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サファイアの洞窟


サファイアの洞窟を抜けると佐々木歯科がある。サファイアの洞窟はあと1時間で海水に閉ざされる。サファイアの洞窟は長い。

 水面には、太陽を映した光の道が伸びている。

入り口は海に通じており、太陽光の線はそこから繋がって、オレンジ色に揺れて、洞窟の奥へと続いている。

ほんのり明るい、光の誘導路である。この光が坑道を照らす灯りになってくれているのだが、それもだんだん、先の方から縮み始めている。

外で太陽が沈み始めたのだ。

色も淡くなってきている。巻き尺を巻き取るように、太陽が光の道を巻き取りながら、世界の裏側に消えようとしているのだ。

私は前を向く。見える限りの深部は、もうほとんど闇に包まれている。壁を覆うサファイアの燦々とした輝きも、光の届かない奥地では、暗く静まりかえっている。

気になってしまう。今日の満潮は日没と同時だ。だからどうしても、水面に映るこの太陽光の線が、だんだん縮んでゆくのが気になってしまう。この太陽の線が消えたとき――つまり夜になったとき、洞窟内は海水で埋まっているということになる。そうなったら最後、私は暗く閉ざされた水中で溺れ死んでしまうのだろう。

 体も無意識のうちに、水位の上昇に反応しているようだ。いつの間にか頭を低くして、天井のサファイアに当たらないような姿勢をとっている。

 ふと後ろを向いてみる。入り口の光がかなり遠くにある。もうあそこまで引き返す時間はない。戻っている途中で水位は限界に達するだろう。先に進むしかない。

 太陽光の線の先端を超え、更に洞窟の奥へと進む。輝きの弱まったサファイアは、壁や天井だけではなく、水底からも私を睨んでいる。この洞窟には、私と、サファイアと、水しかいない。重苦しい青に包まれた世界を、漕ぐ。

「意味を考えなさい」

 予約の電話を入れたとき、佐々木院長は言った。

「ぼくがあなたを作ったこと、サファイアの洞窟の出口に歯科があること。すべてぼくが意図した構図です。その意味を考えれば、きっと抜けられる」

津波が流れ込んできたのは、洞窟に入っておよそ2時間が経った頃だ。空間を圧する不気味な轟音に、再び後ろを向いた瞬間にはもう、私はゴムボートごと飲み込まれていた。

 何がなんだか分からないまま押し流され、体がめちゃくちゃに回転する。

 もがきながら薄く目を開けると、四方を囲むサファイア達が、洞窟内を虹色の輝きで満たしていた。まるで万華鏡のように移ろい続ける、魔法のような輝き――。

 気がついたとき、私は検診台に横たわっていた。

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