原風景
細い道の両脇に並ぶ二つのコンクリートの柱。
校門と呼ぶには簡素なそれを通り抜けて数百メートル。
小川を二つ越えた先。
右手には金次郎が見守る校庭。
その奥に広がる田畑。
左手に現れる木造の校舎は
打ちっぱなしのコンクリートで繋がる二棟の教室棟と体育館でできている。
池には鯉が。
中庭にはチャボが。
体育館の天井付近に巣を構える燕。
私の個性はあそこに置いてきた。
私が持っていたはずのやる気や興味や能動的な部分は、
きっとあの場所に取り残されていた。
根拠のない自信と。
理屈のない正しさ。
違うことを否定され、
違うことを笑われ、
見下されていた。
少なくとも私はそう思っていた。
些細な、大人からしたら何でもないような言葉の数々は、
同じ学年の中でも更に幼い私には酷く強く突き刺さっていた。
短くとも純粋に笑っていた頃。
いつの間にか、輪の中にありながら一人取り残されていた。
私のオリジンはあそこに居るのだ。
あの場所で独り泣いているのだ。
叫んでいるのだ。
ありのままを受け入れて欲しかった。
ただ一言、誰かが認めてくれればよかった。
そんな想いを抱えたまま、幼い私の亡霊は、
今もあの場所で凍えているのだ。
ぼろぼろだった木造校舎はもう、影も形もないけれど。
もう何もなくなった場所で当てもなく彷徨う幼子を、私はまだ、迎えにいけないままだ。