イカロス、森を焼く
ファフロツキーズ――怪雨。空から魚やカエルなどあり得ないものが降ってくる現象。
それを食べるという『天森』は、絶えぬ台風によって空に浮かび、風によって地上を巻き上げ、養分にしている。
おかげで富士山は段々小さくなり、スカイツリーはお粗末な棒になった。
今までに世界中の色んな人が養分にされた。人類の文化的進歩を40年止めた異常気象にして異常地象と言われている。
天森は糞をしない。養分の分だけ肥大してゆく。今日は日本の東北くらい大きくなって、地球に巨大な影を堕としている。
天森が現れてから、世界中である気象現象が少なくなっていった。ファフロツキーズである。
喰って堕としも吐きもしないのだから、当然だ。天森は、ファフロツキーズという存在を食べているのだ。
――僕は天森を焼くために国際結社に入り、訓練を積んだ。
最終作戦決行の夕方。街のモニターには、世界総合リーダーが映り、撮影場所の丘の上からみんなに告げた。
「科学訓練に絶え、鉛の身体を手に入れたぼくたち。ぼくたちは天森の養分になる。天森を核の炎で焼くわけにはいかない。天森は地上の森を吸いすぎた。地球で人間が人間的生活を営むために必要な植物の光合成量の必要不可欠なパーセンテージを担っている。消滅させるわけにはいかない。森は堕とすしかない」
ぼくは頷いた。その理屈を分かってはいる。
「鉛を吸わせて堕とすのだ」
瞬間、世界各地の若者たちが、背中のジェットに点火した。
夕空を隠す天森へ向かって、一斉に飛ぶ。
何人かは互いにぶつかり合い墜落した。それだけじゃない。天森が種の銃弾を飛ばして妨害してくる。
僕は何発かくらいながらなんとか森の中に入った。中はびっしりと花や草でいっぱいだった。まるで火葬寸前の遺体みたいだ。
中核に向かわなくてはならない。茨と鋭い葉がぼくの身体を引き裂いてゆく。密度が凄まじい。世界中の森の力を結集した密度だ。
こんなとき力をくれるのはなんだろう。
ぼくは全身の力を解き放ちながらその根源を考える。
そしていつの日か優しい夕方に、食べ放題に行った事を思い出した。
――暗い宇宙のような場所に出た。巨大な根が、深海を泳ぐ孤独な獣のようにのっぺりと佇んでいる。既に100人近くの同胞が根と同化しかけている。
ぼくも根に横たわり、目を閉じた。
彼の根源が伝わってくる。海底の空気ある洞窟に天森の故郷はあった。
ぼんやりとした優しい思い出だ。
そうだ。いっしょにそこにまた潜ろう。
ぼくたちは熱くなっていった。エネルギーを蓄えながら沈んでいくのだから熱いのだ。
どこか、故郷の海へ向かって、熱く眠るのだ。




