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信号機とのコミュニケーション
「この距離で信号機って必要?」
と思いつつ、赤色に光っている信号機と私は向き合っている。
自動車の気配は明らかにない。音も聞こえない。
5秒程で渡れる距離を私は待っている。
後ろから向かってきた二人組は、信号機を気にせず通り過ぎて行った。
その一人が私の方を振り向き、目が合った。
「なんであの人待っているの?」
と思われたように感じた私はすぐに信号機に目を移す。
信号機はまだ赤い色のままだ。
「お前も一生懸命仕事してるんだよな」
その時なぜかこの信号機が愛おしく感じた私は、心の中でつぶいた。
そんな心の呟きを投げかけた所で、青色に光り始めた信号機。
「待ってくれてありがとう」
「気をつけていってらっしゃい」
「青色ではなくて緑色な」
もし信号機とコミュニケーションが可能ならば、
どのような返答があっただろうかと想像し、私は歩き始めた。