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あやかし新聞社  作者: 文月 優
こずえの願い
28/35

 ◇



「雅人くんおはよう。今日は珍しく起きるのが遅かったんだねぇ?」

「うん、なんかうまく寝付けなくって……」


 まぶたが重い。体もだるいし、頭が働かない。

 昨日はほとんと眠れなかった。色々と考えていたら、目がぱっちり冴えてしまったのだ。

 眠れなかった理由は、こずえのことだ。

 昨日会ったこずえの後ろ姿が妙に目の裏に焼き付いて離れず、やっと眠りに落ちたかと思えば、夢の中でもこずえは登場し、彼女はずっと泣いていた。ごめんなさいと連呼しながら、泣きじゃくっていた。

 僕が手を伸ばそうとしても、彼女は実体のないお化けのように、僕の手は空を切るだけ。彼女はそこにいるのに、触れることも叶わないのだ。ただ泣いて謝る彼女を見つめるだけの僕は、なんだかものすごく惨めだった。


「ばーちゃんは先に食べたけど、鍋にお味噌汁もあるし、ご飯は炊飯器の中にあるから。あとは適当に昨日の残り物が冷蔵庫に入ってるからお食べ。ばーちゃんちょっと今から畑に行ってくるからよろしくねぇ」

「うん、行ってらっしゃい」


 ばーちゃんは相変わらず忙しなく家を出て行った。ばーちゃんは畑仕事もある意味で趣味なのだ。もちろんじーちゃんがいた頃、畑仕事は本当に”仕事”だったから楽しみも何もなかったのだとばーちゃんが言っていた。今は好きなものを好きな量だけ育てているのだと言うから、キヨさんとは違ってばーちゃんはなんだか毎日充実しているように見えた。


「そういえば凛花ちゃん、今朝のあやかし新聞はもう読んだかな?」


 みーこさんが小学一年生の凛花ちゃんでも読みやすいようにと、なるべくひらがなを多く使い、読みやすいように文字もブロック体に変えて新聞を一から作成していた。

 凛花ちゃんの箇所を追記するだけと言っていた割に、書き始めたら全てやり直すという作業に入っていた。あまり文字を追加する場所がなかったのと、文字があまりに小さくなると掲示板までの距離が遠い、背の低い凛花ちゃんが見えづらいんじゃないかと考慮してのことだった。


 みーこさんは本当にどこまでも気遣いができる女性だ。

 キヨさんにもらった大根のぬか漬けを白ご飯とともにいただきながら、ぼーっとした頭でどうでもいい事ばかりを考えていた。

 キヨさんは今日も来ると言っていたが、どうだろう、とか。このぬか漬けものすごく美味しいし、バリンバリンといい音がなるな、とか。今日の天気予報はどうだったっけ、とか。

 眠さのあまりついつい頭がぼーっとしてしまうが、それでも何かを考えて脳を忙しくしなければならなかった。

 そうしなければ現在役立たずな僕の脳は、隙を見てこずえのことを考えようとするからだ。


「さて、神社に行くか」


 のそのそと立ちあがり、大きく伸びをする。一日ちゃんと寝なかったくらい正直僕は慣れている。大学時代はオールナイトで友人と飲みに行ったり、社会人になってからは仕事で帰りは遅く、納期前には家に帰ってからも仕事をしていたせいで、あまり寝れない時などよくあった。

 それでもこれだけ体のだるさを感じることはなかったのだが、これが歳を重ねると言うこのなのだろうか。まだ言っても20代、それは早すぎないか? と思う反面、田舎に来てから毎日規則正しく生活していたせいで、少し眠れなかったでけでも体に響いているのかもしれない。

 ひとまずばーちゃんの料理に感謝をしながら食器を洗い、洗面所で身だしなみを整えてから家を出た。


「今日も暑そうだな」


 燦々と輝く太陽を睨みつけるように見上げて、その力強い日差しに僕は簡単に屈した。寝不足の時に太陽を見上げるものではない。目がもげるかと思うほどの何かの圧を目の奥に感じ、両手で顔を覆う。

 今日はダメな日だな。なんて僕らしくもなく後ろ向きな意見が脳裏をよぎる。

 けれど日課である散歩は欠かさないと決めている。それでなければ僕はこの田舎で廃人と化すからだ。

 することがあるわけでもなく、家でグータラしていると忙しくしているばーちゃんに後ろめたい気持ちになる。畑仕事を手伝ったこともあるが、元々オフィスワークで培ってしまった体は簡単に悲鳴をあげた。部活で鍛えた体など、とっくの昔にリノベーションしてしまっていたようだ。

 いつもの道のりをのろのろと歩く。足を引きずるように歩いていると、いつもより時間がかかってしまい、喉がカラカラだ。神社に着いたら水を一杯もらおう。


 そんなことを思いながら、僕は豊臣神社に到着した。

 昨日みーこさんが書き直していたあやかし新聞を横目に階段を上がろうとした、その時だった。


「……ん?」


 何か違和感を感じた。視界に入っただけで中身を確認していないが、何かが違和感だった。

 階段の一段めにすでに片足をかけていた僕は、あの古びた掲示板の中を確認しようと、階段にかけた足を一歩後ろへと下げた。

 僕が目を凝らして見ているのは、今月の神社である行事内容でも、一般的な今月の占いでも、一口メモ的な部分でもない。凝視するのは、依頼された内容から占い調べた結果の部分だ。



・キヨさんが探している万年筆は仏壇の引き出しを探してみるといいでしょう。その中にお探しの万年筆は入っています。


・凛花ちゃんがみじかいきかんで良いせいせきを得るのは大変ですが、がんばることが大事。そうすれば良いけっかが得られるかもしれません。そしてみーちゃんのことは、けっかが悪かったとしても、きちんと別れのあいさつはすること。


・幸せを願う女性へ、あなたの願いは叶います。すぐに訪れるでしょう。



「……幸せを願う、女性?」


 それって……もしかして……。

 まどろんでいた瞳はカッと見開き、僕は慌てて階段を駆け上がった。昨日と同じで一段飛ばしで。なんなら途中もどかしくなって二段飛ばしをしながら。誰も見てないこの場所で僕は新たなスキルを披露した。

 ……けれど無理をしすぎたようだ。階段を上りきる前に、僕のエネルギーは底をついた。急な階段を上りきったところで僕は、ぜぇぜぇと息を荒げながら、膝に手をついて肩を大きく揺らした。

 ちょうど僕がいつでも吐けると思うほど、体力をそぎ落としていたその時だった。


「今日は特段にひどい顔をしているな」


 疲れた体に沁みる、冷たい一言。冷たい言葉なのに、僕の火照った体をさらに上昇させるとは……。今の僕は寝不足と階段を駆け上がってきた疲れと、さらにこの暑さで簡単に怒りのスイッチは入るのだ。

 普段温厚と呼ばれるクールな僕でも、今だけはそうはいかないぞ。


「お前、自分で言っていて虚しくならないのか?」


 僕が顔を上げると、手が届く範囲に左右が立っていた。いつも僕に向けて尖らせている左右の瞳は、現在全好調に僕を蔑んで見ているではないか。

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