。私たちはヘルマンさんに判断を任せるよ」

「わたくしでよろしければレギーナの力になります」

「よろしくお願いします、ヘルマンさん」


 貴族の出身であるヘルマンさんはこういうときにも頼りになる。レギーナが判断ができない場合にはヘルマンさんに聞くように両親はレギーナに言っていた。


 ふーちゃんとまーちゃんは先に大広間の会場に入って、遊びながらひとが増えて来るのを見ている。まーちゃんはオモチャを持って舐めていたが、知らないひとが近付くと泣いてしまっていた。


 まーちゃんにも人見知りが始まっていたのだ。

 まーちゃんはよく見知ったひとたちの中で育てられているので、人見知りが始まっていることにわたくしも気付いていなかった。


「ようこそいらっしゃいました、国王陛下。ユリアーナ殿下の誕生、誠におめでとうございます」

「ありがとう、ディッペル公爵。ユリアーナも王妃も今日は来られないが、ディッペル公爵夫妻の誕生日をお祝いしていたよ」


 言付かったという手紙を父は国王陛下から恭しく受け取る。国王陛下は泣いているまーちゃんと、お目目をくりくりさせておもちゃを握り締めているふーちゃんのところに歩いて行った。


「フランツ殿とマリア嬢か。フランツ殿は大きくなったな。マリア嬢は元気な声でこんなに泣いて。大きな声が出るということは、肺が丈夫なんだろうな」

「国王陛下に泣き声を聞かせてしまってすみません」

「気にすることはない。私もノルベルトとハインリヒとユリアーナの父だ。赤ん坊がよく泣くことは知っている」


 泣いていても咎められることなく、まーちゃんは国王陛下に優しい視線で見守られていた。


「あんな小さな子をパーティーに連れ出すなんてディッペル公爵はどうされたのだろう」

「子煩悩にもほどがある」


 陰口を叩いていた連中も、国王陛下が大らかにふーちゃんとまーちゃんの存在を許しているので、何も言えなくなってしまう。


「クリスタ嬢、ご両親のお誕生日おめでとうございます」

「ハインリヒ殿下! 父と母が今年も元気にお誕生日を迎えられてわたくしもとても嬉しいのです」


 ハインリヒ殿下は一番にクリスタちゃんのところに駆け寄ってしまってから、国王陛下に注意されている。


「こういうときは、ディッペル公爵と公爵夫人にご挨拶をするのが一番だ」

「申し訳ありません、父上。クリスタ嬢に会えてあまりにも嬉しくて」


 謝ってから、ハインリヒ殿下は、両親に挨拶しているノルベルト殿下に合流する。


「ディッペル公爵夫妻、お誕生日おめでとうございます」

「夫婦でお誕生日を一緒に祝えるなんて素敵ですね」

「わたくしも夫も冬生まれですからね」

「別々に祝ってしまうと、国王陛下のお誕生日もあるので、冬に祝い事が多すぎますからね」


 あまりにもお祝いが多すぎると出席者を考えなければいけないし、パーティーをするディッペル公爵家の負担も倍になる。それを考えて両親は合同でお誕生日を祝うようにしているのだろう。


「フランツ殿もマリア嬢もとても可愛いです」

「ユリアーナが生まれてから、私は小さな子がより可愛くおもえるようになりました。フランツ殿とマリア嬢にもご挨拶していいですか?」

「どうぞ、挨拶してやってください」

「マリアは人見知りで泣いていますが、お気になさらずに」

「はい!」


 泣いているまーちゃんとおもちゃを持って挙動不審になっているふーちゃんの方へ歩み寄ったハインリヒ殿下とノルベルト殿下は、二人に優しい視線を向けていた。

読んでいただきありがとうございました。

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