状況
ラピスラズリ色の戻れない旅
「命はお金に換えられないが、値段をつけて売る人はいる」
ブロッククラフトゲームで作られた経済圏の衰退期。
フィナーレ――物語を終えてしまう事での「最終売却」のカウントダウンが発動する。
それは、物語を終えてデータを閉じてしまうことで、最後にして最大の関心を集め、稼いでから店じまいしてしまおうという権利者達の目論見である。
もちろん、売却によって不利益を被る立場の人々も存在する。例えるなら、ワールドカップの決勝を最後に全てのプロサッカーチームを解体してしまおう、という話と同じ。もしサッカー全体の人気が落ち込んで、この先の収益化が難しい未来が予想されるのであれば、いっそ全部おしまいにしてしまった方が稼げる。
当然そんな事をすれば、反発も生まれる。
反対派の抗議活動をよそに、「終末のゲート」が建設されていく。
そしてカウントダウン発動と同時に、ゲーム世界の役者として育てられた日本に住む計10万人が、声明を発表した。
「4800時間以内に「ラピスラズリ色の戻れない旅」が建設されなければ、私たちは日本国籍を捨て、G20(G7のもっと多国版)の日本以外の国に特別労働者として移住します」
それはつまり、奴隷として他の国に自らの意思で向かう宣言だった。
自由意志による移住の宣言だからと、受け入れの態度を示す国も表れる。
10万人は、ゲーム世界の「王者」の命令に従い、その宣言をした。
しかし、全員が本気で移住しようと思っているのではない。ネット上で宣言をすることが、課せられた「ミッション」であり、それをこなす事でゲーム内での立場を保っただけである。
とりあえず宣言をしてしまって、もしもの時には、もうゲームをやめてしまえばいい。
しかし、ゲームの世界を現実として生きることが「高評価」に繋がる評価社会で、そのために幼少期より教育を受けた人々が存在する。
彼らの中には、完全に価値観が逆転しているプレイヤーもいる。
そのレベルに達するのに必要なのは、才能や努力や環境である。
そこまでゲームに入り込めるほどに――高評価を得るための環境を整えられるのは、有力者の身内に多かった。金と社会的地位が入学に必要な学校があるように。
ゆえに、政府中枢が声明を無視できない理由もそこにあった。
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10万人の中のうち、価値基準がゲームよりに逆転している人間はおよそ1万人。
そのうち、日本政府が無視できないレベルの有益者の身内は126人。
さらにその中でも有力者が「何事に変えても失いたくない」と思う人間は13人。
このたった「126人・13人」のために、政府にとって10万人の嘘は無視できないものになった。
当然、フィナーレの停止を望む有力者が活動を始めるが、ブロック世界の権利は世界中に散らばっているので、強権を発動することはできない。(外国の金持ちが持ってるエリアとかがたくさんある)
そもそも日本の中にも売却が利益になる者は存在するので一枚岩でもない。
サーバーを落として解決しようとか、ハッキングしようとか、元が1つのセーブデータなんだからそこを抑えちゃおう、としても、そもそも「声明」の内容があくまで「建設されなかったら」だから意味がない。
ゲームがなくなったら、建設できないのだから。
そして「ラピスラズリ色の戻れない旅」がいったい何なのか?どうすれば建設成功と見なされるのか?については、1人のプレイヤーが審判する。
しかもその審判は、既にこの世にいない創設メンバーしか知らない。
「旅」はパラメーターではなく人間が目視で決めてるので、ハッキングしても分からない、ということ。
(ブロックの世界が城や山に見えるのは、それをそう見たいと思う人達がいるから)
ゲーム内のルールに従って冒険するしかない状況が、既に思想戦に敗北している。
空想の世界が現実を脅かすことが、作中劇の「物語」にとっては既に勝利に相当している。
残された手段は「120人の説得」か、「ラピスラズリ色の戻れない旅」を完成させること。




