3 .タウンハウスに着いたけど
「やっと着いたわね」
「いやー、王都だけでも広かったですね」
「ね…お祭りをやっているせいか道も混んでたし、王都だけでこんなに時間がかかるなんて」
「この時期って王都でお祭りなんてあったっけ?」
「本当ですね。建国祭も生誕祭も違う時期でしたよね?何か特別なお祭りでしょうか?私、産まれも育ちもバルディリス領なので疎くて」
確かにアリーは生粋のバルディリス領民だ。魔物に遭遇率する危険性が高いため武道や魔法に長けていることや、寒冷地のため身体的な色素が薄い。それがバルディリス領民の特徴だ。
馬車が止まったので窓を覗くと、門番が御者と話しているのが見えた。ついに王都のバルディリス家タウンハウスの門をくぐり抜けた。1年ぶりのタウンハウスだ!
「エルレナお嬢様お帰りなさいませ」
屋敷に着くとタウンハウスの執事のクインが出迎えてくれた。
そしてその隣りには威厳ある方が。
「お祖父様!お久しぶりです」
お祖父様(前バルディリス辺境伯)だ。
「エルレナお帰り。長旅ご苦労であったな」
「いえ、大したことはございません」
いえ、めちゃくちゃ疲れました。心の中でつぶやく。
「元気に帰ってきて良かった。ゆっくり部屋で休むがよい。積もる話は夕食のときに聞かせてくれ」
「お祖父様も元気そうで何よりです。夕食楽しみにしております」
何でもお見通しのお祖父様は、休むことを促してくれた。
「ではエルレナ様、お部屋にご案内いたします」
「ええ、お願いするわ」
クインが案内してくれるので、エルレナ達は後に続いた。
「ユージン様いらっしゃらないみたいですね」
アリーがボソっと小さな声で呟いた。そんなに会いたかったのか。そしてお祖父様に気を取られていて、ユージンお兄様がいないことに今気づいた。
「クイン、ユージンお兄様は?」
「ユージン様は本当はエルレナ様をお出迎えする予定日だったのですが、皇太子殿下から連絡があり朝一で登城されております」
「忙しいのね」
「殿下に厚い信頼を頂戴しているようですよ」
「それは誇らしいことだわ」
「エルレナ様もこの度は殿下の妃候補に選ばれまして、私も鼻高々でございます。エルレナ様とユージン様を産まれた時から見ておりますが、お2人共ご立派にお育ちになられて」
クインはお祖父様が次期辺境伯の頃から仕えてくれている。お祖父様が隠居してタウンハウスに移った時にも、こちらに移って働いてくれてくれているのだ。
こうしている間に私の自室に着いた。
「夜には前当主様とユージン様と夕食の予定があります。ではエルレナ様、夕食までゆっくりお休み下さいませ。侍女が迎えに参ります」
クインはお辞儀をして退出した。
「アリーももう下がっていいわよ。今日はもうゆっくり休んで」
「はい、ありがとうございます。もう限界でした。また明日からよろしくお願いします」
明らかに疲労困憊のアリーにも下がってもらうことにした。
タウンハウスの自室は1年前の何も変わっていなかった。ホコリもチリ1つないし、換気された匂いがする。ずっと綺麗に管理してくれていたんだろう。
1年前、私はこの部屋で泣いて過ごしたんだったな。今回はその悲しい思い出を楽しい思い出に変えれるはずだ。
とりあえず夕食まで少し時間がある。少しベッドで休もう。
ガチャ
ノックもなくドアが急に開いた。
「エルレナ悪い悪い、出迎えに間に合わなかった」
騒がしくユージン兄様が部屋に入ってきた。私、寝ようとしてたんだけど…。
「兄貴に内緒で!ちゃんと出迎えろよって通信があったけど、出迎えてないのバレたら怖いし」
「それよりもノックぐらいはしてよ。着替えてたらどうしてくれるのよ」
「ごめんごめん」
軽く謝られた。そこに反省はあるのだろうか。
「エルレナ、本当にクロードの妃になるつもりなのか」
ユージン兄様が珍しく難しい顔をして言った。そして侍従にも関わらず、殿下のことを呼び捨てにしているらしい。もしかしてお兄様、とんでもなく打ち解けてる?
「本気よ。」
「王城にはクラウスも出入りしてるぞ。お前、普通に接することができるのか?」
「当たり前じゃない。この1年でクラウスに対する感情なんて消えたわ。皇太子妃になるために頑張ってきたもの。」
「オッケー。じゃあ今回の妃候補の選抜の詳しい話は夕食の時にしようぜ」
食事しながら作戦タイムだ。