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「本当にいいのか?」

「いいのよ」


 困惑したようなルルカとルルハ。

 理由は私が二人を外に連れ出したからである。

 とはいえそれも屋敷の敷地内。流石にそこから外に出すわけにはいかないので、それで我慢してもらおうと考えている。

 地下牢での生活。

 それを長く続けるのは相当なストレスになる。

 適度な息抜きも必要、そして二人を口説き落とすためにも飴は少し多めに与えておいた方がいいと考えての行動でもあった。


「ほらルルハっち、早く行こうぜ」

「わわっ、そんな急がなくても」


 ルルハの手を引くのはご機嫌なアルだった。


「おいアル、あまりはしゃぐな」

「ルルハに変なことしたら殺すからな?」


 その後ろをゆっくり追うのは頭を抱えたイヴァとご立腹な様子のルルカだ。


 イヴァとアルもルルカ、ルルハの監視役ということで同行してくれている。ついでに暇そうな顔をして、執務室で作業をしていた使用人も何人か連れ出した。

 たまには大人数でひなたぼっこをするというのも悪くないものである。

 

「お嬢様……あの二人は本当に出してしまって良かったのですか。お嬢様の命を狙った方ですよね?」


 侍女のフローレンスはルルカとルルハを見据えながら苦言を呈した。

 確かに私を襲ってきた二人だが、もう害はないと見ていれば分かる。それに……。


「大丈夫よ。それに、もし私の身が危うくなったらフローレンス、貴女が守ってくれるのでしょう」

「それはそうですが……。はぁ、お嬢様は少し優しすぎます」

「そんなことはないと思うけど」

「そんなことがあるのですよ。少しは自覚してください」


 ここで雇っている使用人は、ほとんどが闇の魔力を有した元平民上がりの者はかりだ。

 数年前から、闇の魔力を持ったものが虐げられているということで、各地で暮らしに困っている者や差別され、肩身の狭い思いをしている者……主に闇の魔力を持った平民の子を保護してここで雇うようにしてきた。

 保護にはラスティや私の頼れる護衛の方々が出向き、私はお父様を必死に説得していた。

 フローレンスは四年前にうちの屋敷に来た。

 当時はこんなにはっきりと意見するような性格ではなく、体はアザだらけでほとんど口を開かないような感じだった。


 あれから四年。

 フローレンスはすっかり屋敷の使用人として馴染み。

 私が何か危ないことをするたびに注意してくるようになった。心配してくれてのことと分かっているから、それ故に私はフローレンスのお説教を甘んじて受け入れていた。

『お嬢様、何をしているんですか! ベランダから飛び降りなんて今後は絶対にやめてください』

『お嬢様、護衛も付けずに出歩かないでください。お嬢様の身に何かあったら悲しむ人が沢山いるのです』

『お嬢様、好き嫌いはよくありません。野菜も食べてください』

『ベッドに飛び込むのはやめてください。もっと淑女らしい行動を……』


 ……今思い返すと、フローレンスには沢山苦労を掛けてきたと実感する。


「フローレンス」

「はい」

「ありがとうね」


 そう告げると、フローレンスは首を傾げる。


「何に対してのものですか?」


 ……だめだ鈍過ぎる。


「今まで私のそばにいてくれてありがとうってこと。フローレンスがいつも私の隣にいてくれて、本当に毎日楽しかったから。それに今も心配してくれたし」


 この先どんなことがあってもこの屋敷の使用人達のことは私にとって大切な存在だろう。

 何故今こんなことを言ってしまったのか、少し気恥ずかしくなり私はフローレンスから目を背けた。

 そして、ルルハとルルカの方へと目を向ける。


「ルルハっち、マジで可愛いんだけど!」

「そ、そんなことは……」

「おい、それ以上うちの可愛いルルハに近づくな。焼き殺すぞ?」


 アルったら……。


 思いがけず見たくもない光景を目に入れてしまった。アルは後で叱っておかなければいけないわね。

 案の定、ルルハの頭に触れようとしたアルはルルカの鋭い蹴りによって吹き飛ばされていた。忘れていたが、ルルカとルルハは王国の近衛騎士団に入れるくらいの実力を持っているんだった……。

 イヴァはルルカによくやったと言わんばかりに何度も頷いているし、これじゃあどっちが監視役なのか分からなくなってくるわね。

 

「ふふっ、楽しそうですね」


 フローレンスは私の横立って、ルルカ達の方を見る。

 確かに、とっても楽しそう。

 アルはともかく、イヴァの方も意外と馴染んでいる。

 そして、イヴァとルルカは物凄いオーラを放ちながらアルの奇行を監視していた。時折二人で会話をしているのはアルをどうやって大人しくさせるかみたいなことを話し合っているのだろうか。

 けど、アルの陽気な対応をルルハは思いの外受け入れているような態度を見せている。


「でも、イヴァとルルカは大変そうね。ルルハはアルと楽しそうにしてるけど」

「あのお二方を名前で呼んでらっしゃるのですか?」

「ええ。ルルカとルルハ、誤解は解けたし今の二人との関係は悪くないわよ」


 むしろルルハとはよく話すようになった。

 ルルハ、ルルカとの衝撃的な出会いから、そろそろ一週間が経とうとしている。

 ルルカ、ルルハは地下牢から出されて、今は屋敷の一室で暮らすまでに待遇を改善。

 監禁状態をやめて、軟禁状態へと移行させた。

 相変わらず、イヴァ、アルは監視役として二人につくことになっているけど、すっかり打ち解けたみたいで毎日楽しそうに過ごしている。


 そして、打ち解けたのは私も同じでルルハとは屋敷内ですれ違うたびに声を掛けられる。

 ほとんどはここでの生活が楽しいだとか、姉であるルルカの話を聞かされる。


「ルルハっち、綺麗な貴女に僕はもう一目惚れしちゃったよ。一生僕の隣にいてくれないかい?」

「死ね、このミジンコがぁ‼︎」

「ぐへぇっ‼︎」


 ……確かにあの光景を見ている分には楽しいと言えなくもない。

 アルが完全にルルカのサンドバッグと化しているのは仕方ないとして、そのやりとりを控えめに眺めているルルハはとても幸せそうな顔だ。


「アルは懲りないわね」

「以前まではお嬢様にアレの矛先が向いていたんですよね……。本当に困った男です」


 ルルハの監視役になってから、アルの私に対する過度なアピールは確かに減った。

 ルルハには悪いけど、できればそのままアルの猛烈なアタックに付き合い続けていてほしい。私の身代わりとして!


「アルの相手は大変だもの。ルルハさんには同情するわ」

「お嬢様に同意ですね」


 賑やかな四人の様子を眺めていて、私はふと思い出す。

 せっかくの息抜き、フローレンスと話したいことができた。

 状況把握も兼ねて、今聞いてしまおう。

 ちょっぴり意地悪な笑みを浮かべ、私はフローレンスの服の袖をわざとらしく摘むのだった。

 

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