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「ねえフローレンス」

「はい。どうかなさいましたか?」

「最近フレッドとは、どうなの?」


 恋話。

 以前よりフローレンスと護衛のフレッドは恋仲にあった。

 きっかけは同じ屋敷で共に働いていたという、社内恋愛的なものだったらしい。

 しかし、最近、二人の恋人同士ぽいところを私は見ていない。故に現在二人の仲がどのような状況になっているのか私はとても気になっていた。


 フレッドは私を襲撃した者の情報を集めるためにラスティと王都に出向いている。

 相手はエドガー子爵。

 恐らく、かなりの長丁場になると予想される。

 そんな中、フローレンスにフレッドとの関係を聞いたのは完全に狙ってのこと。

 フレッドがいない今、万が一にもフローレンスの気持ちを彼に聞かれることはない。

 そう、話しやすい環境下にフローレンスはいる。


「長らく会えてないけど、寂しかったりする?」

「いえ、それほど寂しいということはありませんよ。フレッドはお嬢様の護衛です。仕事で屋敷を長期的に空けることだって今までも多々ありました。それに屋敷にいる間、フレッドは周りに悟られないようにこっそりプレゼントを送ってくれたりするんです」

「そうだったんだ」

「はい。彼は目立つのが苦手みたいで、会いにきてくれるのも皆んなが寝静まってからなんですよ」


 なるほど。

 夜にこっそりと会っていれば、フローレンスとフレッドの仲良しな光景を見れないわけだ。

 私はまだ幼いし、そこまで夜更かしが得意な方ではない。

 フローレンスの説明に合点がいった。

 二人の仲を最近は少し心配していたけど、杞憂だったようだ。


「そう、それなら良かった。最近フローレンスとフレッドが一緒にいるところを見ないから喧嘩でもしているんじゃないかと思ってた」

「喧嘩なんてしませんよ。屋敷内で彼と不仲になればお嬢様を始めとした多くの人に迷惑を掛けます。公私混同はしないつもりでいますけど、私も人間ですからそういう諍いがあるとやはり業務に支障をきたす可能性がありますからね」


 なんともドライな返答。

 恋人よりも仕事優先……仕事が恋人みたいなことを言い張っているフローレンスには感心すらしてしまう。

 でも、そういう仕事に対してストイックなところがフレッドに気に入られたのかもしれない。何事にも全力で取り組む姿勢は見ていてとても気持ちがいい。フローレンスにはそういう気持ちにさせてくれるような真っ直ぐなところがある。


 私も少しはフローレンスを見習おう。


 さて、フローレンスとフレッドの恋愛状況の確認は済んだ。良好ということでいいでしょう。

 

「聞きたいことも聞けたし、フローレンス、私たちも彼らに混ざりましょう」


 スッキリした気分のまま私は四人の方へと歩みを進めようとする。当然フローレンスが着ている服の裾は掴んだまま。

 歩き出そうと足を踏み出すが、微動だにしないフローレンスはむしろ首を横に振り、私の腕を掴む。

 

「駄目です。アルみたいな頭のおかしなやつと戯れるなんて、お嬢様に悪影響が及ぶに決まっています」


 随分と辛辣な……。


「でも、護衛任務の時とかでアルとは何度も話してるし」

「仕事中はいいですけど、プライベートな時にアレと関わるとろくな事になりません! ほら既に犠牲者が……」


 はて、犠牲者?

 

 相変わらず元気なアル、そしてアルの積極的過ぎる姿勢にも動じずに外に出れたことを純粋に楽しそうにしているルルハ。

 ……ああ、なるほど。

 犠牲者というのは、こめかみを抑えて困り果てているイヴァとアルをサンドバッグにし過ぎて息切れしているルルカの方ね。

 ルルハもアルの暴走を上手く受け流してやっているのだから、二人がそこまでアルを制止しておかなくてもいいと思うけど……多分、二人は言ってもやめないだろう。

 公爵家の護衛という立場の者としてお父様の威厳を守るため。大事な妹に触れさせないために二人はアルの行動に頭を悩ませ続けることだろう。難儀なものだ。


 でも、それだと私が犠牲になることはない。

 私はアルの暴走を止めることはしないし、むしろ受け流して、島流しにする。

 フローレンスは何の心配をしているのか?


「えっと、私は大丈夫じゃない?」

「大丈夫ではありません。アレは頭の悪い犬と同じです。気に入ったものにはひっきりなしに戯れたくなる生き物なのです! あのルルハさん? みたいにお嬢様にも毒牙が及ぶと思うと、私はお嬢様をあの魔境に放り込むわけにはいかないのです」


 あっ、フローレンスの言っている犠牲者ってルルハのことだったのね。

 ルルハは上手く立ち回っているように見えるから、そこまで犠牲とは思わないけど……いや、というか逆に楽しそうだからいいのでは?


 私のことはともかく、アルと話している時のルルハの笑顔が眩しい。

 幸せそうなあの表情。

 アルとルルハ、実はお似合いなのではないか。密かにそんなことを考えるのだった。

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