一番前の席に座って得することってあるんですか?
何かを始める時は「期待」と「不安」
があるものだと誰かが言った。
私にとってはその始まりが今日だ。
自動車学校の入校式。
今まで学校の入学式などは経験してきたが
この入校式は今までとは一味違う。
「大人への階段」であると私は勝手に思っている。
セミが至る所で鳴いている季節の学校は
夏休みの時期なだけあって
部屋いっぱいに人が集まり
同じように至る所でミンミンと鳴いている。
入校式の受付を済ませ
会場である部屋に入ったが
来るのが遅かった。
パッと見た感じだが
一番前の席しか空いていなかった。
仕方なくその席に座らざるを得なかった。
しばらくすると
サングラスを掛けた太った先生が入ってきた。
このような格好の人は洋画でしか見たことがない私は
期待と不安のバランスが崩れ
「不安」が強くなる。
「はい。じゃあ入校式始めますー」
先生は淡々と説明していく。
今まで経験してきた入学式となんら変わらない。
注意事項や今後の流れなどが
前のスクリーンに表示され
それを説明していくだけ。
なんだこんな感じか。
先生も毎回説明するのが可愛そうだなと思えた私は
再び、、、
期待と不安の均衡が保たれた。
「はい。じゃあー次ね」
先生は資料を手に持ち言った。
「えーと今日二輪で来られた方、この資料取りに来てー」
私は迷わず立ち上がる。
一番前の席だったこともあり
すぐに取りに行くことができた。
なんの資料だろうと迷いながら近づき
先生が資料を手渡してくれるの待った。
先生と見つめ合う時間。
先生は何かを迷っているのか。
見兼ねた私は口を開く。
「今日、自転車で来ました!」
先生は私のはっきりとした発言に
驚きを隠せていない様子だ。
「あっ」
あっという口をした先生。
そうそう。
私は自転車で来たんだよ。
早く資料をくださいな。
「・・・そういうことではないよ」
先生のその言葉を聞いて
私の脳が高速に働き始める。
「あっ」
今度は私のあっという口。
そのあと漏れるように「すみません」と言った。
あっという口をキープしたまま席に戻る。
先生の言った「今日二輪で来られた方」
これは二輪免許取得のために来た人のことであり
学校にチャリで来たという意味ではない。
均衡が崩れる。
「期待」は行方不明。
「不安」しかいない世界に染まる。
そのたくさんの不安が私に言う。
「この部屋の人たちに今の聞かれたでしょ?笑」
この教室いっぱいのセミは
私のミンミンではなく
全く意味のわからない
ゲロゲロみたいな鳴き声を聞いたであろうか。
いや・・・
「聴こていないよ」
今度は「期待」がそのように言ってくれた。
不安に染まった世界に一筋の光が差し込む。
そうだ。
私は一番前の席に座っている。
視界に入るのはサングラスの先生。
これが仮に後ろの席に座っていたら
コソコソと私を見る人たちが視界に入ったかもしれない。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫
「期待」が私を救ってくれた。
一番前の席に座って得するということは、、、
「こいつはできる」と
先生や周りの人たちにアピールができる?
いや違う。
前の文字がよく見える?
いやこれも違う。
何か失敗した時に自分を騙せるということ?
うん。これがしっくりくる。
失敗恐れる諸君。
一番前の席に座るのだ。
さすれば仮に失敗した時に最小限に抑えることができる。
・・・かもしれない。